今日は顧問先から実際に受けた質問を元に書いていこうと思います。
質問の趣旨は次のようなものです。
「休日に勝手に出社してタイムカードを押して仕事をしている社員がいる。会社としては休日に出勤してだらだらと仕事をしてほしくないし、長時間労働や時間外労働の割増賃金の問題もあるので、そうした行為は認めたくない。そこで、休日出勤を申請制にして、休日出勤をする場合には事前申請をしないと労働時間としては認めないという形にしたいが、これは適法なのか?」
勝手に社員が休日出勤したり、指示がないのに残業をしたりということはあり得ることです。このようなときに、どうしたらいいのでしょうか?
残業や休日出勤を「許可制」にすること自体はよくあることです。時間外労働や休日出勤を所属長の許可が必要としていた会社で、所属長の許可なく、時間外労働や休日労働をした場合というのは実は裁判例にも数多くあります。
平成18年10月6日に大阪地方裁判所で出ている「残業許可制」の事件、昭和観光事件というのを引き合いに出してみましょう。
この会社では、時間外労働をする場合には、あらかじめ所属長の承認を得なければならない旨を就業規則に規定していました。この場合、事前の承認のない時間外勤務を行った従業員の割増賃金の支払義務があるのかという点が裁判になりました。
裁判所は次のように判断しています。
事前承認のない残業について「時間外勤務についてはY社からの業務命令である」と認定したうえで、「就業規則には時間外労働について所属長の承認が必要である旨が規定されているが、この規定は不当な時間外手当の支払いがなされないようにするための工夫を定めたものにすぎず、業務命令に基づいて実際に時間外労働がされたことが認められる場合であっても事前の承認が行われていないときには時間外手当の請求権が失われる旨を意味する規定であるとは解されない」として、時間外手当の支払いを命じています。
上記の裁判例を参考にしたうえで、「残業・休日労働許可制」を導入するにあたって、どこを注意したらいいのかを要約すると、以下のようになると思います。
① 実際、残業をしなかったら成立しないような業務量なのに、一方的に時間で切って、それ以上の残業はしていても認めないというのは認められない。
② 残業を事前許可制にしていたとしても、実際の労働時間を把握する方法をとらないと使用者側は責任を問われる。
③ 残業の事前許可制を有効にするには個々の労働者から「残業は事前許可を得ないと認められない」旨の文書を交わすか、もしくは、本人がその制度の運用があることを認めていないと認められない
残業や休日出勤を許可制にするのは、そもそも何のためでしょうか。 問題はそこなんだろうと思います。 残業代を払いたくないから? 長時間労働を是正したいから? 事業主が分からないところで仕事をやっているのを認めたくないから?
様々あると思いますが、そもそも許可制にする目的を今一度、考えてみたほうがいいと思います。単に残業代を支払いたくないからという理由だと足元をすくわれかねません。 単に、勝手に残業した時の残業代を払いたくないという理由で許可制にして、事前に届け出があったもののみにするということだと、争いになった時、上記の裁判例のように経営者側に不利な判断になる傾向があります。
そもそも残業の許可制というのは、不当労働行為の温床になりかねないということから裁判所も容易には認めてくれないわけです。 事前許可制が認められるケースというのは、他の労働者でも運用が厳格に行われていて、きちんと労働時間が把握されていることが前提です。残業は許可制だから、勝手にやっている残業は時間数自体把握していないということでは、使用者側が責任を問われます。許可があって残業しようが、勝手に残業しようが、労働時間の管理はしないといけません。
また、残業しているのにその勤怠記録を削除するなどの行為があれば事前許可制が認められないだけでなく、不法労働行為に問われかねないということは認識すべきでしょう。
それから、そもそも休日出勤するなどの行為が、業務が終わらないということでの出勤なのだとすると、業務量が多いという問題があるわけです。そうであれば、実態としてその業務量が多いことについて、何らかの取り組みを会社側は取っていないといけません。早出残業や仕事を自宅に持ち帰っている場合など、会社が把握していないだけで残業があるケースもあるでしょう。全部を把握することは難しいでしょうが、業務量の調整が必要であることは使用者側が考えなければならない点です。
残業の事前許可制自体、私は反対はしません。むしろ、そうした制度を導入すれば、長時間労働を事前に防止できる可能性があるという点からすると、残業の事前許可制は一考に値するものだと思っています。
残業の事前許可制の目的が、 「長時間労働の是正(事前防止)」や「業務の効率化」につながるのなら、働き方改革の方向性にも合致しているといえます。
また、この制度を運用するにあたっては、「残業は事前許可制である」旨について、個々の従業員の承諾書を取ったほうがいいと思います。社員全員の承諾書を取るのが難しければ、社員向けに「残業する場合には事前に許可が必要」である旨の社内向けの文書を交付するなどしておいた方がいいです。要するに、個々の従業員さんがこの制度自体があることを認めていないとそもそも話にならないからです。また、その意味でも就業規則にも「残業は事前許可が必要」であることを記載しておいた方がいいでしょう。
勝手に残業していたものは認めないという発想自体、昔の労務管理の考え方です。経営者はそれを自覚したほうがいいと私は思います。 いずれにしても、「残業の事前承認制」の運用に当たっては上記の三点(①実際の業務量の考慮 ②正しい労働時間の把握 ③従業員本人の承諾)が必要だと思います。
参考にしていただければと思います。