今日の話は従業員さんの退職金制度。いわゆる「中退共」、中小企業退職金共済制度です。
中退共というのは「国が作った退職金制度」です。この制度の運営は「独立行政法人勤労者退職金共済機構」がやっています。
どのような仕組みかというと、まず、事業主と機構が中退共の契約を結びます。掛け金は事業主が機構に毎月、支払います。そして、実際に掛け金の対象になっている従業員さんが退職したら機構から直接、本人に退職金が支払われます。
この制度がわかりやすいのが、事業主が機構に支払う掛け金は全額事業主負担で、全額損金(個人事業だったら全額必要経費)ということです。経理処理も簡単です。なにより仕組みが単純でわかりやすい。これは大きな特徴です。
加入には条件があります。次の条件を満たす企業が加入できます。
・一般業種 常用従業員数300人以下または資本金3億円以下
・卸売業 常用従業者数100人以下かたは資本金1億円以下
・サービス業 常用従業者数100人以下または資本金5千万円以下
・小売業 常用従業者数50人以下または資本金5千万円以下
原則としては、従業員全員を加入させないといけませんが、定年などで短期間で退職することが明らかな従業員や休職中の従業員、有期雇用契約労働者は加入させなくてもいいことになっています。また、法人の役員だったり、小規模企業共済制度に加入している場合には、そもそも加入できません。
また、最近変わったこととして、同居の親族のみを雇用する事業所についても一定の条件のもとに加入できることになった点です。家族経営の会社でもこの制度を使えるのは魅力です。
掛け金は月額5000円以上3万円未満で1000円から2000円刻みになっています。
実際に支給される退職金を見てみますと、掛け金1万円で3年(36ヶ月)かけた場合、退職金は36万円です。つまり、払った金額と同額ということです。それが同じ1万円を4年(48ヶ月)かけると481,700円、5年(60か月)かけると608,200円となります。つまり、払った金額よりも多く退職金が支払われるということです。この辺は実際の掛け金を決める際の参考になりそうです。
よく考えてみてほしいのですが、従業員さんの退職金をねん出するのに積立するという方法もあります。しかし、積立はあくまで積立です。経理上は、
(積立金)××× (預金)×××
となるだけで、税金は減りません。
しかし、中退共は
(保険料【もしくは福利厚生費】)×××(預金)×××
となり、費用に計上できます。つまり、その分、税金が減るわけです。
これも中退共の大きな特徴です。
さて、この中退共のさらに特徴的な部分について、いくつかご紹介いたします。
・掛け金の助成がある
初めて中退共に加入する事業所は月額2分の1を加入後4か月目から1年間国から助成してもらえます。また、18,000円以下の掛け金を増額する場合には増額した金額の3分の1が助成されます。(月額2万円以上の掛け金からは増額の対象にはなりません)
・転職後も前の企業の掛け金期間を通算できる
前の会社でも中退共に入っている場合で、仮にその会社を退職した時に退職金をもらわずに退職した場合には、前の会社と今の会社の中退共の加入期間を通算できます。期間が長ければ退職金の金額も増えるので、お得な話です。
・東京都の正規雇用転換促進助成金に上乗せ支給がある
中退共に加入している事業所で、正規雇用に転換した後、その従業員を中退共に加入させると1人当たり10万円増額される制度があります。
手続きが簡単で、国の助成もあって、しかも正規雇用に転換した場合には東京都の上乗せ支給も受けられる・・・
なんかいいことずくめなのですが、一点だけ注意点があります。
それは、この制度は従業員の請求によって支払われる制度であるため、退職事由のいかんにかかわらず、本人に退職金が支払われるということです。
ですから、たとえば懲戒解雇の従業員にも退職金が支払われるということになります。
実際、この点を嫌がる事業主さんも多いです。
実務上は、たとえば、「勤続年数3年以上になったら中退共に加入できる」とかしたらどうですかというようなことをお伝えしています。
実際、会社にとってあまりいいとは言えない従業員さんというのは入社3年目くらいまでになんかやらかしてしまうことが多いです。
逆に、3年たてば、その従業員さんがどの程度の働きをするのかはわかるようになると思います。それから中退共の加入をするとかすれば少しはデメリットを軽減できるのでは?という話をします。
安定的でわかりやすく、かつ、節税にもつながる中退共。私はこの制度は中小企業に向いている退職金制度だと思います。是非、検討してみてはいかがでしょうか?