ある経理専門誌に書いてあった税理士の記事について、今日書いていこうと思います。銀行借入金についての見解を述べたものです。
要約すると、このような内容です。
「借入金の適正度の目安を表す数値が『借入金月商倍率』です、目安として借入金の月商倍率が6か月を超えると、倒産の危険水域に入っていると判断してもよいでしょう。平均的な売上高の経常利益率の会社でも月商の6か月以上の借入金があると、支払利息で経常利益が吹き飛んでしまうことになるからです。」
こうした記事をお読みになると、書いているのは税理士ですし、皆さん、信用しますよね?
私はこの記事を読んで、即座に「はあ?何を言っているの、この人!何もわかっていないんだな。」と思いました。
この記事に見られるような考え方の会計の専門家である税理士や公認会計士は多いことと思います。しかし、月商の6か月の借入金が倒産の危険水域というのは、はっきり言って、的を得ていないどころか、私に言わせれば、この記事は嘘を書いているといってもいい話だと思います。
具体例で考えればわかりやすいでしょう。
たとえば、月商が300万円の会社があったとします。月商300万円ですから、年商3600万円です。中小企業だったら、これくらいの会社は普通にありますよね。
この月商300万円の会社が月商6か月分の借入金があったとします。そうすると、1800万円ですね。わかりやすく、2000万円の借入金があったとします。
そうすると、利率は現状の市場金利からすると1%~2%というところでしょうから、仮に利率が2%だったとします。そうすると、年間の支払利息は約40万円くらいの話です。年間40万円の利息で、この税理士が言うように「支払利息で経常利益が吹き飛んでしまう」とか「倒産の危険水域」なんて話はあり得るのでしょうか?
「借入金は利息の返済だけではなく、元本の返済もある。利息だけでなく元本の返済も返せなくなるから倒産に至る」と反論するかもしれません。
しかし、借り入れが2000万円だとして、標準的な5年返済の長期借入金だったとすると、年間の元本返済額は約400万円です。月にすれば30万円ちょっとです、利息もあわせても返済額は35万円くらいといったところです。
月商300万の会社だったら、月の売上の1割程度が借入金の返済ということになります。借入金を返済した残りの9割のお金で経営していくわけです。十分、やっていけるはずです。加えて、返済に係るお金が毎月これくらいなのであれば、十分に利益も出せますよね。果たしてこれで倒産すると言える状況なのでしょうか?
「借入金は、業績が悪くなった時のために備えて、業績が回復するまでの間の時間を買っているんだ」と言った社長さんがいらっしゃいました。毎年、利益を出し続けている中小企業の社長さんのお言葉です。これは大変、的を得ていてわかりやすい表現だと思います。
倒産する会社というのは、決して「借入金の多い会社」ではありません。「現預金のない会社」が倒産するのです。現預金があるうちは倒産しません。至極、当たり前の話ですが、経営としていくと中小企業の社長さんはここがわからなくなるようです。そして、税理士や会計士と言った専門家ですら、この辺の話がわかっていないのです。
「借金は怖い」と思い、「なるべく借入をしないで経営する」方向に行ってしまうのです。倒産するのは、「現預金がなくなくなってきて」その後、「銀行からも融資を受けられなくなった」場合です。この辺の話は以前の私のブログを読んでみてください。↴
一般的に、税理士や会計士は借入金に対して大きな「誤解」がある人が多いです。借入金に対して最初からマイナスイメージがあるために、「月商の6か月が倒産ライン」という全くナンセンスな話を何万分も発行しているような雑誌に書いてしまうのです。そのために、こうした情報が独り歩きして、「借入金が多いことは会社経営にはよくない」という「神話」がまかり通ってしまうのです。
現に、月商の6か月以上の借入金があっても、倒産どころか順調に業績を伸ばしている中小企業はたくさんあります。月商の6か月どころか、年商に近い借入金の会社が私の顧問先にもあります。では、そういう会社は倒産危機かと言えば、全く違います。むしろ、業績を伸ばしているため銀行はさらに追加融資を申し込みに来ているくらいです。倒産しそうな会社に銀行が貸したいと思うでしょうか?
「倒産の危険水域」ということで言えば、借入金の残高ではなく、手元の現預金が月の販売管理費以上あるかどうかは重要なポイントだと思っています。理想的には、1か月に必要な資金(販売管理費の1か月の金額)の3か月から6か月分手元に現金として思って経営する必要があると私はよく話をします。逆に、販売管理費の1か月分も現預金に残高として残っていない会社であれば、借入金が全くない会社であっても「いつ倒産してもおかしくない会社」であると言わざるを得ないでしょう。
たとえば、震災などの災害や何らかの原因で休業せざるを得なくなった時などを想定してみればわかります。手元の現預金が3か月以上あれば、仮にしばらく収入が入ってこない状況になっても3か月は会社は持ちこたえることができるわけです。もし緊急事態なのであればその3か月のうちに、何らかの次の手を打てますよね。その意味で、先ほどの中小企業の社長さんの話ではないですが、「借金をしてそのお金で時間を買っている」ともいえるわけです。
また、借入金をして経営をすることは、必要な時に必要な資金を引き出せるという意味で、リスクテイクにも役立ちます。多くの人は経営状況が悪くなってから銀行借入を考えます。しかし、経営状況が悪くなってから借りたのでは、審査が厳しくなり、不利な条件になってしまいます。経営状況がいい時こそ借りる。これは企業経営の鉄則です。
その結果、借り入れが増えても、現預金が増えるのであればまったく問題ないわけです。
加えて、借入して返済することで、「信用」という利息をもらえます。銀行審査で何が一番有利になるかと言えば、約定通りに返済してきたという履歴です。この返済履歴が1年よりも2年、2年よりも5年、5年よりも10年あった方が、より信用度が高くなります。「借りたものはきちんと期日に返す」この当たり前のことができると、銀行の信用度は上がります。銀行の信用度が上がれば上がるほど、必要な時に必要な資金をより迅速に用立てすることができる可能性が高くなります。
件の税理士などはおそらく銀行借入のない無借金経営が一番いい経営だと思っているのではないかと思います。とんでもない話です。無借金経営ほど企業経営にリスクのあるものはありません。銀行借入がないということは銀行との取引がないということです。その状況では、いざという時に銀行に相談に行っても、融資が下りるまでにまずは時間がかかります。しかも、借入がないということは、銀行に「どんな会社か」を判断する要素が少ないため、審査も厳しくなりがちです。
ということで、皆さんに知っておいていただきたいのは、まずは「借入金の残高よりも現預金の残高の方が重要」ということと、「税理士や会計士と言っても、銀行融資のことをよく理解していない人が多い」ということです。
一人でも多くの経営者がこの事実に気付いてほしいと心から願います。