経営者からいただく銀行融資の質問で多いことの一つにこういった質問があります。
「銀行からの借入金というのはどのくらいが適正なのか」というような質問です。
銀行は決算書や試算表などの財務データをもとにその会社の財務状況をコンピュータ解析しています。「一次審査」のようなものでしょうか?それに、経営者から聞いた事業見込みや担当の銀行員の独自の考えなどを加味してその会社を「診断」します。
借入金などの数字が適正かどうか(借りすぎていないか)は、一般的にこの「一時審査」とも言うべきコンピュータ解析の段階でチェックされる項目です。
一般的に、「借りすぎていないか」というのはどういう基準で判断されているのでしょうか。
一般論としてですが、月の平均売上高の4ヶ月前後というのが借入金の多いか少ないかのポイントとなっているようです。
1か月の売上高の4ヶ月分より少なければ、対売上比で借入金が少ないと判断されます。4か月以上8か月未満程度だとやや多いと判断され、年商の3分の2以上だとかなり多いという感じです。この範囲になると新規融資には慎重になる感じです。
また、経常利益で借入金を返済するわけですから、経常利益で借入金の年間返済額をまかなえているかもポイントになるでしょう。決算書のうち、減価償却費は現金支出のない経費ですから、「経常利益+減価償却費」が借入金の年間返済額未満かどうかも「一時審査」のチェックポイントです。借入金が膨らんでいて年間返済額が「経常利益+減価償却費」を上回っていると、これも新規融資が受けづらいと判断されるかもしれません。
また、たとえば、「リース債務」など、「借入金」に近い性質のものがあればこれも借入金と考えてコンピュータ審査は行われます。リースがあればそれも借入とみなして、「月商の何か月分か」あるいは、「経常利益+減価償却費」の金額の範囲に「借入金の返済+リースの返済額」が収まっているかもチェックしてみるといいでしょう。
ただ、いずれにしても上記はいわゆる「一時審査」であるコンピュータ審査の段階の話です。事業の可能性だったり、事業の継続性だったり、そういう数字には表れない部分は人間が判断します。つまり銀行員自身が評価します。銀行融資というのは、「一時審査」にそれらを加味して総合的に判断されるわけです。ですから、「一時審査」の判断要素である「月商に対しての借入金」というのはあくまでも目安であると理解しておいた方がいいでしょう。
もう一つ。あまり「借りすぎではないか」ということを過剰に意識しないほうがいいということもあります。「借入金の金額が多くなってきたから今回は借りないで自分の預金から資金繰りに回そう」と考える経営者も多いです。以前にもこのブログで触れましたが、経営者の個人の資金を出す前に銀行融資を優先すべきです。上記の「月の売上の約4ヶ月分」というのは一般的な目安にすぎず、それよりも目の前の資金繰りが回るのかどうなのかがまずは重要なのです。「月商の4ヶ月分」と言ってしまうと、それが独り歩きしてしまうのですが、これは単なる目安です。ケースバイケースであることは理解しておく必要があります。
また、銀行が貸すと言っているのに借りるのに必要以上に慎重になる経営者がいます。それらの多くは誤解があると思われるものです。そもそも銀行というのは融資になる慎重な部分があります。もし回収できなかったとしたら、利息であげる収益の何倍もの損失を出してしまうこともあるわけですから当然です。
銀行員には「融資畑」と「営業畑」の2種類がいます。「営業畑」の銀行員は、貸し出すことに意味を見出すので、貸すことを前提に物事を考えます。一方で、「融資畑」で長年審査を担当してきた銀行員は融資の審査が辛くなりがちです。返せなくなることを考えて融資をするからです。
その「融資畑」の審査も無事に通過していて、晴れて銀行がお金を貸すと言っているのに過剰に「借りすぎではないか」と反応してしまうのも変な話です。きちんと銀行の審査を通っているのであれば、それは返すだけの根拠があるから銀行も貸しているわけです。堂々と借りて問題ないわけです。
「借りられるときに借りられるだけ借りておく」これは対銀行対策の鉄則です。一般的な言い回し(たとえば、月商の4ヶ月分というようなこと)はわかりやすいですから、私も使うわけですが、あまりそれにこだわらなくていいと思います。
いずれにしても、銀行融資に対しての一般的な考え方を知っておくのはいいことです。
その意味で、適正な借入金というのを一般論として知っておくことは有意義だと思います。