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前回に続いて、傷病手当金です。

前々回に書いた休職規定との絡みで、私の顧問先からも質問が多いものになりますが、傷病手当金というのは退職した後も受給できるという話です。

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「傷病手当金って、退職しても受給できるの?」という感じで、たいていの経営者の方にこの話をすると驚かれます。

退職後も健康保険の給付を継続して受けられることを「資格喪失後の継続給付」といいます。ただし、この「資格喪失後の継続給付」を受給するには要件があります。

まずは、退職日以前に1年以上被保険者期間がないといけません。それから、退職日前から傷病手当金を受給していないといけません。したがって、1年未満の被保険者期間だと受給できませんし、退職後に傷病手当金の要件に該当しても受給できません。

この1年以上の被保険者期間というのは、前職の会社に勤めていた期間が1年以上でなくても、前々職の会社と前職の会社の被保険者期間が継続していて(1日もあいていなくて)1年以上の被保険者期間があれば該当します。また、たとえば前々職が協会けんぽで前職が組合健保の場合のように保険者が異なっていても通算して1年以上あれば要件に該当します。

 

以前にかわいそうな例があったのですが、前職の被保険者期間があと数日で1年になる方で、前々職の退職日がたった1日空いていたために前々職と前職の通算もできずに、結局この傷病手当金の資格喪失後の継続給付を受けられなかったことがありました。

どうやら、前々職の退職時に会計事務所から「退職日を月末にすると社会保険料がかかるから月末の1日前を退職日としよう」と言われ、その方はその通りにしたらしいです。そして、再就職して、病気になってしまい、傷病手当金を受給している間に退職となってしまったのですが、運悪く、ちょうど被保険者期間が1年になる前に退職となってしまったため1年以上の要件を満たさず、しかも前々職でわざわざ退職日を月末の1日前にしてしまったために1日空いていることになってしまい、前々職との被保険者期間の通算もできず、結局、傷病手当金の資格喪失後の継続給付を受けられなかった、ということがありました。

おそらく、その会計事務所もそこまでは考えていなかったのでしょうが、こうしたこともあるので「退職日を月末の1日前に」というようなことはしないようにと思います。

(そもそも、退職日を月末の1日前にすれば社会保険料の負担が減るというようなアドバイスを会計事務所が顧問先にするケースがあるように聞くのですが、これはコンプライアンス違反であると私は考えています。)

 

さて、この資格喪失後の継続給付ですが、いくつかポイントがあります。

まず、いつまで受給できるのかという点です。これは、最初に受給し始めてから1年6か月が限度です。「退職から」ではなく、「最初に受給し始めてから」というのがポイントです。

つまり、退職前にたとえば6か月受給していて、就業規則の休職規定によって自然退職の扱いになり退職となったとしたら、退職後受給できるのは1年までになります。

あるいは、たとえば傷病手当金を1か月受給してそのあと復帰して1か月働いたものの、また同じ病気で1ヶ月傷病手当金を受給して退職した場合、最初の受給したところから1年6か月ですので、退職後は1年3か月の期間までと判断されます。

実際に受給した期間が1年6か月ということではなく、受給し始めてから1年6か月ですから、その辺も要注意です。

 

また、傷病手当金の資格喪失後の継続給付の手続き自体どうするのかということも、よく質問を受ける点です。これは、傷病手当金の用紙自体は同じ用紙を使いますが、「事業主記入欄」は退職していますから当然、書く必要はありません。退職前の会社に証明をもらうと思う方がいらっしゃいますが、退職した後はその部分は必要ないことになります。

ということは、退職後の「傷病手当金」は1面の「被保険者の記入する欄」に住所・氏名・生年月日・振込口座等を書き、「医師の記入する欄」に担当医師の証明をもらえばそれで完了になります。意外と簡単ですよ。

 

そして、この点もよく質問を受けるのですが、退職していますから、いわゆる「失業保険」との関係の話です。

いわゆる「失業保険」(正確には「雇用保険の基本手当」といいます)は「働く意思と能力があるのに再就職できない」状況にある人がもらうことのできるものです

「傷病手当金をもらいながら、失業保険ももらえるのではないか」と考える人がいるのですが、それはそもそもそれは出来ないということになります。傷病手当金をもらっているということは「病気や怪我で仕事ができない」わけですよね?それでは、そもそも失業保険をもらう要件である「働く能力」がないことになるわけです。ですから、そもそも傷病手当金をもらっている人は失業保険は受給できません

そう考えると、そもそも失業保険と傷病手当金は両方同時にもらえるわけがないということがお分かりになると思います。

 

その代わりに、ハローワークには「受給期間の延長手続き」というのをする必要があります。

雇用保険の給付は退職日から1年までが原則です。しかし、傷病手当金を受給しているということは「働けない」わけです。何もせずにそのままにしておくと、退職から1年が経過してしまいかねません。そのため、「病気や怪我で働けない」ということを申請して、この1年という期間を延長させるわけです。最大で4年間延長できます。傷病手当金を受給中に退職した人には「ハローワークに受給期間の延長手続きをしないといけないよ」という点もアナウンスしてあげたほうがいいでしょうね

 

最後にですが、傷病手当金は通常、給与の代わりに受け取るものです。そのため、給与の締日ごとに請求するのがいいと思います。締日ごとであれば計算もしやすいですし、特に事情がないのであれば1か月ごとに精算するのがよろしいかと思います。ただ、もちろんまとめて数か月分を請求するのでもOKです。ただし、支給申請は2年以内の期間に限ります(社会保険の給付は時効が2年です)ので、その点も注意してください。

 

ということで、退職後(資格喪失後)の傷病手当金について、今日は解説しました。


6 comments on “退職後も傷病手当金は受給できる!?

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chitose on 2017年1月31日 11:35 AM

初めまして。
2017年の社会保険労務士試験に向けて、勉強中の者です。
いつも大変勉強させていただいています。

質問なのですが、資格喪失後の傷病手当金について、
保険者が違っても被保険者期間を通算できるとのことですが、
保険者が違う場合、被保険者期間はどのように照会するのでしょうか?

(実務のことを全く知らないもので…見当違いな質問かもしれませんが)

不躾に質問させていただきましたが、もし目に留まりましたら
ご回答いただけたら幸いです。

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vmo on 2017年1月31日 9:53 PM

コメントいただき、ありがとうございます。
資格喪失後の傷病手当金で、保険者が違っても通算できるのかというご質問についてのご回答です。まず、「保険者が違う場合、被保険者期間はどのように照会するのでしょうか?」というのは、保険者側がどのように照会するのか?というお話でしょうか?保険者側はおそらくデータベース上で確認するんだと思います。さすがに私も保険者側が実際、どう処理しているのかわからないので、想像でしかないのですが。「保険者が違う」というのはたとえば、健康保険組合の会社に勤めていて、協会けんぽの会社に転職したようなケースが代表例です。健康保険は厚生年金と表裏一体ですから、年金記録から確認するのかもしれませんね。

ちなみにですが、保険者側ではなく会社側は通算されているかどうかをどう確認するかというのは、これは本人に聞くしか確認のしようがありません。たとえば、本当は3月30日に健康保険組合の会社を退職してから4月1日に協会けんぽの会社へ転職したような場合、たった1日ですが被保険者期間が空いてしまいます。その場合、通算は出来ないので、そういうことが原因で資格喪失後の傷病手当金を受給できないことも考えられます。(実際、その例があったことはブログでも書きました)本人は前の会社を退職してすぐにこちらに来たと言っていても、実際の記録は違っている可能性はあります。その点は要注意です。

社労士試験、大変でしょうが、頑張ってくださいね!

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宮倉 義晴 on 2019年3月27日 7:18 PM

始めまして、
3/20付けで退職しました。理由はストレスからくる
病気で傷病手当を3/5から3/20までを会社に提出しました。その際に会社から20日以降は内縁の妻がいるんですがそれの社会保険に加入した方がいいんじゃないかと
言われました。加入したとしてその場合傷病手当金は
出るんですか。計算だと今の傷病手当金は30日で
¥170000円程です。その際傷病手当金は減ったりするんですか?

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vmo on 2019年3月27日 11:05 PM

ご質問の件ですが、結論から言いますと、扶養になると傷病手当金は出ないことになります。
傷病手当金はあくまでも被保険者本人にのみ支給されるものであって、扶養親族に支給されることはありません。
傷病手当金には「資格喪失後の継続給付」という制度があります。健康保険の資格を喪失した後も継続して傷病手当金が受給できるというものです。
これには要件があり、被保険者期間が1年以上ないといけません。協会けんぽのHPに記載がありますので、下記を参照して下さい。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31714/1946-279

この資格喪失後の継続給付を使用する場合には、健康保険料は全額、ご本人負担となります。
扶養になったほうがいいのではないかと言われたという話ですが、その辺が関係していると思われます。
以上、ご検討ください。

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響谷徳介 on 2021年11月2日 10:45 PM

初めまして。
質問させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。
現在の会社でモラハラによる休職中で傷病手当を受給しております。
体調も少しづつ良くなってきましたが、まだ本調子ではありません。
そこで、環境を変える為、転職をし、新しい会社で12月から勤務致します。
その際、通院は継続予定です。
その場合、現職退職後も、傷病手当は受給可能でしょうか。
その際、2022年度の源泉徴収や税金の徴収等で、新しい会社に何か不都合な事等はありますでしょうか。
次の会社は、非常に行きたい会社で、手放す事はしたくない状況です。
以上、長文、駄文失礼致しました。
ご回答いただけますと幸いです。

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vmo on 2021年11月3日 10:36 PM

現状で退職されるのか、これから退職されるのか、その辺が不明ですが、健康保険の被保険者であった期間が1年以上であれば傷病手当金は退職後も継続します。その辺はブログに書いたつもりですのでそちらを参照してください。また、新しい会社の話が書いてありますが、再就職先の会社へ傷病手当金が引き継がれるわけではないです。資格喪失後の継続給付は再就職すればいったん切れます。再就職すれば資格喪失後の継続給付ではなく、健康保険被保険者として受給することができるという話になります。
資格喪失後の継続給付の話なのか、新会社へ傷病手当金が引き継がれるという話なのか、不明でしたので、これをもってご回答とさせていただきます。

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