本来の確定申告期限の3月15日が過ぎました。私の事務所では当初の確定申告期限の3月15日を締めとして申告手続きを進めていました。大部分の申告はすでに終わりましたが、確定申告の書類をお預かりして特に印象があるのは副業についての扱いです。事業所得に該当するのかどうなのか、それについて今日は書いていこうと思います。
サラリーマンが会社からもらう給与は給与所得です。そのサラリーマンが副業をした場合、申告区分は事業所得にするのか、雑所得なのか、この問題があります。
事業所得と雑所得で税務上はどのような違いがあるのでしょうか。
事業所得にすると、たとえば赤字だった場合、他の所得と通算ができます。たとえば、サラリーマンであれば給与所得があります。事業所得の赤字と給与所得を相殺できます。相殺できるということは、給与所得で生じた所得税を還付することが可能です。
また、事業所得で青色申告だった場合、たとえば、電子申告する形であれば65万円の控除が取れる可能性があります。仮に65万円の控除が取れなくても10万円の控除は取れます。
それが雑所得になるとどうなるのでしょうか。
雑所得はまずは損益通算ができません。つまり、雑所得で計算して赤字だったとしても、他の所得、たとえば給与所得との通算はできません。つまり、事業所得であれば赤字が出れば他の所得と相殺することで給与の源泉所得税の還付が受けられたわけですが、雑所得だとそれができないわけです。
また、青色申告の事業所得にある65万円や10万円の控除は取れません。そもそも、雑所得と給与所得だけなのであれば青色申告自体が選択できません。
このように事業所得であるといろいろなメリットがあります。
そこで問題なのが、事業所得と雑所得というのはどこでどういう形で線引きしているのかということです。
そこで、税務上ではどう判断されているのか、一つ裁判例を引き合いに出してみようと思います。
「原告は、平成23年ないし平成25年において、本件製造等業務による収入を得ておらず、本件鍛冶業務による上記各年の収入も、順に0円、1万4000円、3万5240円にとどまっている一方、原告は、遅くとも平成19年以降は、本件各業務による必要経費が生じたとして、毎年、確定申告において事業所得につき400万円以上の損失を計上している状況にある。しかも、原告は、本件製造等業務については、火縄銃の製造技術を学んではいるが、平成26年8月時点ですら未だ火縄銃を製造する技術を有しておらず、現実に火縄銃の製造及び販売を行ったことがないというのであり、本件鍛冶業務について、今は修行中で技術が未熟であるとして宣伝広告を行っておらず、特定の取引先はなく、作業内容を掲載する自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け付けているにとどまり、その収入額も上記のように極めて少額にとどまっている。」
そのうえで
「上記のような事情に照らせば、本件各業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有するものとは到底認められないというべきである。しかも、原告は、平成23年から平成25年までの間、週40時間消防業務に従事して年800万円以上という相当額の安定した収入を得ており、当該収入が原告が確定申告に計上した収入金額のほとんどを占め、本件各業務は、仕事のないときに行っているものにすぎないのであって、これらの事情に照らせば、本件各業務は、事業としての社会的地位が客観的に認められるものであるということもできない。以上によれば、本件各業務に係る所得が、所得税法27条1項に規定する事業所得に当たるということはできない。」
事業所得に該当するかどうかはこのように収入の状況や、現状の事業の状況、所得を得る手段がどうなっているかなど、全般的に判断されます。
この場合には、収入が「順に0円、1万4000円、3万5240円にとどまっている」にもかかわらず、「毎年、確定申告において事業所得につき400万円以上の損失を計上している状況にある」ということが指摘されています。
つまり、事業か雑かの判断がされるのは、収入や経費計上の状況がどうなっているのかを踏まえてまずは判断されているように思います。
「収入が何年も続けて0円で、必要経費部分だけ申告して税額の還付をしている」というようなケースの場合、事業所得ではなく雑所得ではないかと税務署から指摘を受ける可能性があるということです。
副業といっても、「それ単体でどの程度収入が継続的に上がっているのか」、ここがポイントだと思います。
では収入がいくらだったらいいのかというのはケースバイケースでしょうが、0円や収入が上がっていてもかなり少額である状態が続いているとかといった状況があると問題ありとみなされるようです。
事業所得か雑所得かの判断の際に、参考にしていただければと思います。