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現在の朝ドラは「舞い上がれ」です。空へのあこがれからパイロットを目指し航空学校を卒業した主人公が、父が急死したとことで、父が経営していたネジ工場を向上を引き継いだ母とともに立て直すという展開になっています。この中で、ねじ工場を投資家の兄に売却し資金を得てその資金で会社の立て直しを図るという話が登場してきます。これはいわゆる「セールアンドリースバック取引」と呼ばれるものです。今日はその概要を見ていきたいと思います。

 

いわゆる「セールアンドリースバック取引」とは何なのでしょうか?

簡単に言えば、今持っている土地や建物などの不動産は、見た目には手放さないまま売却(もしくはリース)している形にして資金を得て、貸主には毎月返済していくという取引のことを言います。つまり、見た目は不動産を今まで通りに使っていても問題はないのに、資金は得ることができるという非常に便利な取引なわけです。

 

これに似たものとして「リバースモーゲージ」というのがあります。「リバースモゲージ」は「セールアンドリースバック」との違いに注目すれば何なのかが理解できます。

大きく違う点は「資産の売却をしているかどうか」です。資産自体は売却する(所有権は手放す)のが「セールアンドリースバック」であるのに対して、「リバースモゲージ」は資産の売却はせず、資産を担保にしてお金を借りるという点です。お金を借りるというのが「リバースモゲージ」の特徴であるため、そのことから資金使途は事業資金などに制限されます。一方で「セールアンドリースバック」取引は資金使途に制限はありません。

 

さて、今日はこのセールアンドリースバックはどのように経理処理されるのかという話をしたいと思います。

 

「セールアンドリースバック」というのは名前からしても「リース取引」の一形態です。資産はいったん売却するという取引と、それとは別にお金を借りるという取引と、二つの取引を同時に行うものになります。二つの取引を別々に処理していけば、それほど難しくはないと理解できるはずです。

 

問題なのはこの「セールアンドリースバック」は取引形態によって主に二つの会計処理に分かれるということです。実は会計基準と税務処理とで微妙に考え方が違うのですが、少し税務寄りにここでは解説していきます。今日はごく簡単にこの概要を以下で説明したいと思います。

 

まず、リース取引には主に「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の二つがあります。「ファイナンスリース」に該当するかは主に次の二つです。

①途中解約不能

②フルペイアウト

 

上記のうち①はいいと思います。リース契約の途中での解約はできない取引です。②のフルペイアウトというのは、たとえば固定資産税など、その物件にかかる経費負担をしているかどうかです。固定資産税を払っているのであればリースといっても実質的に所有権は残っているものだと判断されるわけで、それを「フルペイアウト」と呼びます

この①と②の要件を満たしていれば「ファイナンスリース」で、どちらか片方(もしくは両方)満たしていないのであれば、「オペレーティングリース」になります。

 

では、次にファイナンスリースとオペレーティングリースで取引がどう違うのか、簿記の仕訳で見ていきたいと思います。簿記がよくわからない方はここはざっと見ていただければ結構です。

 

ファイナンスリースの場合

<売却損の場合>

(預金)40000  (建物)50000

(売却損)10000

(長期前払費用)10000 (売却損)10000

<売却益の場合>

(預金)60000  (建物)50000

         (売却益)10000

〇オペレーティングリースの場合

<売却損の場合>

(預金)40000  (建物)50000

(売却損)10000

<売却益の場合)

(預金)60000  (建物)50000

         (売却益)10000

 

税務と会計が一致していないのですが、一応、ここでは税務上の考え方で処理していくこととします。

売却の場合に損が出たときは一度に経費計上はできません。リース期間で案分して費用に計上していくことになります。一方で、売却益が出た場合には、税務上は一括で収入に計上することになります。(会計の考え方だと、一度に収入に計上するわけでなく、いったん「長期前受収益」にしてリース期間に応じて収入計上することになります)

また、オペレーティングリースでは、売却時の差額は売却損か売却益かどちらかで処理することになります。

 

さて、上記は売却時ですが、次はそのあとはどうなるかです。

〇ファイナンスリースの場合

(リース資産)40000  (リース債務)40000

毎月の返済時

(リース債務)800  (預金)1000

(支払利息)200

〇オペレーティングリースの場合

毎月の返済時

(リース料)1000  (預金)1000

 

ということで、ごく簡単にしましたが、ご理解できましたでしょうか。

 

それから、消費税のことも少しふれておきます。消費税については売買取引と判定され場合には、売却価額が課税売上になります。一方で、金融取引とみなされた場合には、売却額は借入金と同じとみなされ、消費税は発生しないことになります。

売買取引か金融取引かについては、当事者間の関係やリース資産の内容等から総合的に判断されます(これは法人税基本通達12の5-2-1に載っている話となります)。

また、ファイナンスリースの場合には返済する際には、リース債務の返済や支払利息であるため消費税は関係しないのですが、ファイナンスリースの場合には支払額全体がリース料となるため、消費税は仕入れ税額控除できることになります。

 

ファイナンスリースなのか、オペレーティングリースなのかによって、会計処理や消費税の処理の仕方がガラッと変わります。これをお読みいただいているのが中小企業経営者の皆さんやその経理担当者だとしたら上記のような処理をするのだとざっくりとまずは理解しておいていただければと思います。

 

さて、朝ドラ「舞い上がれ」に出てくる工場をお兄ちゃんに売却するという話ですが、話の概要からすると、おそらくですが、セールアンドリースバック取引のうち、ファイナンスリース取引なのではないかと思います。お兄ちゃんが社長であるお母さんに「1度でも返済が滞ったらすぐに売りに出すからな」という趣旨の発言をしていることから、たぶん所有権自体はお兄ちゃんにわたっているのではないかと思われるからです。

ただ、このお兄ちゃんが将来的に社長になってこのねじ工場を継いだとすると社長個人に返済するという話になるわけです。その場合、例えば会社の状況が好転したら会社の資金でお兄ちゃんへの借入をいったん返済するというのもアリなのではないかと思ったりするわけです。お兄ちゃんがお父さんの遺志を継ぎ、ねじ工場を引き継ぐなんて話はどうなんでしょうか。

「舞い上がれ」は今後どのように展開していくのか見ものですが、このセールアンドリースバック取引をした工場はどうするのかも注目していくと面白いかもしれません。

 

以上、今日は朝ドラ「舞い上がれ」から見る「セールアンドリースバック取引」のお話でした。


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