さて、前回のブログでいわゆる「ハマキョウレックス事件」の最高裁判決について、書きました。このハマキョウレックス事件は、正規雇用と非正規雇用の格差についての労働契約法第20条をめぐる裁判であるという話をしましたが、同時にこの裁判は、 「同一労働同一賃金」をめぐる裁判とも言われています。このハマキョウレックス事件の最高裁判決を受けて、今後、中小企業がどう対処していったらいいのかというのは、この「同一労働同一賃金」とは何のことなのかがわかると見えてきます。
「同一労働同一賃金」というのは要するに、同じ種類の仕事をしているのであれば賃金は同じでなければいけないという考え方です。
もともとこの「同一労働同一賃金」という考え方自体は欧米から来ているものです。欧米では、職務ごとの労働組合というものがあり、職務ごとに賃金形態が決まっているという経緯があります。一方で、日本では会社ごとに労働組合が組織され、会社ごとに賃金形態が定められるため、同じ仕事内容でも、A社の賃金とB社の賃金が違うのは当たり前のことと思われています。
実際、たとえば正規雇用の場合、たとえばパート労働者と同じ仕事もしている一方で、パート労働者の雇用管理(シフト組み)をやったり、残業が必要な時は正規雇用の人が残業をしたり、正規雇用には配置転換や異動があるなどするため、正規雇用の方が賃金が高いのは当たり前と受け取られる向きがありました。これをいけないとしたのが「丸子警報機事件」と呼ばれる裁判です。この裁判では、「正規雇用と非正規雇用に役割の差があったとしても著しく差があるのはいけない」としています。
「日本型同一労働同一賃金」というのは、「正規雇用と非正規雇用とで役割の違いがあるのはある程度は容認するが、まったく同じ仕事の部分は賃金などの処遇も同じにしないと不合理とみなします」というものです。ということは、職務内容、つまり仕事の中身をきちんとわけないといけないということになります。
今まで、なんとなくあいまいにしていた仕事の内容というのをまず分解して考えていかないといけないわけです。では、介護事業所で、デイサービスの場合を例にとって考えてみましょう。
デイサービスの業務の場合、このような業務が考えられます。
- 送迎
- 食事介助
- レクリエーション
- 身体介助などの利用者介助
- 事業所内の清掃
- 入浴介助
- 事務作業
- ケアマネージャーとのミーティング
- 家族との連絡、日程の調整
- パートなどの勤務時間の調整
- クレーム対応
他にもあると思いますが、思いつくものを書いていくとこうした業務が浮かびます。
この業務の洗い出しをまずしたうえで、どれが正規雇用の仕事でどれが非正規雇用の仕事かを考えていきます。
たとえば、非正規社員は①から⑥の業務を行うとします。一方で、正規雇用は②から⑨の業務を行うのを原則として、さらに、役職者は⑩と⑪の業務を行うとする、といった具合です。
加えて、入浴介助は負担が大きいことから入浴介助を行った場合には、正規・非正規に関わらず、手当を加算するとか、人事異動の可能性がある正規雇用には住宅手当を支給するとか、本来、正規雇用の役割でない送迎業務を正規雇用が行った場合には手当を支給するといったような形で、仕事の内容や、役割によって仕事に差を設けていくという形にしていくのが「同一労働同一賃金」の基本的な考え方です。
今回のハマキョウレックス事件の最高裁を受けて、経営者がやるべきことは、まず「同一労働同一賃金」の前提になる職務内容の洗い出しです。その上で、非正規雇用はどの業務をやり、正規雇用がやらないといけないのはどの業務かを明確にしていくこと、これが経営者がやるべきことなわけです。
ただ、今、実際に運用している賃金体系がこのように職務内容を考慮したものになっていない場合が問題です。職務内容にあわせて変えていく作業をしていかないといけません。
現行の制度を新しい制度に変えていく場合、ある労働者にとっては変更後の内容が不利益な変更になることを「不利益変更」といいます。原則として、この不利益変更には各労働者の同意が必要です。つまり、不利益変更のある従業員さんの同意が得られない場合、変更できないという問題があります。
これについては、また次回書いていこうと思います。