今日は前回に引き続き、退職金規定の話です。
中小企業の退職金規定はどのようなものを作ったらいいのでしょうか?
中小企業の場合、退職金規定は、企業の外部にお金を出す形と、自社で運用する形に大別されます。では、外部に運用するものにはどのようなものがあるのでしょうか。
- 中小企業退職金共済
- 特定退職金共済制度
- 厚生年金基金
- 確定給付型企業年金制度
- 確定拠出型企業年金制度(401K)
- 生命保険
こんなところがあがるでしょう。
今日は、まずは順番にこれらの制度の概略を掴んでおきましょう。
1.中小企業退職金共済(中退共)
この制度は中小企業の退職金制度に多く導入されている制度です。
特徴はとてもわかりやすいことです。
月額5,000円から30,000円の範囲で企業が掛け金を全額負担します。払った掛け金は全額損金(個人事業は必要経費)となります。
企業にとっては運用責任がないというのがもっとも大きな特徴です。掛け金を支払えば企業側の退職金の準備の必要はありません。
ただ、この制度の弱点は、従業員の退職事由にかかわらず本人に退職金が支払われる点です。従業員側に問題があって退職した(解雇した)場合であっても、原則として中退共から本人に支払われます。
この点を嫌がって中退共の加入を躊躇される社長さんが多いのも事実です。
私は、この点があるので、たとえば入社3年目以降の社員について加入させるなどしたらどうかと提案しています。一般的には、入社年数が短い(1年とか2年未満)社員に問題が起こるケースが多いためです。完全には防げませんが、これである程度、問題のある社員に対する退職金の支払いという問題点が解消されるのではないかと思います。
もう少し詳しいことをお知りになりたい方は、私の以前のブログを読んでみてください。↴
2.特定退職金共済制度(特退共)
この制度は中退共に似ているため、よく比較されます。
違うのは、この制度を運用しているのは民間の生命保険会社である点です。中退共は運用主体が独立行政法人勤労者退職金共済機構という国に近い組織であるのと比較される点です。
また、掛け金は1,000円から30,000円となっていて、中退共よりも細かく設定できます。
細かい点に違いがあるとはいえ、似た制度と言えます。
特退共の利用の仕方として、中退共だけだと退職金の額が少ないので、上乗せという意味合いで特退共も加入するというケースが多いです。
3.厚生年金基金
意味合いとしては厚生年金の上乗せです。俗に、1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金というのに対して、厚生年金基金は3階部分などと呼ばれます。ただ、厚生年金基金自体が整理統合されていることや、2024年4月1日までに厚生年金基金自体が廃止されることになっていることなどから、現状でこの制度を選択する中小企業は大変少数派です。
現在、厚生年金基金を採用している中小企業は古くから厚生年金基金をやっている企業が継続してやっているというようなケースが多いと思います。
4.確定給付年金制度
これは、中小企業側自身が退職金の支払い義務を負うため、企業自身が退職金のお金を運用するというものです。昔はこれが主流でしたが、今、この制度をあえて選択している中小企業は大変少数派です。これから退職金制度を整備する中小企業の多くは中退共や特退共を導入して、企業自身が退職金の支払い義務を負うことを選択しなくなっています。それでも確定給付年金を選択する中小企業は古くから退職金規定があってその規定が退職給付金規定になっているようなケースでしょう。
5.確定拠出年金制度(401K)
この制度については、以前の私のブログで要点だけ紹介しました。↴
詳しくはこのブログを読んでほしいのですが、要するに企業側は運用義務を負わず、企業は掛け金の支払いをしたら運用は、原則従業員本人がやるというものです。
中小企業での退職金制度としては中退共や特退共についで多いものになります。
6.生命保険
退職金制度としては、一般の生命保険会社を使った制度です。
一般の生命保険会社にある「福利厚生型養老保険」と呼ばれるもので、特徴は中退共や特退共と違い、いったん会社に入金されてから本人に退職金を支払う形のため、退職理由の如何によって支払われるということはありません。また、一部解約や全部解約について、従業員本人の同意は原則、不要です。会社の資金繰りの都合でいつでも資金化できる点は特徴的です。
あとは、通常、この「福利厚生型養老保険」は支払額の2分の1が損金(個人事業は必要経費)になります。ただ、従業員全員を対象者にしないと2分の1損金にならないという点も特徴的です。
この生命保険を使った従業員の退職金制度については、また後日、詳しく書いていこうと思います。
いずれにしても、退職金制度を設けるということはこれらの制度を使う、あるいは複数の組み合わせで制度設計していくことになると思います。自社にとってどの制度がふさわしいのか。まずは、上記のような概略を知ったうえで、選択していくことが必要だろうと思います。