今日は私の顧問先であったご質問から、特に訪問介護事業所の給与について、基本的な考え方を見ていこうと思います。
まず、このようなご質問です。
「うちの事業所では、利用者さんの介護をやっている時間について時給を払っています。身体介護と生活介護とで時給は異なります。身体の場合と生活介護とで時給を分けることは問題ないのでしょうか?」
これは特に問題はないです。
通常、身体介護の場合には、介護技術を要します。一方で、生活介護はいわゆる「掃除、洗濯、料理」などの家事です。特別な介護技術を要しない生活介護の方を身体介護よりも時給を低くするというのは一般的にいってもよくある話です。
ただ、身体介護と生活介護が同時にある場合、時給をどのように計算するのか、その計算がややこしくなります。身体介護と生活介護を同時にやる場合、就業規則や労働契約書で計算方法をきちんと明記しておく必要はあるでしょう。
次に、このようなご質問です。
「うちの事業所では、A利用者さんのあとに続けてB利用者さんを続けてやるような場合、移動時間について、特に時給は払っていません。利用者さんへのサービスの提供の時間帯だけ給与を支払っていればそれでいいのでしょうか?」
これは、訪問介護事業所でよくある話です。移動時間は労働時間なのか?という点です。
少し古いのですが、平成16年8月27日付で厚生労働省から出ている「基発0827001号」の「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」に、この辺の話が詳しく書かれています。
その中で、ある利用者さんのお宅から次の利用者さんのお宅へ移動する際の移動時間については、労働時間として計算しないといけないと書かれています。
また、ある利用者さんから次の利用者さんへの移動時間は労働時間としても、空き時間があった場合にはそれは労働時間ではない
と書かれています。
また、事業所から利用者さん宅への移動時間は労働時間である一方で、ある利用者さん宅でその日の業務を終了し、事業所へは戻らずに直帰した場合、その利用者さん宅でサービスの提供が終わった時間が業務終了時間である と書かれています。
この辺は、具体的な例示が出ていますので、上記の厚労省の通達を参考にしてみてください。
また、この厚生労働省の「訪問介護労働者の法定労働条件確保のために」というリーフレットに、この「移動時間」に関して、次のような記載があります。
「当社A事業場では、過去3か月間にわたり移動時間を把握した結果、特別の事情がない限り、1回当たりの移動時間が15分を上回らないことが判明しました。そこで、A事業場においては、移動時間を15分と定め、移動1回当たり15分に相当する賃金を支払うこととし、15分を超えた場合には、超過した時間分の賃金を追加して支払うことを検討していますが、可能ですか?」
「移動時間を含め労働時間を適切に管理することは使用者の責務であり、移動に要した時間を確認し、記録する必要があります。移動に係る賃金は、このようにして把握した労働時間に基づき算定するのが基本となります。
ご質問のように、事務処理の簡素化のため移動に係る賃金を定額制にすることは、実労働時間に基づき支払うべき賃金が定額を超える場合に超過分を支払うのであれば、労働者に不利益とはなりませんので、可能と考えられます。この場合、雇入通知書や就業規則でその旨を明示する必要があります。なお、定額制を取り入れても労働時間の把握は必要であるとともに、超過分を支払わないことは賃金の一部不払いとなることに留意してください。」
訪問介護の労働時間の特徴的な部分として、この移動時間の賃金の支払というのがあります。同時に、この移動時間を把握することは、事務処理が煩雑となることが実務上の一つの問題です。そこで、上記のように、一定額の「移動手当」を支払ってそれで終わりにしてしまう方法があるというわけです。事務処理の方法としては検討に値する方法だろうと思います。
「訪問でお伺いしようとした当日、利用者さんが入院することになり、予定していた訪問介護がキャンセルになりました。キャンセルになったのだから特に時給は払わなくてもいいのでしょうか?あるいは、何か手当を払ったほうがいいのでしょうか?」
これも訪問介護ではよくある話です。予定していた訪問介護が、利用者さんの都合でキャンセルになったり、日程変更があったりするケースです。
この場合、理由はどうあれ、予定していた業務が会社都合でなくなるわけですから、 「休業補償」の対象となります。休業補償というのは、平均賃金の6割です。つまり、時給の6割は手当として支払う必要があるわけです。
あとは訪問介護に特徴的な点としては、深夜労働の勤務者の健康診断です。
健康診断は「常時使用する労働者」に対して、雇い入れ時と1年に1回の健康診断をする義務が会社にはあります。「常時使用する労働者」というのは「正社員」と考えていいでしょう。そして、この「常時使用する労働者」の訪問介護が深夜時間帯(夜10時から朝5時まで)に及ぶ場合、深夜労働の従事者に対しては、1年に1回の健康診断が半年に1回になります。この点も注意しましょう。
訪問介護は、介護事業所の他の介護サービスや、介護以外の他の業種とは異なる部分が多いです。上記のような特徴的な点を踏まえて労務管理をする必要があることには十分に留意しましょう!
P.S. 10月1日から「介護職員特定処遇改善加算」の新制度が施行されますが、
その申し込みの締切りが8月31日と間近に迫っています。
この複雑な新制度、あなたご自身で正しく活用できますか?
いまなら無料で詳しく解説しています。
↓ ↓ ↓