今日はちょっと簿記的な話になります。
たとえば、個人事業が法人なりした場合、個人が事業で使っていた資産を法人へ譲渡する場合があります。このような場合、法人(このブログではこれより先は「会社」と書いていきます)は個人(このブログではこれより先は「代表者」と書きます)から資産を受け入れて、その資産の金額相当を代表者からお金を借りたものとして処理します。
具体的にはこんな仕訳になります。
(建物付属設備)×××(借入金)×××
(器具備品) ×××(借入金)×××
(車両運搬具) ×××(借入金)×××
さて、この場合、この社長からの「借入金」を「短期借入金」として処理するか、「長期借入金」として処理するかという問題が今日のテーマです。
ヤフーやgooの質問のサイトにもそんな疑問が投稿されていました。これに対してはこんな回答が書かれていました。
「1年以内に返済する予定なら短期借入金で、1年を超える返済期間なら長期借入金」
「返済する予定や計画が特にない借入金だったら、どちらでもいいのでは」
「税理士や会計士の判断に従う」
まあ、そういうことなのですが、いずれの回答もかなり教科書的で実務の観点から有用と思える回答はあまりないようです・・・
ですので、今日はこの「代表者の借入金の簿記上の処理」について、実務の観点からどうするのがいいのか書いていこうと思います。
結論としては、私は会社が代表者から借りている借入金は、原則としては「長期借入金」で処理すべきと考えています。
なぜか?
これは銀行融資を意識してのことです。
流動性比率というのがあります。金融機関がその会社を評価する場合の基準の一つです。
流動性比率というのは、流動資産÷流動負債のことです。100%以上であることが望ましく、できれば200%以上あることが望ましいとされています。
割合が高ければ高いほどいいわけです。
この割合を高くするには、流動資産を増やすか流動負債を減らすか、ということになります。
したがって、代表者の借入金は「短期借入金」ではなく、「長期借入金」で表示したほうが流動性比率が上がります。ということで、金融機関の視点からすれば、断然、代表者の借入金は「短期借入金」ではなく「長期借入金」にすべきなわけです。
もちろん、銀行をはじめとした金融機関はこうした指標のみで判断しているわけではなく、指標の一つでしかないわけです。しかし、指標の一つとして、会社の評価に影響があることも事実です。そうした指標はいいに越したことはありません。こんなちょっとしたことで、会社の経営上の指標が上がるのであれば、有利な方へ変えたほうがいいに決まっています。
ちなみに言っておきますと、さきほどの回答で「税理士や会計士に聞いたほうがいい」というような回答がありましたが、残念ながら、その「税理士」や「会計士」の多くはそんなことはあまり意識していません。特に、「税理士」は傾向として、「税務署がどう思うか」にばかり意識が行く人が多く、金融機関がどう思うかとか、銀行融資に有利な決算書にしようとか、そういうことにはあまり関心がないことが多いです。
いずれにしても、経営者の皆さんとしては、関与している税理士や会計士に「代表者の借入金は長期借入金にしてほしい」と言えばいいわけです。
あるいは、もしかしたら税理士や会計士にそういうと、「金融機関の借入金は長期借入金にしているので、代表者の借入金を短期借入金としてわかりやすく区別している」というようなことを言われるかもしれません。それはそれでもいいんだと思います。現に私もそんな感じで以前は処理していました。ですが、「短期借入金=代表者借入金」とした方がわかりやすいというのであれば「代表者借入金」という勘定科目を作って、長期借入金の下に表示するようにいてもいいわけです。流動性比率のことを考えれば、別に「短期」借入金にしなくてもいいわけです。
金融機関の視点から、経営者自身がこうしたちょっとしたことに気を掛けることが必要だと思うわけです。