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さて、今日は「ハマキョウレックス事件」とか「長澤運輸事件」とかと呼ばれる最高裁判決の話です。これは今年の6月1日に判決があったかなり最近の裁判例です。

特に介護事業所の経営者は関係するところの多い話だと思いますので、その概略だけでも知っておいた方がいい話でしょう。

この判決の話は、実は前からこのブログで是非ともご紹介したいと思っていた話です。少し長くなりますが、お付き合いください。

この判決は「労働契約法第20条」の話です。

なんだか難しそうだと思いましたか?簡単にいえば、非正規雇用と正規雇用というものに、適当に差をつけるようなことはしてはいけないという話です。

非正規雇用と正規雇用というのが混在するのが常態の介護事業所では、この話はぜひとも知っておいていただきたい話です。

今回と次回の二回に分けて、この「ハマキョウレックス事件」の最高裁判決の話をしていこうと思います。

 

さて、まず「ハマキョウレックス事件」の「ハマキョウレックス」って、ご存知でしょうか?

ハマキョウレックスというのは物流を主な事業にしている上場企業です。

2018年3月決算では、連結ベースで売り上げが103,476百万円、経常利益で9,516百万円となっています。

物流の会社さんであること、そして全国規模で展開する比較的大きな会社であることはまず前提として押さえておきましょう。

 

その上で、このハマキョウレックス事件で今回の裁判で問題となった労働契約法第20条は次のように書かれています。

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

 

文章にするとわかりづらいかもしれません。

要するに、期間の定めがあるのとないのとで、給与や福利厚生などで不合理な差を付けてはいけないという話です。

では、ここでいう不合理な差というのは何なのでしょうか?

裁判で争われたものまさにその点です。

 

その前に、この話の大前提として、「業務の内容は責任の程度に差がない」ということがあります。正規雇用と非正規雇用とで、ほぼ同じ業務に従事していること。これが前提にあります。まずはこれを頭に置いておきましょう。

 

確かに、正規雇用の場合、転勤や出向する可能性はあります。全国にある支社に転勤する可能性があります。一方で、非正規の場合、原則、転勤はありません。また、責任ある地位に就くのも正社員です。非正規が責任のある地位に就くことはありません。その意味での差はあります。しかし、この会社の主な事業は物流です。物を運ぶ仕事です。物を運ぶという意味においては正規雇用と非正規雇用とで差は生じません。もちろん現場と事務方とでは差はあるでしょうが、基本的には「物を運ぶ仕事」において大きな差はないというのがあります。

そうした状況で、たとえば通勤手当を正規雇用には支給する一方で、非正規雇用には支給しないとしたらどうでしょうか?

確かに正規雇用と非正規雇用とでは責任の程度に違いがあるのは分かりますが、非正規雇用の人だって通勤します。それに対して、どこに住んでいようが通勤手当は支給しないというのは、「合理的」と言えるでしょうか?

また、たとえば、皆勤手当もそうです。休みなくきちんと出勤した場合に支給する手当で、まじめに働くことを奨励する手当です。これも正規雇用と非正規雇用とで支給するしないを分けるのは「合理的」と言えるでしょうか?

 

今回のハマキョウレックス事件の最高裁の判断は、こうした差は労働契約法第20条で言っている「期間の定めのあるなしで合理的とは言えない差を付けてはいけない」という部分に具体的に踏み込んだ判断をしています。

 

具体的には、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当といった項目について判断をしています

 

あまり詳しく書いていくと、法律上の難しい話になってしまうので、極力、理屈っぽい部分はこのブログでは書きません(そもそも我々実務家は、法律上どうという点ではなく、実務上、どう対応していくかが問題なので、その点に絞って書いていきます)

 

結論としては、上記の各手当のうち住宅手当は正規雇用と非正規雇用とで差を付けているのは不合理ではないとしました。ですが、残りの無事故手当、作業手当、休職手当、皆勤手当は、正規雇用と非正規雇用とで差を付けるのは合理的ではない、つまり、労働契約法第20条に違反するとしました

 

裁判で重要なのはその理由です。なぜそういう結論になったのかです。

そうした結論になったのは、手当の趣旨です。〇〇手当として支給している手当がどういう趣旨で支給されているのか。最高裁はそこに注目しました。

たとえば、無事故手当というのがありました。これは、優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得が大きな目的で支給されている手当です。

安全な輸送に正規雇用や非正規雇用は関係ないですよね?だから否定されたわけです。

 

また、作業手当というのも同じです。作業手当はこの会社では、特殊作業に対して支払われる手当としていました。しかし、実際には、正規雇用には一律に月額1万円が支給されており、実質的な意味合いがないことから、正規雇用と非正規雇用で差を付けてはいけない手当だと解釈されました。

 

給食手当は、従業員が休憩時間中に取る食事の補助として支給されているものということでしたが、これも非正規雇用であっても食事はとるので、否定されました。

 

皆勤手当や通勤手当も同様の趣旨です。

 

一方で、住宅手当は正規雇用と非正規雇用とで差があっていいとしたのはなぜでしょうか?

これは、正社員については配置転換で違う支社に行ってしまうことがあるから、としています。非正規雇用は基本的に転勤はありません。一方で、正社員は転勤があります。だから、住居の部分について手当に相違があってもそれは合理的な理由と言える、としています。

 

このように、この裁判例でわかるのは手当というのはどういう趣旨で支給されているのか、ということが大事だということです。

 

また、もう一つ、住宅手当や給食手当について、会社側は「住宅の費用の援助や福利厚生を手厚くすることは有能な人材確保に不可欠」という主張をしましたが、この主張は退けられています。

よく正規雇用との差を設けている理由に「有用な人材の確保」とか「正規雇用は長期雇用を前提にしている」とかいった理由を挙げることがあります。私も何度となく聞きます。しかし、これらの理由ではダメだといっているわけです。合理的な理由というのは、住宅手当のような差を設けているのに訳があるようなものです。そうでなく、設けている差はダメだといっています。

 

ハマキョウレックス事件の判決の要旨、おわかりいただけましたか?

 

また、たとえばこれらの項目について、もし無効とした場合、正規雇用と同じ手当の金額を支給しないといけないのか、という問題もありますが、難しくなりますのでちょっとその話は置いておきます。

 

では、この判決を受けて、会社側はどう対応していったらいいのかについて、次回は書いていこうと思います。


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