前回に続いて副業の労務管理の話です。
副業を認めることとした場合、実務上、会社はどんなことに気を付け、どんなことをしないといけないのでしょうか。
副業を認めることとした場合、実務上、どのようなことを考えていかなければいけないのでしょうか。
まず挙げられるのは、労働時間の管理という話です。
副業を認めれば、通常勤務分と含め、労働時間が増加します。労働基準法で定める法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えるという問題があるわけです。使用者側からすると、労働時間をどのように管理したらいいのかという点があります。
労働時間については、副業の事業所にしても、その労働者の主たる事業の事業所であってもその労働者の全労働時間をもとに時間外労働を考える必要があります。
では、実務上、どうやって管理したらいいのでしょうか。
これについては令和2年9月1日に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」というのを厚労省は出しています。それによると、労働時間の把握の方法は「自己申告制」によることとして、副業がある場合に使用者側としてはその本人からの申し出のあった労働時間をもとにして管理していくということです。
ガイドラインでは「労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合でも労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りる」としており、実際の労働時間がどうであるかは関係なく、あくまでも本人が申告した労働時間で労働時間を管理するとしています。
また、本人から労働時間の申告自体がなければ労働時間の通算自体は不要になります。
そして、時間外労働となるのはどちらの事業所か、という点については、労働契約の締結が先の事業所から労働時間をカウントしていくとしています。たとえば、A事業所とB事業所とあって、労働契約の締結がA事業所が先だったのであれば、A事業所の労働時間を優先し、B事業所で1日8時間の法定労働時間を超えれば超えたところから時間外労働と判断するということです。法定労働時間を超える方の事業所で36協定の締結が必要となるわけです。
また、1日のうちである日はB事業所で勤務し、A事業所はそのあとから勤務した場合、B事業所からカウントして、A事業所で法定労働時間を超えたら超えた部分が時間外労働とすることも認めれられるとしています。
つまり、労働契約の締結の順によらない方法でもよいとしています。
いずれにしても合理的な方法で労働時間の管理がなされていればいいのですが、ここで問題なのは割増賃金です。割増賃金は法定労働時間を超えたとされる事業所で支払うこととなります。
労働者の申告した時間数で労働時間を把握したうえで、契約の締結順か1日のうちの労働時間の提供の時間順かのいずれかの方法で労働時間を把握し、法定労働時間を超えた部分を時間外手当の支払う義務が生じるわけです。
理屈はわかりますが、この方法は実務的には結構大変ではないのかと思います。
厚労省もそれを心得ているのか、「管理モデル」としてこのような方法で導入してはどうですか、というのを示しています。
それは、労働契約を先に締結していたA事業所では通常通り自分の事業所だけで労働時間を計算し、あとから労働契約を締結したB事業所は初めからすべて時間外労働であるものとして労働時間の上限や時間外手当の支払いをするという方法です。
つまり、副業の事業所での労働時間はすべて時間外労働にするという方法です。
こうすれば、労基法にも違反せずに、労働時間を適切に管理できるとしています。
ただ、これも実際に副業側の事業所が時間外労働を負担することが前提となっているわけで、B事業所の方に不利な方法にも思えます。
いずれにしても、副業のある労働者の労働時間の管理というのは時間数の管理や割増賃金の支払いの問題など、実務的には難題であると思います。
また、雇用保険や社会保険はどうなるのでしょうか。
これについては原則的に事業所ごとの労働時間で加入の有無を判断することになります。
たとえば、A事業所で週の労働時間が25時間、B事業所で15時間だったとします。その場合、A事業所での所定労働時間が20時間以上なのでA事業所で雇用保険に加入することになります。
一方で、A事業所では週の労働時間が15時間、B事業所では週の労働時間が10時間である場合、いずれの事業所でも雇用保険には加入しなくていいことになります。
一方で、社会保険については事業所ごとに4分の3基準などで判定していくことになります。いずれの事業所でも満たしていなければ社会保険には加入しないことになりますし、1か所でも該当すれば加入することになります。(両方の事業所で基準に達すれば両方の事業所で社会保険に加入することになります)
労災については、副業・兼業がある場合の労災保険給付額については、A事業所・B事業所の合計の賃金を算定基礎として「給付基礎日額」を計算する方法となりました。これは、従来は労災が起こった事業所の給与のみで「給付基礎日額」を判定していましたが、法改正によってそのようになりました。
さて、このように副業の者を雇い入れする場合、副業側の事業所としてはいろいろと面倒な話が出てきます。そのため、労働法が適用されない形になる「個人事業主」として扱うことも考えられます。仕事の内容にもよりますが、副業側の事業所としては、いわゆる「外注費」扱いとする方法も法的に可能なのかの検討も必要でしょう。
副業を認める場合、副業側の事業所はもちろんのこと、主たる事業所の方もいろいろと検討しないといけない点があることは知っておいてください。
ということで今日は、副業・兼業の実務対応の話でした。