前回に引き続き、銀行の話を今日もしてみたいと思います。
よく、銀行口座を作って銀行との関係を作るというような話をする経営者がいます。
口座を開いてお金を預け入れすれば関係が作れるというような話です。
これを銀行側から考えてみましょう。
銀行側から見ると、預け入れてもらったお金は、引き出したいと言われたらすぐに返さないといけないお金です。当たり前の話ですが、こういう当たり前のことが重要なんです。
この当たり前の話を銀行側からすると、預金者の預け入れのお金は「負債」勘定となるものです。
預け入れする我々預金者の側は預金通帳の残高は「資産」ですが、銀行からすると「負債」なわけです。当然と言えば当然なのですが、誰かの資産は誰かの負債になっています。「簿記」というよりかは「経済」の基本的な考え方です。
さて、銀行口座を開いて関係を作るという話です。
口座を開いただけでは、銀行側からすると、ただ「負債」が増えるだけです。(もちろん相手勘定である「現金」も増えていますが)つまり、銀行的には収益に貢献できているわけでもないわけです。
前回のブログでも書いた通り、銀行の本質は「金貸し」です。「お金」という銀行にとっての「商品」を誰かに貸すことによって「利息」という収益を得るビジネスモデルです。
本来は、預け入れてもらった預金を他の誰かに貸すことによって収益を得ているわけで、預金してもらうことも銀行の大事な業務なわけですが、今、銀行の置かれている状況というのは空前のカネ余り状態です。銀行が大量に持っている国債を日銀に売って売った代金である日本円が銀行の手元にあるわけです。(日銀から売却するよう言われたから売ったわけですが)
ご存知だと思いますが、今は「マイナス金利」という時代です。銀行は手元に一定程度お金があると日銀に預け入れしないといけません。預け入れすれば本来は「利息という収益を得る」ことができるわけですが、マイナス金利というのは逆に「利息を払う」ことになるわけです。銀行にとってはそれは損な話ですよね?だから、手元にあるお金を誰かに貸して収益を得るようにしたいわけです。日銀のマイナス金利政策というのは、つまるところ、日銀が銀行から国債を買い取って銀行が手元に持っている現金という商品を誰かにお金を貸すことによって景気を活性化させよう(デフレを脱却させよう)という政策なわけです。
ちょっと経済の話に飛びましたが、要するに、「口座を開いて銀行との関係を作る」というような経営者の話は少しピントがずれているというのはわかりますか?
銀行にとって関係というのは、あくまでもお金を借りることによって築かれるものなんです。特に、今のような経済の状態(マイナス金利の状態のことです)では、銀行にとっては預金を預け入れしてもらうことよりも、お金を借りてくれる人の方が「いいお客さん」なわけです。
よく考えてみてほしいのですが、今、普通預金の利息って何%くらいでしょうか?
0.01%~0.02%くらいです。
1千万円預け入れしてもたったの1年で1000円から2000円程度にしかなりません。
それに対して、借入した時の利率はおおよそ1%~3%の範囲です。
史上空前の低金利時代です。
これを銀行の視点から解釈すると、貸出金利が安いというのは、借入金という商品をみんなに買ってもらいたいからですよね。だから、借りた時の金利が安いわけです。逆に、銀行にとっては「負債」になる預け入れの金利が安いというのは「今は預金に預け入れしてもらっても困る」というメッセージでもあるわけです。
さて、銀行の口座を開くということの銀行側からすると特に「関係を築く」と言えるほどではないというのはわかったと思います。
ここでやや応用的な話です。
取引銀行から1000万円の借入金があったとします。金利が2%だったとします。
そうすると、年間の利息は20万です。
この状態のとき、銀行の担当者が「定期預金を組んでほしい」と話しに来たとします。
これはどういうことでしょうか。
銀行にとって考えてみればわかる話です。
たとえば、上記の状態で500万円の定期を組んだとします。
そうすると、銀行にとっては実質的に、「1000万円-500万円」ということで500万円貸しているのと同じということになります。
つまり、利息収入は20万円なのに対して、借入金は500万円なわけですから実質的には20万円÷500万円で、年利4%で貸しているのと同じと考えるわけです。
銀行からすると、すでに借入金がある先に「定期を組んでほしい」という話をするのはこういう効果が期待できるからです。こういうのを実質金利といいますが、この実質金利という数字を得たいために、こんな話をしてくるわけです。500万の定期を組んでもらって銀行の手元の現金を増やしたいわけではないということです。
さて、預金と借入金のこうした基本的な話というのは経営者としては必ず理解しておくべきことだと私は思います。本来はこうした話は顧問税理士がいればその税理士からしないといけないわけですが、こういう銀行の考え方のような話をしてもらったという話をほとんど聞きません。税務や経理処理も大事ですが、経営というのはそれだけで成り立っているわけではありません。むしろ税務申告や経理というのは経営にとってはほんの一部分でしかありません。
もしこのブログをお読みの方が依頼されている税理士からあまりこういう話を聞いたことがないのであれば、その関係を考えないといけないと私は思います。
また機会があったらこうした銀行の話を書いていこうと思います。