週刊ダイヤモンドという経済誌にソフトバンクグループのCFO、財務担当の責任を担う後藤芳光さんの「返せる自信があるのなら借金はいくらでもしていい」というインタビュー記事が載りました。(2018/6/16版の記事です)
今日は会社の借入金について、改めて考えてみたいと思います。
まずは雑誌の記事を少し紹介しましょう。
「上場企業の経営者が株主に対して、『無借金経営です』と胸を張るというのは、何を考えているんだといいたいですね。株主からしたら、企業価値を上げてもらわねば困る。ところが、借金をしなければ、手元資金の範囲でしか成長できない。にもかかわらず、借金は悪だと。もはや、論理を超えていますよね。背景には日本人の美徳のようなものがあるかもしれません。日本人は、借金と聞いた瞬間に一歩引いてしまうんです。それは海外から見たら不思議に映るでしょうね。」
こんな書き出しで始まります。
借金はいくらしても問題ない。問題なのは現預金をいくらもっているかだというような内容が書かれています。
さて、そのソフトバンクですが、借金(有利子負債といいます)、売上を比較してみてみると、以下のようになります。以下は2018年3月期決算の数字です。
売上高 9,158,765百万円
有利子負債 17,042,188百万円
純利益 1,038,977百万円
桁が大きすぎていくらなのかわかりづらいかもしれません。売り上げが年間約9兆円に対して、借金は17兆円もあります。売り上げの実に倍くらいの借金があるわけです。ですが、利益は約1兆円あります。2017年3月期は利益が1.4兆円だったので、昨年比で約4000億円利益が減少していますが、依然として高い利益を出しています。
ソフトバンクの会長の孫正義さんはご自身のことを「借金王」と言っているらしいですが、これだけ借金があっても問題がないのは、現預金が約3兆円もあるためです。借金と言ってもすぐに返済を迫られるわけではありません。経営にとって大切なのは借金をいかに少なくするかではなく、できるだけ多くの現預金を持つことです。そして、確実に毎期、利益を出すことです。これによって、銀行はより貸しやすくなります。こうした状況が売上以上の借入金をしても問題ない状況を生み出しています。ソフトバンクという日本を代表する企業がこれを証明しています。
私の手元に「会社四季報」があります。「会社四季報」というのはその会社の事業の概要が書かれている辞書のようなもので、日本の上場企業の決算状況のダイジェスト版が載っています。この「会社四季報」を参考にいくつかの有名企業の売上と有利子負債の状況をみてみると、有利子負債が0となっている企業も数多くあります。借金はよくないと考えている表れでしょう。一方で、売上を上回る有利子負債がある有名企業も数多くあります。どんな企業があるのか、少し見てみましょう。
小田急電鉄
2018年3月期
売上高 524,660百万円
有利子負債 611,473百万円
純利益は29,328百万円と過去最高益。複々線化で混雑緩和し、利用者増加。
JR東日本
2018年3月期
売上高 2,950,156百万円
有利子負債 3,190,523百万円
純利益は 288,957百万円と直近5年で最高益。東京駅「グランスタ」やさいたま新都心の商業施設や賃貸ビルが好調。
東京ドーム
2018年1月期
売上高 83,686百万円
有利子負債 140,511百万円
純利益は8,116百万円と直近5年で最高益。スパラクーアが利益に貢献。
住友不動産
2018年3月期
売上高 948,402百万円
有利子負債 3,473,511百円
純利益は119,731百万円と直近5年で最高益。リフォーム・仲介事業が好調を持続。
NECキャピタルソリューション
2018年3月期
売上高 231,432百円
有利子負債 729,073百万円
純利益は6,006百万円と直近5年で最高益。情報通信機器・リースが堅調。
これらの企業の経営状況は決して悪い状況ではなく、むしろ好調な経営状態を維持しています。
よく私が聞かれることに「借入金はいくらまでしていいんですか?」というものがあります。
これは正直言うと、困る質問です。結局、いくらまで借入していいかなどというものは答えがないからです。現預金が少ないのであれば資本金を大きくするか、借り入れ(有利子負債)をするかしかないわけです。これまでこのブログで何度となく、書いてきましたが、どこまで借金をしていいのかと考えるのではなく、現預金を多く持つことが大事です。現金が少ないのであれば、借入金で賄うしかないでしょう。
これまでのブログは以下を参照してください。
上記のような大企業の決算を参考にしてみてはいかがでしょうか?