今日は私の顧問先からも何度かご質問いただいている出張に行った際の日当手当について書いていきたいと思います。
私の顧問先からときどき「出張に行った際の日当を会社からもらってもいいんですよね」「出張に行った場合の日当は1日いくらまでだったら計上していいのでしょうか」といったことを聞かれます。
こうしたご質問をされると私は多少の違和感を覚えるわけですが、そもそも「出張の日当」というのをこうしたご質問をされる中小企業の会社経営者はどのように理解されているのかを自分なりに整理してみました。だいたいこんな感じなのでしょうか。
〇出張旅費というのを規定すれば従業員であろうが役員であろうが1日当たり〇〇円で計上できる。
〇役員の場合には従業員よりも多く日当の計上が可能である。
〇1日当たりの日当の金額には税務上、認められる金額の範囲がある。
〇会社側は領収書もなく経費計上できて、もらう側の役員や従業員は非課税となる
〇認められうるぎりぎりの金額で計上して1年分を計上しても損金計上できる
だいたい、こんな感じで認識されているのだと思います。
要するに、出張の日当というのが中小企業経営者にとって都合のいいもので、節税に利用できるものだというような認識なわけです。
インターネットで「出張日当 相場」とか検索をすると複数のサイトで1日いくらくらいだったら認められるとか言ったことが細々と書かれているサイトも存在します。ですが、皆さんにくれぐれも認識していただきたいのはそもそもそのような金額に、税務上、法令の根拠となるものはないということです。
こうした金額はどこから算定しているものなのでしょうか。これは、一つは過去の出張の日当について争われたいくつかの税務訴訟が根拠になっています。あとは、いわゆる社会通念(世間一般の常識的な認識)から、だいたい国内だといくら、国外だったらいくらという一般的に旅費にかかるお金を判断基準としているようです。
世間一般の相場観というのも大事なのですが、ちょっとあいまいな部分もあるので、ここでは過去の税務判例の裁決事例というのを参考に「出張の日当」についての妥当性を考えていきたいと思います。
題材にするこの事例は期末に出張の日当を期末に一括で計上したことが否認された事例です。こんなことが裁決で書かれています。
「原告は、旅費支出につき従来実費支給制度をとっていたところ、係争事業年度末に旅費規程を制定してこれを定額支給制度に改め、原告代表者〇〇〇〇にかかる旅費につき遡及して新規程を適用し、期末に一括計算して右未払金を計上したものである。
しかし旅費というものは本来実費により支給されるべきものであり、(但し、旅費規程により定額制を定め、それによっている場合でもそれが本来の実費弁償に代るものとして社会通念上妥当な合理的基準に基づき算定されているならば、実費との間に多少の過不足があっても会社からみれば必要経費として認められるべき性質のものである。)右のように期末に一括計算して未払金処理をすること自体不自然なものであるのみならず、原告には出張命令簿、復命簿等証拠書類の備付もなく、右未払金の計上は期末において記憶等により旅費精算書用紙に一括記入したものに基づくものであり、出張事実の存在自体不確実なものである。」
この事例は、なんと昭和35年というかなり古い事例です。かなり以前から争いになるケースが多いということなのでしょう。
上記の裁決例の途中の文言に注意してほしいのですが、「旅費というものは本来実費により支給されるべきものであり、(但し、旅費規程により定額制を定め、それによっている場合でもそれが本来の実費弁償に代るものとして社会通念上妥当な合理的基準に基づき算定されているならば、実費との間に多少の過不足があっても会社からみれば必要経費として認められるべき性質のものである。)」とある点です。要するに、日当旅費が認められるのは実費精算したとしても違いがあまりないケースだと言っているわけです。
さらに、この裁決事例では、このあと公務員の出張旅費との比較に言及しています。
「そもそも旅費は職務を遂行するに通常必要な旅行をなした場合にその旅行実費を弁償するために受けるものである。
国はもちろん地方公共団体、企業等の旅費支給者の多くがいわゆる定額旅費制度を採っているのは、旅行経路、利用交通機関および宿泊施設等について個々にその実態を把握したりその実費費用を計算したりすることの困難煩累であるところから合理的な根基により社会通念上の実質に近い定額を予め規定して事務的手続を簡素化する趣旨によるものである。そこで税務の執行面においては、右定額が本来の実費弁償に代えて社会通念上妥当な合理的基準に基づき算定されているならばその定額と旅行実費との間に若干の過不足があってもそれは僅少の差に止まるであろうから社会通念および課税技術上敢えてその過剰分については課税を行わないわけである。
税法は、非課税所得としての旅費額の範囲あるいは損金として認められる限度については直接これを規定していないが、それは当該会社の規模、業態及び業績その他の諸状況からみて当該会社の業務遂行上通常且つ必要なものであると一般に観られる程度のものでなければならないのである。」
少し長いですが、引用したのは出張旅費が認められる根拠についてきちんと書かれているためです。要するに、出張した際にかかる様々な経費、たとえば食費であったり、電話代などの通信費、宿泊を伴えば宿泊費や朝食代など、様々なものがかかります。これらをいちいち計算して精算するのは煩雑であるために「日当」を認めると言っているわけです。こうした趣旨から実費精算した場合と日当の額に大きな差異がないことが条件だと言っているわけです。
また、公務員の日当手当が日帰りなのか、宿泊なのかとか、距離によって分けていたりといったことをしていることからこうした基準を設けて、代表者なら1日いくらまでなら認められるといったことを細かく書かれているサイトもあるようです。
しかし、上記のような裁決事例などからすると、いくらまでならいいと言い切れないと思います。つまりは、日当の金額の根拠もあいまいだということです。
これらのことから、私としては「日当旅費手当」ではなく実費精算をして、従業員であれば〇〇手当という形で給与にして支給するのが、まずは正攻法ですがいいのかなと思います。そのうえで「日当旅費手当」をどうしても計上したいということであれば、以下のような点に留意して取り扱う必要があるだろうと思います。
〇「日当手当」は通常かかる旅費や滞在費、食費等の実費を考慮し、その実費と大きな違いのない形で金額設定すること
〇宿泊の有無、距離、飛行機や新幹線などの公共交通機関のどれを使用したのかといった点を考慮した設定とし、たとえば宿泊費や交通費を実費精算を別にしている場合には、それらを控除した金額設定にする必要があること
〇可能ならば就業規則などで「出張旅費規程」を作成し、労基署に届け出をして受領印をもらえればなおよいであろうこと
〇旅費について、どこでどんな活動(業務)をしたのかというのを書いた滞在日誌のような記録をきちんと残しておくこと
〇日当手当の精算は決算時に年1回のような処理ではなく、随時処理をし、決算時に節税目的の調整のような行為が行われる余地がないようにすること
思いつく範囲で書いてみると、上記のようなことがあげられるだろうと思います。
「日当手当」のすべてが否定されるわけではないとは思います。ですが、実費精算できるのであればまずは実費精算すべきと思います。そのうえで、日当を出す場合には、まずは規定を作り、その通りに運用すること、お金は後でまとめてではなくその都度精算していくこと、そしてできれば適宜、金額について見直しを加えることなどに気を付けてはいかがかと思います。
ということで、今日は「日当旅費手当」についての話でした。