今日は雇用調整助成金のより具体的な論点について、実際に私の顧問先からお尋ねがあった点などから、こういう場合にはどうなるの?というような話について書いていこうと思います。
まず、雇用調整助成金は雇用保険の助成金です。つまり、雇用保険加入者以外にも支給されるようになりましたが、そもそも雇用保険に入っている人がいない事業所は受給できないのかという論点があります。
これについては、雇用調整助成金FAQの問12に次のように書かれています。
問12 事業主が雇用保険に加入していませんが、労災保険に加入していれば助成対象になりますか。
答 労災保険適用事業所、暫定任意適用事業所であれば、緊急対応期間(4/1~6/30)中は、雇用保険被保険者とならない労働者の休業についても助成対象となります。ただし、雇用保険被保険者となる労働者を雇用しているにも関わらず未適用だった場合には、適用の手続きをしていただく必要があります。
少しわかりづらいかもしれませんが、要するに、4/1~6/30の期間中は特別に雇用保険に現在、加入の対象者がいなくて入っていなかったとしても労災保険には入っているのだろうから、労災に入っていたら対象にするよといっています。
実際、助成金の申請書も雇用保険に入っていない事業所は労働保険番号を記載する形になっています。
また、雇用保険に入っていない方については雇用調整助成金という名称ではなく、緊急雇用安定助成金という助成金の対象となります。中身はほぼ雇用調整助成金と一緒ですが、申請用紙が違いますから注意してください。
また、解雇しても雇用調整助成金は受給できるのかというのもよくある質問です。
通常は助成金というのは解雇してしまうと出ません。しかし、この今回の雇用調整助成金は解雇した場合、支給額は減りますが、助成金は出ます。雇用調整助成金のFAQ問13に書かれています。
問13 労働者を解雇しても4/5の助成は受けられますか。
答 解雇者等を出している場合の助成率は4/5(中小企業)となります。なお、解雇予告した労働者の休業については、以後、助成対象外となります。
それから、FAQからこんなものもご紹介いたしましょう。
問26 自分(社長)の子どもを他の労働者と同じ条件で雇用しています。雇用契約書は交わしていませんが助成金の対象になりますか。
答
◯ 書面ではなく口頭による雇用契約であっても、労働者・使用者の両者がその契約内容に合意していれば労働契約は成立します。
◯ このため、家族従事者の雇用実態が、雇入時に労働条件を明示した書面、出勤簿、給与簿、給与の支払い実態などによって確認されれば、雇用調整助成金の対象となり得ます。
たとえば社長がお父さんで、自分の息子を社員としていたとします。この場合であっても雇用契約を結んでいて、他の社員と同等の扱いになっているのだったら雇用調整助成金の対象となります。
ちなみに、雇用契約書をきちんと交わしていれば雇用保険の加入もできます。その場合、緊急雇用安定助成金ではなく、雇用調整助成金の対象となります。
あとは、短時間休業について聞かれることも多いです。これについても雇用調整助成金のFAQの問33に書かれています。
問33 「休業」とは、全員を休業させなければなりませんか。
答
◯ 通常の場合、雇用調整助成金の支給対象となる休業は、原則、終日休業であるが、事業所における対象労働者全員について1 時間以上、一斉に行われるものを短時間一斉休業として助成対象としてきました。
◯ しかし、事業所によっては、対象労働者全員を一斉に休業できない事情があるはことから、今回の特例措置では、短時間一斉休業の要件を緩和することとしました。
◯ 具体的には、以下に類するような休業を実施する場合も支給対象とすることとしました。
・立地が独立した部門ごとの一斉短時間休業
(例:客数の落ち込んだ店舗のみの短時間休業、製造ラインごとの短時間休業)
・常時配置が必要な者を除いての短時間休業
(例:ホテルの施設管理者等を除いた短時間休業)
・同じ勤務シフトの労働者が同じ時間帯に行う短時間休業
(例:8 時間3 交代制を6 時間4 交代制にして2 時間分を短時間休業と扱う)
◯ なお、この特例は、令和2 年1 月24 日まで遡って適用します。
雇用調整助成金は本来は事業所が一斉に休業した場合に対象にしています。今回は交代しながら時間単位で休業(短時間休業)するような場合も対象にしています。
短時間休業の場合は通常の1日休業のほかに時間数を記載する欄があります。従業員数20人以下の小規模事業者の場合の申請書だと短時間休業の時間数を書く労働者ごとに入力して、通常の1日の所定労働時間を入れれば勝手に自動計算してくれます。そこからも短時間休業も対象になっていることがわかると思います。
それから、労働保険の未納があった場合やたとえば時間外労働を支払っていなかったりして労働関係法規に違反があると、通常は助成金は受給できませんが、そういう場合でも受給が可能になっています。このことは雇用調整助成金のFAQの問22に書かれています。
問22 労働保険料の未納や労働関係法令違反で不支給要件に該当していますが、従業員の雇用維持のため雇用調整助成金を利用できませんか。
答
◯ 今般の「緊急対応期間の特例」は、新型コロナウイルス感染症の拡大が見られる状況下において、雇用維持を最優先とした緊急時の対応であることから、労働保険料の未納や労働関係法令違反の不支給要件に該当していても、特例的に利用いただくことが可能です。
◯ ただし、一定の条件がありますので、まずは、管轄の労働局に御相談ください。
それから、そもそもの話ですが、この雇用調整助成金の申請にあたって最も注意しないといけない点が二つあります。
一つは「休業手当」を支払わないとこの雇用調整助成金は受給できないという点です。
この「休業手当」は平均賃金の6割以上のというルールがあります。支払った休業手当が平均賃金の6割以上になっていないとそもそも対象外となってしまいます。
ちなみに「平均賃金」とは、原則として事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額のことを言います。 ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、総額を労働日数で除した6割に当たる額の方が高い場合はその額を適用します(最低保障額といいます)。
過去3か月間の賃金というのは、賃金の締切日ごとに、通勤手当、皆勤手当、時間外手当など諸手当を含み税金や社会保険などの控除をする前の賃金の総額により計算します。
これを上回る金額を休業手当として支払わなければそもそもが対象外となります。
もう一つが、売上が前年同月と比べて5%以上減少していないと対象となりません。
1年前の同じ月と比べたときに売上が5%以上減少していないような場合には、その前の年、つまり、前々年の同月との比較で5%以上減少していてもいいとされています。さらにそれも適当でなければ、申請書を提出する前の月~1年前の間のいずれかの月との比較でも構わないとされています。小規模事業所の場合、5月19日以降はこの要件の確認は、対象となる月と比較する月のそれぞれの売り上げの帳簿だけ出せばいいことになったのでずいぶん簡略化されました。
さらに、この5%売り上げが減少しているという要件は従業員数20名以下の小規模事業所の場合、1回目の申請時に申請する際に出せば2回目からは出さなくていいことになっていますからこの点も簡略化された点です。
5月19日以降に雇用調整助成金(もしくは緊急雇用安定助成金)の申請をする場合、計画書の提出が必要なくなったり、かなり書類が簡略化されました。ですが、細かな論点になると、「これはどうなるの?」という点は多々、あると思います。私も申請書を作るたびに日々、そのような状況です。そういう場合、自分で判断せず、FAQや厚労省のガイドブックなどをよく読みこんで解決してみてください。
ということで、今日は雇用調整助成金の詳細の部分のお話を少しだけ取り上げてみました。なお、今回取り上げた雇用調整助成金のFAQは令和2年5月11日時点版を参考にしています。今後、FAQは更新されていくと思いますのでその際にはご自身で最新情報を入手するようにしてくださいね。