今日は来年1月から始まる雇用保険の新しい制度についてご紹介いたします。
「雇用保険マルチジョブホルダー制度」というものです。
雇用保険は主たる事業所での労働条件が週所定労働時間20時間以上、かつ、31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に適用されます。
これに対し、「雇用保険マルチジョブホルダー制度」は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して以下の3つの要件を満たす場合、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者となることができるというものです。
1 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
2 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
3 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
上記の要件に該当する被保険者のことを「マルチ高年齢被保険者」といいます。
さて、この「マルチ高年齢被保険者」に該当するとどうなるのかということです。
「マルチ高年齢被保険者」となった場合、一定の要件を満たせば、高年齢求職者給付金が受給できるようになります。「マルチ高年齢被保険者」が失業した場合、被保険者であった期間が1年未満なら30日分、1年以上だったら50日分、受給できるわけです。この「失業」というのは2つの事業所を両方やめた場合だけでなく、2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも受給することができます。ただし、2つの事業所以外の事業所で働いていて、離職していないもう1つの事業所と3つ目の事業所を合計すると、週の労働時間が20時間以上になる場合、マルチ高年齢被保険者の要件を満たすので、被保険者期間が継続されることになります。結果としてこの場合、「失業」には当たらないため受給することができません。
また、実際に受給する場合には、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あること等の要件があります。
原則として離職の日以前の6か月間に支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額のおよそ5~8割となっており、賃金の低い方ほど高い率となります。
さて、この雇用保険マルチジョブホルダー制度ですが、特徴的なことの一つとして、マルチ高年齢被保険者となることを希望する本人が手続きを行うということがあります。
通常、雇用保険の手続きは会社が行います。ですが、この雇用保険マルチジョブホルダー制度の場合、書類をそろえたら手続き自体は本人が行うことになります。事業主としてやることは、本人から依頼があったときは、手続に必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)を行うことです。また、この手続は電子申請での届出は行っていません。本人の住所地の管轄ハローワークに行って行うことになります。
また、注意点としては、たとえば、A事業所で週15時間、B事業所で週8時間、C事業所で週6時間の労働時間があったとします。この時、A事業所とB事業所で届け出をしていて、この方がB事業所を退職したとします。この時、A事業所とB事業所で届け出している労働時間は20時間未満になります。ですが、実際にはC事業所でも働いているので、改めてA事業所の15時間とC事業所の6時間を足すと週の労働時間は20時間以上になります。この場合、AとBの資格喪失を出して、改めてAとCでの届け出をするという流れになります。
これは通常の雇用保険の手続きにはない特徴的な点です。
また、事業主としてはマルチ高年齢被保険者がいる場合、雇用保険料が別に発生します。当然、給与計算時にも本人から雇用保険料を徴収する形になります。給与計算や労働保険料の計算の際には注意が必要でしょう。
それから、雇用保険に加入するということは「育児休業給付」「介護休業給付」「教育訓練給付」の対象にもなります。65歳以上の方なので、通常は育児休業給付はないのかもしれませんが、「介護休業給付」や「教育訓練給付」は使うことはあり得る話です。この点も留意しておく必要があります。
現在、65歳以上の方で複数の事業所で働いているケースというのは結構、多いです。
私の顧問先の介護事業所でもそういう方は結構いらっしゃいます。
来年(2022年)1月1日からスタートする「雇用保険マルチジョブホルダー制度」について、事業主の皆さんはぜひ知っておきましょう。