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さて、前回のブログで、「同一労働同一賃金」を進めるにあたって、就業規則等を変更していった場合、一部の従業員にとって、不利益な変更になってしまう場合、どのように対処していったらいいのかについて考えてみようと思います。

一般的に、就業規則や労働契約などが使用者側の都合で変更され、その変更後の内容が従業員さんにとって不利な変更になることを「不利益変更」と呼びます

就業規則や労働契約を変更する場合には、この不利益変更がない形で変更していくことも重要です。

 

ですが、会社もいくらでもお金を持っているわけではありません。会社には給与で支払える金額の限度があります。ある社員の処遇をよくすれば、一方で、別の社員の処遇が悪くなることはあり得る話です。「同一労働同一賃金」を目指し、給与体系の変更を考えるということは、変更の仕方によっては処遇が悪くなる社員が出てしまうことを意味するわけです。

 

これを考えるにあたって、まず法的にどういう問題があるのかを考えてみましょう。

まず、法律的には「不利益変更」は原則的にはいけない話です。ですが、「合理的な理由」があれば認められるとされています。では、「合理的な理由」とは何かということです。これは裁判例から答えを導き出せます。「ノイズ研究所事件」というものです。

この裁判では、年功序列型の賃金体系(年齢が上がっていくにつれて給与が上がる仕組み)から成果主義型の賃金形態(会社への貢献度が高ければ給与が上がる仕組み)に切り替えた場合、一部の社員についての給与が約1割下がったことが「合理的な理由」による不利益変更として認められるのか、というものです。

 

この裁判では、会社側の主張がほぼ認められる結果となっています。

主な理由としては、次のようなものです。

  1. 賃金形態の変更は競争が激化する業界に合って必要不可欠であったこと
  2. 今回の給与体系の変更によって、賃金総額全体については大きな変更はないものであること
  3. 頑張れば昇給する機会も平等に与えられているものであること

 

つまり、不利益な変更がやむを得ない理由があり(①の理由)、会社側の一方的な都合によるものとは認められないものであり(②の理由)、変更によって一時的に不利益を受けたとしても昇給の余地があるなどによって回復することができる(③の理由)といったことが認められた理由です。

 

「同一労働同一賃金」を目指し、賃金体系の変更をする場合、原則は賃金の原資が増えるわけではないですから、特に正規雇用の社員に不利益変更が生じてしまう可能性があります。今までついていた手当がなくなったり、もしくはなくならないまでも金額が減ることもあるでしょう。あるいは、ある手当を別の手当てに統合することで結果的に不利益変更となってしまう人が出てくる可能性があります。しかしこれはやむを得ない部分です。一つ一つの手当の意味、基本給などの設定の仕方の方法、評価の方法など、丁寧に、検討していけば道は開けます。

 

また、もう一つ大事なのは、不利益変更が生じてしまう社員がいる場合には特に、従業員説明会など、社員にその事情を説明し、新しい賃金制度について理解してもらう努力をすることは大前提としてあります。このような話をするとよく「揉めてしまうし、説明会のようなことを収拾がつかなくなるからやらない」というような話をされる経営者も少なからずいらっしゃいます。しかし、それでは逆効果です。不利益変更があるのであればなおさら、説明会はやったほうがいいです。そして、最終的に不利益変更について承諾しない社員がいたらどうするかです。これはまずは十分に話し合うことです。その上で、不利益変更を認めない社員についてはその反対する社員も含めて、就業規則の変更は認められるとした裁判例があります。(秋北バス事件【最高裁1968年12月25日】)

この裁判では就業規則の不利益変更があった場合、まず大前提として、社員に「今回の不利益変更が合理的であること」について説明会を行い、十分に説明を行っていることがあります。

 

面倒と思って従業員への説明を省くようなことはかえって経営者の首を絞める結果になります。不利益変更がある場合には、まずは従業員の皆さんにご理解いただくことが大切なわけです。

 

改正パートタイム労働法は2020年に改正されます。(中小企業はその1年後の2021年)

ここでは、非正規雇用の従業員から求められたら正社員との処遇の違いについて説明しないといけないこと、正規雇用と非正規雇用とで不合理な違いを設けてはいけないことなどが明記されています。

こうした法改正の流れを考えても、「同一労働同一賃金」を見据えた規定の整備、不利益変更になる従業員への説明など、経営者はやらないといけない課題であることを認識する必要があるものと思います。


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