手技療法の治療院、介護事業の経営に役立つ最新情報や知って得する情報満載のブログです!

今日は顧問先からいただいた質問からちょっと考えてみたいと思います。

月末の前日を退職日とすると社会保険料がかからなくて得だ」という話についてです。

このことをちょっと考えてみたいと思います。

実はこの話は私が開業する前、会計事務所に勤務していたころからたまに聞いたりすることがある話でした。話の要旨としてはこのようなことです。

月末退職とするとその月の社会保険料がかかるから、月末の前の日に退職したとすれば社会保険料がかからなくなる。だから、顧問先にもそう話をして月末退職ではなくで月末の前の日に退職したことにして手続きするように話をしたほうがいい

こんなような話です。

これはどういう話なのでしょうか?まずは社会保険の仕組み的な話から確認していきましょう。

社会保険というのはそもそも退職日の翌日が資格喪失日となります。つまり、退職日の当日は保険証を使えるということです。その翌日(正しくは夜の0時を過ぎた時間)から保険証が使えなくなります。保険証が使えなくなった同日に別の保険に加入する形(法律的には、ほかの会社に就職したのから他の会社の社会保険に、そうでなければ自動的に国保・国年)となります。これを同日得喪といったりします。

たとえば、9月29日退職とすれば、9月30日資格喪失となり、9月30日の当日から保険証は使えなくなります。

また、社会保険料は月末の在籍に対してかかるので、9月30日にすでに資格を喪失しているのであれば、9月分の社会保険料はかからないということになります

このように、確かに9月29日退職とすれば、9月30日資格喪失となり、社会保険料は「会社側」ではかかりません。会社側からすると社会保険料がかからなくなり、一方で従業員側からしても社会保険料の負担が1か月分なくなるのでよさそうな話に聞こえるのかもしれません。ですが、あえてこのように誘導すると、本人にとって不利益になることがいくつかあります。

たとえば、9月分は国保・国年となる(9月30日にほかの会社に再就職しなければ自動的に9月30日に国民健康保険・国民年金となります)ため、国民健康保険・国民年金の保険料となります。保険料という点からはひょっとしたらそちらのほうが高くなる可能性があります。また、国保・国年の手続きをしなければ無保険となる期間があることもあり得ます。

また、年金についても影響があります。たった1日だからといって手続きを何もしなければ老齢年金の加入期間に空白期間が生まれる可能性もあります。つまり、たったの1ヶ月分ですが将来の年金額に影響します。また、仮に障碍者になって障害年金を受給することになってしまった場合、空白期間があると障害年金を受給できなくなる(障碍者認定される1年以内に保険料の未納がない等の要件があります)こともあり得ます遺族年金の受給できる場合も同様に、保険料納付要件があるのでそれに引っかかってしまい、せっかくもらえるはずだった年金がもらえなくなることもあり得ます。障害年金や遺族年金はその後の生活保障という意味がありますから、仮にたった1日のちがいでこうした年金がもらえなくなることが起こってしまったら重大な問題となります。

それから、実際に私が勤務していた会計事務所であった話ですが、前職で月末の前の日に退職した(たとえば9月29日退職として1か月分の社会保険料を逃れる形にした)方がいました。前職の会計事務所でその会計事務所の所長の税理士の先生から言われた(つまり、社会保険料が1か月分かからないから月末退職ではなく月末の前日を退職日としようといわれた)らしいです。その方は日をあけずに、つまり、この場合だと10月1日に別の会計事務所に再就職しました。ところが、その方がちょうど1年近くになったときに、病気になってしまい傷病手当金を受給することになりました。傷病手当金は同一の傷病で仕事につけないのであれば退職後も継続して受給できます。ただ、退職していても傷病手当金を受給するには加入期間が1年以上ないといけません。この1年以上の加入期間というのは、たとえば協会けんぽなら協会けんぽで継続して1年以上の加入であれば、途中で職場が変わっても継続しているものとして取り扱えます。この方の場合、再就職先の会計事務所でちょうど1年になる前に退職してしまいました。前職も協会けんぽだったため、通算すれば1年以上になり本当だったら傷病手当金が受給できたはずなのです。つまり、前職とこの退職した会社で切れ目なく社会保険が継続しているのであれば傷病手当金を受給できたのに、たった1日切れている日があったために退職後も継続して傷病手当金を受給できるという特例が使えなかったわけです。しかも、このケースは実態としては月末が退職日だったわけですから、問題があるといわざるを得ないでしょう。

このように、本来の退職日は月末なのに社会保険料がかからないからという理由で月末の前の日を退職日とすることで、本人に不利益になることがいくつかあります。会社側からすれば、単に1か月分の社会保険料がかからなくなるだけの話ですが、本人にとっては実は不利益なことが多い話だということです。

また、コンプライアンス上も問題がないかという点もあると思います。税理士の先生で「退職日を月末の前日とすると社会保険料がかからなくなるからそのようにしたらどうですか」と顧問先にアドバイスしている先生がいるとお聞きしたことがあります。先ほど例に出した前職の会計事務所での取り扱いのように社会保険料を逃れるための常とう手段のように考えている税理士も多いのです。問題なのは、その税理士の先生が上記のような本人にとってのデメリットがあることをきちんと説明し、本人がこうした不利益があることをきちんと理解したうえでやっていることなのかという点です。本人も了解しているからいいのではないかという意見もあると思いますが、生命保険であろうが、携帯電話の契約であろうが、本人にとって不利益なことがあるのであれば事前に説明をするのは常識的に行われていることです。件の税理士の先生も「1か月分の社会保険料がかからない」という点だけを会社側も本人に説明しているのではないのかと思います。このようなことで訴訟になることはないのかもしれませんが、もし仮に訴訟になったとしたらデメリットをきちんと説明していないという点について責任を問われかねないと思います。

そもそも、事実として退職日が月末なのに月末の前日を退職日として書類を作成するという行為自体、虚偽の公文書作成です。そのこと自体にすでに問題があります。得だとか損だとかという問題以前の話ではないかと思います。

このように月末が本来の退職日であるところを月末の前日を退職日とするのは問題となる点があるということです。そのことを十分に理解していただきたいと思います。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

免責事項

当ブログで記載されている情報においては、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めています。しかし、誤情報が入り込んだり、情報が古くなったりすることもあります。必ずしも正確性を保証するものではありません。また、合法性や安全性なども保証しません。

当ブログに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。