さて、今日は法人なりしたり、個人でやっていた事業をやめることにしたりして、個人事業を廃止した場合の事業税の取り扱いの話をしたいと思います。
税理士であっても意外とこの論点が抜け落ちてしまう点ですので、この機会にこのようなものがあることを知っておいていただきたいと思います。
具体的にこのケースが発生するのが多いと思われるのが個人事業を法人にした場合です。法人なりした場合にはこの処理が発生する可能性があると理解しておいたほうがいいでしょう。
その前に、個人事業にかかる個人事業税について説明したいと思います。
個人事業税というのは個人事業をやっていた場合にかかる税金です。具体的には収入から経費を引いた金額が290万円超だと個人事業税がかかります。
たとえば、令和元年の確定申告書は令和2年2月16日から3月15日までに提出します。その申告書をもとに個人事業税の計算を都税事務所や県税事務所で計算して8月と11月の年2回にわたって納付することになります。
つまり、個人事業税の計算をわざわざするのではなく、都道府県の県税事務所で計算して一方的に納付書を送ってくるので、納税者側は送られてきた納付書に従って個人事業税を納付するという流れなわけです。
また、個人事業税は納付したときに「租税公課」という勘定科目で経費計上します。つまり、令和元年の確定申告で確定した個人事業税は令和2年の8月と11月に納付することになるわけで、前の年の分を翌年に納付する税金なわけです。この辺は住民税と同じです。
さて、そうすると、たとえば、令和元年中に法人なりして個人事業を廃止していた場合、どうなるのでしょうか。実際の納付は令和2年の8月と11月になります。支払った令和2年はすでに個人事業は廃止していますから、支払った事業税は経費に計上できないという問題があるわけです。
このような問題があることを見越して、所得税は個人事業を廃止した年の所得に課税される事業税は廃止年に見積もり計上していいことになっています。(所得税基本通達37-7)
この見積もり計算で経費計上していい個人事業税ですが、次のような算式によって計算することになっています。
(A±B)×R/(1+R)
A・・・事業税の課税見込額を控除する前の当該年分の当該事業に係る所得の金額
B・・・事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し又は減算する金額
R・・・事業税の税率
上記の算式のうち、Bというのは個人事業税にある290万円の控除のことを言っています。
この290万円の控除は事業廃止までの月数で按分するということです。たとえば、6月で個人事業を廃止した場合、290万円を6/12して、145万円が控除額ということです。
具体例で考えましょう。6月末で個人事業を廃止して、7月から法人に組織変更したとしましょう。1月から6月までが所得が500万円だったとすると、500万円-145万円=355万円となります。個人事業税は事業の種類によって税率が異なりますが、税率が5%だったとして算式にあてはめると以下のようになります。
355万円×5%÷(1+5%)=169,000円(百円未満切り捨て)
この169,000円は個人事業を廃止した年の必要経費にできるというわけです。
さて、これを仮にご存じでなく、確定申告をしてしまったらどうなるのでしょうか?令和2年の8月と11月に支払う個人事業税はどこにも経費にできずに終わってしまうということでしょうか?
仮に、この個人事業税の取り扱いのことを知らないもしくは必要経費に入れるのを忘れてしまって、必要経費にあげていなかったとしても大丈夫です!「更正の請求」という方法でさかのぼって経費に計上できます。「更正の請求」をすることで、個人事業税に相当する所得税や住民税の還付を受けることができますからご安心ください。
なお、この「更正の請求」は確定申告期限から5年間です。今だと、平成26年分から平成30年分であれば「更正の請求」が可能です。
また、個人事業の廃止というのはなにも法人なりだけではないです。個人事業主の死亡の場合もあり得る話です。平成26年から平成30年の間に死亡して準確定申告を行った場合に、申告した後に個人事業税を支払っていてそれを経費計上していないようなときも「更正の請求」によって所得税や住民税を取り戻せます。
個人事業を廃止したときの個人事業税の経理処理というのは、実は、税理士も見落としやすい論点です。このブログで参考にしていただければ幸いです。