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今日は節税対策の一つとして利用されることがある「短期前払費用」の話です。

「短期前払費用」とは、契約に基づいて、支払った日から1年以内のサービスなどの役務の提供を受けるものの費用のことを言います。

わかりやすい例としては、たとえば、年契約の火災保険料などが該当します。

1年ごとに契約して1年分の火災保険料の支払いをする場合、支払ったときに全額、経費として計上していいというものです。

国税庁のHPには「短期前払費用」について、次のような説明があります。

法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、前払費用となる場合にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
 ただし、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。(法基通2-2-14)

広告宣伝費や雑誌の定期購読、家賃の支払いなど、短期前払費用となるものはいわゆる「サービスの提供」にかかるもので、一定額のものに該当するものです。また、サービスの提供の仕方も時の経過に伴って費用化されるような定型のサービスです。「等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること」とされています。

そして、もう一つは「契約によって支払方法が1年以内となっているもの」に限ります。

こうしたものに該当しなければ、仮に1年分を一度に支払っていたとしても支払ったものはいったんは「前払費用」として計上し、その後、期間の経過に応じて月ごとに費用に振り替えていく処理することになります。

具体例で考えてみましょう。

〇保険期間が2年の火災保険料を支払った場合

保険期間が2年のものなので、「前払費用」として処理することになります。2年の火災保険料の場合、保険期間に応じて費用に振り替える処理をしていきます。

たとえば、12月決算法人で、12月に保険期間が2020年1月から2021年12月の2年間の火災保険料を24万円を一括支払いした場合、どうなるのでしょうか?

この場合は保険期間が1年以内であることに当てはまっていないため、短期前払費用に該当しません。経理処理としては保険期間に応じて費用処理することになるため、12月決算で12月に支払った火災保険料は24万円全額、「前払費用」となります。

ちなみに、この24万円の「前払費用」は、2020年1月から12月で12万円、2021年1月から12月で12万円、という形で期間に応じて経費計上していくことになります。

〇契約によらずに1年分の家賃を支払った場合

「契約による」のが短期前払費用として経費計上できる原則なので、契約によらなければ支払った金額は「前払費用」として処理していきます。

たとえば、12月決算法人で、契約上は1か月10万円の家賃の支払いは翌月分を前月末に支払う(1月分はその前月12月末に支払う)ことになっていたとします。この場合に2020年1月から12月の家賃分の合計120万円を12月に支払ったらどのような処理になるのでしょうか。

この場合には、契約上は年払いになっておらず、月払いになっているため、1月分の家賃(12月末支払い分)のみが経費計上できることになります。それ以外の2月から12月分の家賃は支払っていても「前払費用」として処理することになり、翌期(2020年12月期)の経費として計上することになります。

セーフティ共済の保険料1年分を支払った場合

月払いで支払っていたセーフティ共済の保険料を1年分支払った場合には、支払ったときに1年分の保険料を経費計上することができます。

たとえば、12月決算法人で、以前からセーフティ共済の保険料を月額10万円かけていたとします。その場合に、2020年1月から12月分の保険料、合計120万円を12月に支払ったとしたらどうなるのでしょうか?

これは、支払時の12月に120万円を経費計上することができます。その場合、2020年1月から12月は保険料が発生しませんが、2020年12月に次の年の分の保険料を支払えば次の期の保険料として経費計上できます。この場合には、2020年12月に120万円を支払えば120万円が経費計上できます。

セーフティ共済の場合、年払いか月払いかを選択します。2年目以降は年払いの手続きをしなければ自動的に月払いに移行します。契約でそうなっており、契約に即した経費計上となるため年払いの経費計上が認められているのです。

短期前払費用が経費として認められる場合をまとめると、以下の4つに要約されます。

  • サービスの提供であること
  • 提供するサービスが月ごとに定型のものであること
  • 契約に基づいた支払であること
  • すでに支払っていること

さて、では、このようなケースでは短期前払費用は認められるでしょうか?

「5年間契約で某ビルの屋上に広告用看板を掲示することとした。その際、掲示料と して600万円の手形(1通の額面10万円で60通)を支払った。この手形は掲示期間中の毎月末を決済日とした。当期末で翌期首後1年を超える期間に対応する分だけ前払費用として計上し、残りは当期の費用とするつもりであるが、税務上問題はないか。」

この例のように1年分以上の金額を支払った場合に1年以内の期間を経費計上することは認められていません。あくまで1年以内の期間分を支払った場合に支払った金額の全額を短期前払費用として経費計上していいというものです。この例の場合には、支払った金額全額が「前払費用」となり、期間に応じて費用化していくことになります。

また、裁判となった事例で、短期前払費用として処理している金額が多額すぎるとして認められなかった例もあります。

この例では、5000万円全額を短期前払費用として処理した結果、所得金額を1791万7019円、納付すべき税額を593万8200円となりました。裁判所は次のように判断して、納税者側の短期前払費用の処理を認めませんでした。

「原告の会計処理を認めた場合に原告が平成7年事業年度の法人税として納付すべき金額と更正処分の結果、同法人税として納付すべきこととされる金額との差額は1904万2500円にもなり、課税上さしたる弊害がないというには多額すぎる。

また、通達が規定する短期の前払費用の処理は、企業会計上の重要性の原則に基づくものであって、同通達の適用を受ける前払費用に当たるか否かについては、それが重要性に乏しい支出か否かによって判断されるべきであるが、原告の財務内容に照らし、また、傭船料は浚渫業者にとって重要度の高い原価であることから考えても、本件傭船料の支出は重要性の乏しいものとはいえない。」(長崎地裁・平成12年1月25日判決)

短期前払費用はこうした様々な点を考慮に入れながら経費計上できるかどうかを判断していく必要があります。私も顧問先にこの短期前払費用の話をすると、簡単に短期前払費用の処理をしたいという話をされることがあるのですが、そう簡単にできるものでもないわけです。

短期前払費用で処理することに問題がないか、しっかり検討する必要があるということは知っておいていい点だと思います。 以上、短期前払費用の話でした


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