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Category Archives: 労務管理

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さて、今日は中小企業経営者の皆さんが必ず知っておかないといけないことです。

月60時間以上の残業があった場合の割増賃金率の話です。

 

この改正は大企業にはすでに2010年4月から実施されているものです。それが中小企業にも2023年4月から実施されます。

 

割増賃金率は現在、次の通りになっています。

法定時間外労働・・・25%

深夜労働(夜10時~翌朝5時まで)・・・25%

法定休日労働・・・30%

 

したがって、たとえば、時間外労働でかつ深夜労働の場合、25%+25%で50%の割増賃金となります。休日労働でかつ深夜労働であれば、30%+25%で55%の割増賃金となります。

 

さてこの割増賃金率ですが、このうち時間外労働の場合が二つに分かれるというのが今回の改正です。

1か月60時間以下の時間外労働・・・25%

1か月60時間超の時間外労働・・・50%

 

したがって、たとえば、1か月60時間を超える時間外労働だった場合、60時間までが25%、60時間超が50%で、なおかつ、その60時間超の部分が深夜労働だと50%+25%で75%の割増賃金率となります。

 

また、休日労働はこの60時間超の算定の際には除いて時間数をカウントしていきます

休日労働といっても、法定休日に行った労働時間は含まれませんが、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。たとえば、就業規則で「休日は日曜祝日のみ」と書いてあったら、土曜日の休みは法定休日ではないということになります。この場合、休みの土曜日に出勤したらこれは休日労働ではなく、時間外労働となります。そのため、60時間の計算には入れて計算していくということです。

 

また、1カ月60時間超の労働があった場合には、労働者の健康を確保するため引き上げ分 の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます

 

そして、注意が必要なのはこれらの規定を就業規則に落とし込む必要があるということです。つまり、就業規則の改正が必要となります。

厚労省はモデル就業規則として、以下のように変更することを例として挙げています。

 

第○条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。

(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。

この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。

① 時間外労働60時間以下・・・・25%

② 時間外労働60時間超・・・・・50%

 

そして、そもそも1か月の労働時間が60時間を超えるようなケースがあるということは働きすぎが懸念されるということでもあります。

国はそうした場合に、一定の費用をかけて業務効率を図った場合、そのかかった費用の一部を助成してもらえる助成金(働き方改革推進支援助成金)というのもあります。

この際にそうしたものを活用することを検討してみてもいいかもしれません。

 

いずれにしても、中小企業にあっても就業規則の改定など2023年4月から60時間を超える残業についての対応が必要となってきます。

今からその対応を検討するようにしていきましょう。

 

以上、今日は2023年4月から施行される労基法改正の話でした。



ブログの更新が久しぶりになってしまいました。

今日はメディアでも大きく取り上げられました最低賃金の話です。

 

毎年、この時期に最低賃金の話が出てきます。通常はこれを受けて各都道府県で審議会が行われ、10月から最低賃金が適用されます。

東京都最低賃金の改正については、8月5日、現行の最低賃金の時間額1,041円を31円引上げ(引上げ率2.98%)て、1,072円に改正することが適当である旨の答申が行われました。

通常、この答申通りに決定します。そのため、東京都最低賃金は1072円になることは決定といっていいでしょう。

 

この最低賃金は都道府県によって異なります。都道府県ごとの経済実態を踏まえ各都道府県をAランクからDランクまで分けます。そのランクによって賃金の上げ幅が決まります。ちなみに、Aランクは東京都のほかは神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、愛知県です。

今回はAランクとBランクの都道府県は31円引き上げで、CランクとDランクの都道府県は30円引き上げとなります。

過去に例を見ない上げ幅といえます。

 

なお、最低賃金の改正は10月1日からとなりますが、たとえば、給与の締め日が15日の場合、9月16日から9月30日と10月1日から10月15日と分ける必要はなく、9月16日から10月15日までは9月までの最低賃金で、10月16日からの給与を新しい最低賃金にすれば足りるとされています。

これは実務を考慮したもので、最低賃金にあわせて給与の改定を検討されているようでしたらこれも考慮して決定しましょう。

 

ということで、今日は最低賃金の話でした。



この11月は何かと忙しく、なかなかブログの更新ができませんでした。

今日は最近、ご相談いただくことの多いハラスメントの問題です。

中小企業では令和4年4月1日から義務化されます!

 

まずは「パワーハラスメント」とは何か?定義から確認しましょう。

厚労省のリーフレットには次のように書かれています。

職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素を全て満たすものをいいます。

客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。

 

ハラスメントの問題は具体例を見ていった方が理解しやすいです。特にここではパワーハラスメントを取り上げています。

・叩く、殴る、蹴るなどの暴⾏を受ける。丸めたポスターで頭を叩く。

・同僚の⽬の前で叱責される。他の職員を宛先に含めてメールで罵倒される。必要以上に⻑時間にわたり、繰り返し執拗に叱る。

・1⼈だけ別室に席をうつされる。強制的に⾃宅待機を命じられる。送別会に出席させない。

・新⼈で仕事のやり⽅もわからないのに、他の⼈の仕事まで押しつけられて、同僚は、皆先に帰ってしまった。

・運転⼿なのに営業所の草むしりだけを命じられる。事務職なのに倉庫業務だけを命じられる。

・交際相⼿について執拗に問われる。妻に対する悪⼝を⾔われる。

 

さて、中小企業の経営者としてこうしたハラスメント対応を具体的にどういう手順でどうしていったらいいのか、ということです。

実際、私の顧問先からもそのようなご相談がほとんどです。

 

これも厚労省のリーフレットを参考にしてみると、次のように書かれています。

個別の事案について、その該当性を判断するに当たっては、当該事案における様々な要素(※)を総合的に考慮して判断することが必要です。

※ 当該言動の目的、当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性、当該言動により労働者が受ける身体的又は精神的な苦痛の程度等

また、その判断に際しては、相談窓口の担当者等が相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要です。

 

上記のことを少しかみ砕いて実務的に言うと、ハラスメントを訴える相談があったらまずは事実関係を確認することです。これは、当事者だけではなく、できれば普段、その周辺にいる第三者にも話を聞いてみることです。一方の話だけでは正確な判断ができるとは限らないからです。

私がよく言うのは、事実と意見(主観)に分けて聞いたほうがいいということを言います。たとえば、「嫌な上司がいる」という社員がいたとします。その上司から仕事上の指導を受けることをハラスメントととらえるのは違うわけです。たとえば、指導の仕方が「こんなこともわからないんじゃ、やめてもらうしかないよね」というようなことを言えばハラスメントです。この「こんなことも~」という発言が事実なわけです。「嫌」という勘定に引っ張られると事実が見えなくなります。何を言ったのか、何をしたのか、できるだけ客観的な事実をとらえてそれをできれば紙に書いて時系列にまとめることが大事だと言っています。それをできれば、当事者だけでなく、第三者からも話を聞いてみるということです。

 

中小企業のこうした対応が令和4年4月1日から義務化されます。

具体的には次のようなことです。

◆ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

① 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること

② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること

◆ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること

◆ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

➄ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(注1)

⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと(注1)

⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること(注2)

注1 事実確認ができた場合注2 事実確認ができなかった場合も同様

◆ そのほか併せて講ずべき措置

⑨ 相談者・行為者等のプライバシー(注3)を保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること注3 性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。

⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 

相談できる窓口を設け、就業規則に規定するなどして周知し、実際にハラスメントの問題が起こったら即座に対応する。これらが義務化されるわけです。

 

こうしたハラスメント対応というのは、ある意味、企業としては当たり前なのかもしれませんが、これらが法律上、義務となるということに意味があるのだと思います。

中小企業の経営者の皆さん。早めに対応を考えましょう。

今日はハラスメントの話でした。



さて、今日は最近、いくつかの顧問先からいただいた質問で、給与から天引きするルールの話です。

給与の支払方法については、労働基準法第24条に規定があります。

賃金は、通貨で、直接労働者にその全額を支払わなければならない。

ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

当たり前のようですが「通貨」で支払うとあるので、モノなどで支払う、いわゆる現物給与は禁じられています。また、「直接労働者に」とあるのは本人以外に支払うこと、たとえば未成年者であるため親に支払うとか、また、代理人に支払うといったことは法律で禁じられています。

さて、今日のお題である「給与から天引きする」という話は、上記の規定の「その全額を支払わなければならない」の部分です。

給与は天引きせずに、全額払うことが原則なわけです。この例外が但し書きです。

まずは「法令」で決まっているものが控除できます。源泉所得税や住民税、社会保険料、雇用保険料がこれに該当します。

但し書きの法令の後の文言、「労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について」というこの部分です。

法令で定めるもの以外で控除する場合、たとえば、社宅の賃料、福利厚生施設の利用料、社内預金とかそういったものです。これらを給与から天引きする場合、「労使協定」を定める必要があります。その範囲で控除ができるわけです。

では、「労使協定」で定めれば、内容はどうであれ賃金の控除はしていいのかというところです。これについては、「昭27・9・20基発675」には以下のように記載があります。

購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、労務用物資の代金、組合費等、事理明白なものについてのみ、法第三六条の時間外労働と同様の労使の協定によつて賃金から控除することを認める趣旨であること。

事理明白なものに限る」というところがポイントです。

事理明白なもの」というのは、あらかじめ労使協定で決まっていて、誰からいくら控除されるのかがはっきりしているものという意味ではないかと思います。

労使協定で定めたうえで、前もって誰がいくら引かれるのかがわかっているもの、これが法令以外で控除できるものの原則的な考え方です。

また、労使協定があれば何でも控除していいということではないとされています。労使協定があって給与天引きしているのであれば、法律上、罰せられることがないということです。ですので、実務上は、労使協定で定めたうえで、「同意書」などで本人からの同意も取っておいた方がいいでしょう。

また一方で、控除される金額についての限度はないとされています。しかし、これについても、民法510条等の規定などから「一賃金支払期の賃金又は退職金の額の4分の3に相当する部分については相殺できない」(昭29・12・23基収6185)と通達には書かれていますから、給与天引きの運用の際にこれも留意したほうがいいでしょう。

経営者側からすると、気軽に?というわけではないのでしょうが、給与から天引きしてしまうケースは私が知り限りでも結構あります。しかし、法律で決まっているもの以外のものを給与天引きする場合、一定のルールがあります。経営者としては給与天引きするのが都合がいいからということで給与から引いてしまうことは、実務上、結構あることですが、なんでもありなわけではないということはよく知っておきましょう。

ということで、今日はいくつかの顧問先からご質問のあった給与天引きの話でした。



今日は久しぶりのブログ更新となりました。

算定基礎届、労働保険申告書、源泉所得税の納期の特例と、この時期は事務処理量が多いうえに、介護施設は7月は処遇改善加算の報告書の提出といった事務もあります。毎年、なかなかブログ更新ができない状況があります。ご容赦ください。

さて、今日のテーマは最低賃金です。

毎年、この時期に「中央最低賃金審議会」という厚生労働省の諮問機関で議論されます。その結論が出ました。

全国平均が930円で、首都圏など、主要な都道府県を見ていくと、以下のようになります。

東京都・・・1041円

神奈川県・・・1040円

埼玉県・・・956円

千葉県・・・953円

大阪府・・・992円

愛知県・・・955円

最低賃金の高いところを取り出してみました。

突出しているのが、東京の1041円、神奈川の1040円でしょう。

最低賃金の上昇によって、経営環境がますます厳しくなることが予想されます。この最低賃金の急激な上昇について、エコノミストや経済学者は様々な意見をおっしゃっています。ここでは、それには言及しません。実際、実務を取り扱う経営者はこの状況に対応しないといけません。その観点から、具体的に何をどうすべきかを考えていきましょう。

まず、いつから最低賃金が上がるかですが、毎年の傾向からすると、10月分の賃金から適用となると思います。

また、気を付けないといけないのは、月給者です。

最低賃金は時給換算で出されているので、月給者は1時間当たりの単価に直して考えないといけません。具体的には、たとえば東京都の場合、1か月の所定労働時間が170時間だったとすると、1041円×170時間で176,970円が最低賃金となります。月給が18万円弱の場合、最低賃金に引っかからないのか、確認が必要です。

また、これはよく質問されるのですが、他の手当がある場合、その手当もあわせて時給が最低賃金を上回るのかを確認しないといけません。

また、今回の中央最低賃金審議会の諮問は、あくまでも諮問であって正式決定ではありません。ただ、例年からすると、この諮問の金額がそのまま10月からの最低賃金に使われることが多いです。今回の諮問をもとに最低賃金が決定されることが多いようです。

それから、東京などの首都圏は1100円くらいまでは上がるだろうとみていいと思います。

今後の動向にも注意が必要でしょう。

以上、今日は最低賃金の話でした。




新型コロナウィルスのワクチン接種の報道が連日、なされています。
ワクチン接種については、企業も積極的に参加する動きがあります。それに関連して「ワクチン休暇」を導入する動きが大企業を中心にあるようです。それについて、今日は見ていこうと思います。

労働基準法には年次有給休暇という休暇が従来からあります。
いわゆる「ワクチン休暇」というのはこの従来からある年次有給休暇とは別に、会社が従業員に「ワクチン休暇」という特別休暇を与えることを言います。

この休暇の背景には、会社員などの働く世代のワクチン接種が始まると、土日や平日の夕方以降にワクチン接種の希望者が殺到する恐れがあるため、企業側にワクチン休暇制度を設けるように国が言っているということもあるようです。

また、ワクチン接種に伴い、副作用などの体調不良も考えられることから、休暇制度を勧めているというのもあるようです。

この「ワクチン休暇」制度を導入する場合、会社の就業規則の「特別休暇」の部分を改定する必要が生じます

また、「ワクチン休暇」以外にも、ワクチン接種で欠勤した場合には出勤扱いにして欠勤控除しないという形をとる企業もあるようです。

この場合も、就業規則上で「ワクチン接種のために職場を一時的に離れたとしても欠勤扱いとはしない」などの規定を設ける形での就業規則の改定が必要となるでしょう。

さて、中小企業の場合、通常の有給とは別の休暇制度を設けることが難しいとか、そもそも年次有給休暇の消化自体が進んでいないなど、様々な事情があると思われます。

そこで、東京都では、新型コロナウイルスワクチンの接種及びそれに伴う事由を理由とした特別休暇制度との整備に取り組む中小企業等をサポートする「新型コロナウィルスワクチン接種等雇用環境整備事業」という取り組みが始まります。
「ワクチン休暇制度」を導入するにはどのようにしたらいいのか、ワクチン接種をしやすい職場環境にしていくにはどうしたらいいのかといったアドバイスを社会保険労務士から無料で受けられるようにするという取り組みです。

ワクチン休暇制度などの導入を希望していて相談をしたい中小企業は、まずは東京都に申し込みをします。その後、都がその中小企業に派遣を決定してから令和4年3月31日(木)までの期間で最大5回(1回あたりの派遣時間は原則2時間以内)として、社会保険労務士を派遣することになっています。
6/16から募集が始まり、必要書類を東京都労働相談情報センターに郵送にて提出すると、その後、都から連絡があり、社労士が派遣されるという流れのようです。
詳しくはTOKYOはたらくネットのHPにて確認してみてください。

以上、今日は「ワクチン休暇」制度をめぐる話でした。



前回に続いて副業の労務管理の話です。

副業を認めることとした場合、実務上、会社はどんなことに気を付け、どんなことをしないといけないのでしょうか。

副業を認めることとした場合、実務上、どのようなことを考えていかなければいけないのでしょうか。

まず挙げられるのは、労働時間の管理という話です。

副業を認めれば、通常勤務分と含め、労働時間が増加します。労働基準法で定める法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えるという問題があるわけです。使用者側からすると、労働時間をどのように管理したらいいのかという点があります。

労働時間については、副業の事業所にしても、その労働者の主たる事業の事業所であってもその労働者の全労働時間をもとに時間外労働を考える必要があります。

では、実務上、どうやって管理したらいいのでしょうか。

これについては令和2年9月1日に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」というのを厚労省は出しています。それによると、労働時間の把握の方法は「自己申告制」によることとして、副業がある場合に使用者側としてはその本人からの申し出のあった労働時間をもとにして管理していくということです。

ガイドラインでは「労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる」としており、実際の労働時間がどうであるかは関係なく、あくまでも本人が申告した労働時間で労働時間を管理するとしています。

また、本人から労働時間の申告自体がなければ労働時間の通算自体は不要になります。

そして、時間外労働となるのはどちらの事業所か、という点については、労働契約の締結が先の事業所から労働時間をカウントしていくとしています。たとえば、A事業所とB事業所とあって、労働契約の締結がA事業所が先だったのであれば、A事業所の労働時間を優先し、B事業所で1日8時間の法定労働時間を超えれば超えたところから時間外労働と判断するということです。法定労働時間を超える方の事業所で36協定の締結が必要となるわけです。

また、1日のうちである日はB事業所で勤務し、A事業所はそのあとから勤務した場合、B事業所からカウントして、A事業所で法定労働時間を超えたら超えた部分が時間外労働とすることも認めれられるとしています。

つまり、労働契約の締結の順によらない方法でもよいとしています。

いずれにしても合理的な方法で労働時間の管理がなされていればいいのですが、ここで問題なのは割増賃金です。割増賃金は法定労働時間を超えたとされる事業所で支払うこととなります。

労働者の申告した時間数で労働時間を把握したうえで、契約の締結順か1日のうちの労働時間の提供の時間順かのいずれかの方法で労働時間を把握し、法定労働時間を超えた部分を時間外手当の支払う義務が生じるわけです。

理屈はわかりますが、この方法は実務的には結構大変ではないのかと思います。

厚労省もそれを心得ているのか、「管理モデル」としてこのような方法で導入してはどうですか、というのを示しています。

それは、労働契約を先に締結していたA事業所では通常通り自分の事業所だけで労働時間を計算し、あとから労働契約を締結したB事業所は初めからすべて時間外労働であるものとして労働時間の上限や時間外手当の支払いをするという方法です。

つまり、副業の事業所での労働時間はすべて時間外労働にするという方法です。

こうすれば、労基法にも違反せずに、労働時間を適切に管理できるとしています。

ただ、これも実際に副業側の事業所が時間外労働を負担することが前提となっているわけで、B事業所の方に不利な方法にも思えます。

いずれにしても、副業のある労働者の労働時間の管理というのは時間数の管理や割増賃金の支払いの問題など、実務的には難題であると思います。

また、雇用保険や社会保険はどうなるのでしょうか。

これについては原則的に事業所ごとの労働時間で加入の有無を判断することになります。

たとえば、A事業所で週の労働時間が25時間、B事業所で15時間だったとします。その場合、A事業所での所定労働時間が20時間以上なのでA事業所で雇用保険に加入することになります。

一方で、A事業所では週の労働時間が15時間、B事業所では週の労働時間が10時間である場合、いずれの事業所でも雇用保険には加入しなくていいことになります。

一方で、社会保険については事業所ごとに4分の3基準などで判定していくことになります。いずれの事業所でも満たしていなければ社会保険には加入しないことになりますし、1か所でも該当すれば加入することになります。(両方の事業所で基準に達すれば両方の事業所で社会保険に加入することになります)

労災については、副業・兼業がある場合の労災保険給付額については、A事業所・B事業所の合計の賃金を算定基礎として「給付基礎日額」を計算する方法となりました。これは、従来は労災が起こった事業所の給与のみで「給付基礎日額」を判定していましたが、法改正によってそのようになりました。

さて、このように副業の者を雇い入れする場合、副業側の事業所としてはいろいろと面倒な話が出てきます。そのため、労働法が適用されない形になる「個人事業主」として扱うことも考えられます。仕事の内容にもよりますが、副業側の事業所としては、いわゆる「外注費」扱いとする方法も法的に可能なのかの検討も必要でしょう。

副業を認める場合、副業側の事業所はもちろんのこと、主たる事業所の方もいろいろと検討しないといけない点があることは知っておいてください。

ということで今日は、副業・兼業の実務対応の話でした。



さて、今日は近年、話題に上ることの多い副業・兼業という話です。私の顧問先の中小企業でも副業・兼業を認める形の就業規則に変えるという話も出ることがあります。どちらかというと経営者側の思惑というより、従業員さん側からの要望という側面が強いようです。

今回と次回の二回にわたって、この副業について、考えてみたいと思います。

今日は「そもそも会社は副業を認めないといけないのか」という話です。

厚生労働省の調査によると、副業を希望する雇用者の割合は2017年のデータで全雇用者の6.5%にのぼっており年々増加傾向にあります。

一方で、副業を就業規則等で認めている企業は全体の1割程度で、副業を認めないとする企業の割合が75%と4分の3に上っています。

このように、雇用者側の要望があっても企業側が認めないケースが多いというのが実態のようです。

しかし、私の顧問先の介護施設でも複数の事業所で働く介護職員も多々います。とりわけ訪問介護では副業しているのが当たり前のような職場環境です。介護現場をはじめとして、様々な職場で現実としては副業をしている人の割合は増えているというのが私の実感でもあります。そのため、多くの中小企業でも少なからずこうした状況に対応し、今後は副業を認める方向で検討しないといけなくなるであろうと思われます。

また、過去の裁判例を踏まえても、副業を認める方向で検討しないといけないようです。

たとえば、ある大学の教授が大学に無許可で語学学校の講師の業務に従事し、そのために大学の講義を休校したことが懲解雇にあたるとした事件では、「兼職は・・・職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就業については、兼職を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しない」(平成20年12月5日東京地裁)としていたり、運送会社の運転手が年に1、2回程度の貨物運送のアルバイトをしたことを理由にした解雇に対して、「本件アルバイト行為の回数が年に1、2回の程度の限りで認められているに過ぎないこと・・・職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない」(平成13年6月5日東京地裁)といった判決からしても、仮に就業規則で副業を禁止したとしても、会社の通常業務に大きな影響がなければ結果としては認められるとされているのです。

一方で、毎日6時間にわたるキャバレーでの無断就労を理由として解雇したことが認められた事例(昭和57年11月19日東京地裁)や会社の管理職にある従業員が協業他社の取締役に就任していたことが懲戒解雇事由にあたるため解雇は有効とした事例(昭和47年4月28日名古屋地裁)もあり、要するに、本業に悪い影響が出るような副業や会社の経営を脅かす事態になりかねないような就業(他社の取締役になるなど)は認められないという判断がされているようです。

逆に言えば、こうした本業や会社に大きな影響があるような副業でなければ認める方向というのが今の労働法の立場であるようです。

では、仮に会社が副業を認めることにした場合、どういった制度設計にすべきなのでしょうか?たとえば、本人からの申告を前提として認めるといった制度にしたらいいのでしょうか。また、社会保険や雇用保険はどういう扱いになるのでしょうか。あるいは、時間外労働はどう管理すべきなのでしょうか。その際の割増賃金の支払いはどうすべきなのでしょうか。こういった実務的な部分をどうしたらいいのかという問題があるわけです。

その副業を認めた場合の具体的な実務対応について、次回、見ていきたいと思います。



さて、コロナの関係で最近、問い合わせが多いのが給与明細の表示の仕方です。

雇用調整助成金の拡大に伴い、この質問が多くなったようです。社員を休ませて休業手当を支払った場合、どのように給与明細を表示したらいいのでしょうか

まず、休業手当を支払うということは欠勤があるということです。

欠勤があるということはいったん給与は控除されていないといけません。給与を控除したうえで、休業手当として支給するという形です。

たとえば、給与月額が30万円の人で、1ヶ月の所定労働日数が20日の人がいたとします。

欠勤日数が10日で、その10日は会社の命令で休業させたため休業手当を6割支払うとします。そうすると、次のようになります。

基本給   300,000円

欠勤控除 ▲150,000円

休業手当  90,000円

通勤手当   5,000円

総支給額  245,000円

出勤日数:10日 欠勤日数:10日

ポイントは基本給や諸手当があればその諸手当の下に「欠勤控除」として表示することです。給与ソフトによっては欠勤控除の項目が「総支給額」の上に表示されることもありますが、それは書き方の問題なので別にそれでもかまいません。要は、総支給額からいったんマイナスすることです。そのうえで、休業手当として加算して支給する形に表示すればいいわけです。欠勤日数に日数を表示しておくことも大事なことです。給与明細上には必ず欠勤日数を書く欄がありますからそこに日数を記載するようにしましょう。

雇用調整助成金の支給申請の際にも、いったん欠勤控除したうえで休業手当として支払っている形にしないと休業しているのかどうなのかが明細上わからないことになってしまいます。給与明細の表示の仕方(もしくは賃金台帳の記載の仕方)について、上記の点は今一度、確認してみてください。

そして、控除項目ですが、社会保険料は月額変更に該当しなければ前月と同じ金額となります。

雇用保険料は、総支給額に対してかかります。一般の事業だと3/1000を乗じた額となります。源泉所得税は課税支給額(上記の場合だと通勤手当を控除した240,000円)から社会保険料、雇用保険料を控除した後の金額で源泉所得税の計算をします。

このように休業手当は社会保険料や雇用保険料、源泉所得税の対象になる項目です。休業手当といっても非課税ではありませんので注意してください。

ちなみに、休業手当と似ている名称で「休業補償」というのがあります。これは業務上の理由で負傷したような場合、つまり、業務上の理由で休業した場合に会社から支払われるものですが、これは非課税となっています。

名称が似ているのでややこしいですが、区別されています。混同して使用しないように注意しましょう。

以下、国税庁の「休業手当・休業補償の課税関係」を抜粋します。

 給与所得者は、その勤務先から通常支給される給料や賞与以外にも、労働基準法に規定されている各種の手当の支給を受ける場合がありますがこの各種手当の課税関係は次のとおりです。

1 労働基準法第26条の規定に基づく「休業手当」
 使用者の責に帰すべき事由により休業した場合に支給される「休業手当」は、給与所得となります。

2 労働基準法第76条の規定に基づく「休業補償
 労働者が業務上の負傷等により休業した場合に支給される「休業補償」など、労働基準法第8章(災害補償)の規定により受ける療養のための給付等は、非課税所得となります。
 また、勤務先の就業規則に基づき、労働基準法第76条第1項に定める割合を超えて支給される付加給付金についても、労働基準法上の給付では補てんされない部分に対応する民法上の損害賠償に相当するものであり、心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料として非課税所得となります。
 なお、労働基準法第8章には、「休業補償」以外にも「療養補償」や「障害補償」などが規定されています。

(所法9、28、所令20、30、所基通9-24)

ということで今日は「休業手当」の給与明細の表示の仕方についてでした。

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今日は、本年最初のブログになります。なるべく1週間に2回か3回は更新しようとは思っています。今年も最新の情報や経営者の皆さんや会社の総務・経理担当者の役に立つ情報を配信していければと思います。

さて、今日は、面接時に経営者側が聞いてはいけないことがあるという話です。

厚生労働省が「採用選考に関する基本的な考え方」として、採用時面接で聞いてはいけないことというのを具体例を交えて書いていますので、それをご紹介していこうと思います。

たとえば、面接で聞いてはいけないこととして「家族のこと」があるのをご存じでしたでしょうか?出生地のことや住んでいる環境のことなども聞いてはいけないこととされています。

一般的に、宗教ことや政治に関すること(支持政党など)は聞いてはいけないというのは何となく感覚的にわかると思います。しかし、たとえば、読んでいる新聞や愛読書のことなんかも聞いてはいけないこととされています。なんとなく話の流れで「どんな本を読んでいらっしゃるの」なんて聞きたくなる場面もあるかもしれませんが、基本的に採用時面接においては聞いてはいけないとされている項目です。

さて、採用時面接で聞いてはいけないことがあるというのはどういう基準で厚労省は言っているのでしょうか。基本にあるのは「基本的人権」です。

採用選考に当たっては

 応募者の基本的人権を尊重すること
 応募者の適性・能力のみを基準として行うこと

の2点を基本的な考え方として実施することが大切です

厚労省は上記のように言っています。あくまでも採用選考というのは応募者の適性や能力のみで判断されるべきであって、生活環境や家族のことは本人の能力とは関係のないことだというわけです。

なかでも、「家族に関すること」を面接時に聞いてしまうというのが、違反事例として最も多いと厚労省のHPにも掲載されています。

「家族のこと」というのは具体的には、ご家族の職業や地位、学歴、収入、資産などの家族の状況のことを指しています。もちろん、本人の学歴や職歴は聞かないと面接にならないことも多いでしょうから本人のことは問題はないのですが、家族のそうした情報は採用面接の判断に必要のない事柄とされているため聞いてはいけないこととされているわけです。

また、「現住所の略図」を求めることも生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があることからしてはいけないとされていますし、採用選考時に健康診断を実施することも、合理的・客観的に必要性が認められない場合にはしてはいけないとされています。

仕事に影響のある程度の健康状態についての質問はいいのでしょうが、必要以上に面接時に健康状態について尋ねるのもやめておいたほうがいいでしょう。

それからひょっとしたらやってしまいかねないこととして、面接時に「戸籍謄(抄)本」の提出を求めたり、本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることも違反事項とされています。これは私見ですが、採用時面接の段階では、住民票などの提出自体求めることはしないほうがいいでしょう。住んでいる場所などを確認したいのであれば履歴書に記載されている事項でまずは判断すべきかと思います。

上記は採用時の面接の話なので、もちろん、入社後に必要に応じて社会保険の手続きなどで必要ということで、本籍地の記載のある住民票の提示を求めるのは問題はないでしょう。また、入社した後に会話の中でご家族のことを聞いたりということもあるでしょう。それは問題ないわけです。(もちろん、しつこく家族のことを聞くなどということは問題がありますから注意しましょう)厚労省の言っているのは、採用に際して本人の能力などに関係のない事柄をもって判断することはフェアではないからやめようという話ですから、どの点を言っているのかを明確にしましょう。

こういう話をすると、「昔よりも細かくて面倒になった」というようなことをおっしゃる社長さんもいらっしゃいます。しかし、本来的に、面接で経営者が見るべき項目というのは本人の適性や能力のはずです。それ以外の項目について、たとえば、本人の家族のことなどは「採用時面接」という場面では聞かなくてもいいことのはずです。面接を受ける側のほうがどちらかというと緊張してうまくいかないことが多いものです。そうしたことにも配慮するような経営者でないといけないのではないかと思うわけです。

ということで、今日はいつもとはちょっと違うお話、採用時面接で聞いてはいけないNGなことというお話でした。


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