「働き方改革」というのは、安倍政権の重要な政策課題です。
「働きずめで残業が当たり前」とか「正規雇用と非正規雇用の格差問題」とか「男性中心の企業社会」こういった古くからの価値観に基づいた働き方はこれからは変えなくてはいけない。これが働き方改革です。
雇用保険の助成金にもその「働き方改革」を意識した助成金が数多くあります。
今日は「働き方改革」を代表する助成金、キャリアアップ助成金の正社員化コースについて、書いていこうと思います。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)については、以前にも書きました。↴
今日はその以前に書いたものからもうちょっと踏み込んだ申請時の注意点についていくつか書いていこうと思います。
まず、このキャリアアップ助成金の正社員化コースというのは、有期雇用契約だったり、パート・アルバイトなどの非正規雇用の人材を正規雇用化すると受給できるものです。
この助成金は今、もっとも旬な助成金と言えます。まだ活用されていない事業主さんは、是非、活用してみてください。要件に該当しさえすれば、比較的難しくなく受給できる助成金です。私の関与先でも、一社で2回も3回も申請して受給している会社は数多くあります。
今までもいくつものキャリアアップ助成金の受給のお手伝いをしてきたわけですが、数多くやってきた受給手続きを通して、実務上気を付けるべきポイントは何か、いくつかの論点について書いていこうと思います。
・有期雇用契約の期間は6か月以上ないといけない
正規雇用化すると受給できるのがこの助成金ですが、その非正規雇用の期間は6か月以上ないとといけません。逆にいえば、正規雇用化する前に6か月以上の有期雇用契約にすれば受給の対象になるということです。よくあるのは試用期間3か月で正社員化するというようなものです。6か月以上でないと対象になりませんから、これではキャリアアップ助成金の対象にはなりません。試用期間というのを6か月以上の有期雇用契約にしないといけないわけです。
先日、社労士会の助成金の研修で、ハローワークの職員がこんなことをおっしゃっていました。
「実際、このキャリアアップ助成金を意識して、最初は6か月以上の有期雇用契約にして、その後正規雇用化するという形で採用する企業様が多いのは事実です。ハローワークとしては、あくまでも当初から正社員雇用という形にしていただくよう、各企業様にはお願いしているところですが、実際のところ、有期雇用契約から正社員になるという形で人材採用が進んでいる現状を踏まえ、黙認しているといったところです。」
企業側としては、新規に雇用するのであれば、まずは6か月以上の有期雇用契約にする。これだけで、キャリアアップ助成金の受給につながります。ハローワークとしては、最初は非正規での採用になるわけですから好ましいとは言えないでしょうが、その後正社員化につながっていくのであればこの状況は仕方ないと受け止めているといyったところです。
・社会保険の加入をしないといけない
今までのご相談の中で、キャリアアップ助成金の受給をする以前に、社会保険に加入していない法人からのご相談というのが実に多い現状があります。法人の場合、社長1人の会社でも社会保険に加入しないといけません。ところが、そもそも社会保険自体に会社が入っていないわけです。
「雇用保険に入っていれば助成金は受給できるんだろう」と思っている社長さんが実に多いのですが、雇用保険に入っていても社会保険に入っていないと対象になりません。特にこのキャリアアップ助成金はそうです。
また、会社自体が社会保険に入っていても、少なくとも対象となる従業員さんが正社員化した以降は社会保険に加入していないと受給の対象にはなりません。有期雇用契約の期間であっても、常勤者の4分の3以上の時間を常時働いているのであれば、社会保険に加入していないといけません。
このように、会社自体が社会保険に加入していないとか、キャリアアップ助成金の対象となる従業員の労働時間が長く、本来、社会保険に加入していないといけない時間数働いているのに社会保険に加入していない状態だと助成金の受給ができません。社会保険にきちんと加入していることが重要な条件になっているわけです。
ただ、個人事業で従業員数が5名以下のサービス業などの場合、法律上、社会保険の加入義務はありません。このような事業所では、仮に社会保険に入っていなくてもキャリアアップ助成金の受給対象にはなります。
・正社員化する規定を就業規則に設けないといけない
就業規則に正社員転換の規定がないといけません。これはそんなに難しい話ではありません。たとえば、「6か月以上の有期雇用契約の社員は、本人からの申し出と上長の推薦によって、正規雇用に転換する試験を受け、それに合格した場合には、正規雇用に転換することがある」といった規定を作ればいいだけです。
この際の注意点は、転換時期です。たとえば、「転換時期は4月1日とする」と就業規則に書いてしまうと、それ以外の時期の正規雇用への転換があった場合、助成金の受給の対象外になってしまいます。
そのため、「正規雇用への転換の時期は、随時とする」としておけば、いつ正規雇用に転換しても助成金の受給対象になります。ほんのちょっとしたことですが、注意が必要です。
また、従業員数が10名以下の場合、本来は就業規則の届け出義務はありません。ですが、就業規則の届け出をして、労働基準監督署の受領印のある就業規則を出したほうが話が早いです。仮に、従業員の数が10名以下で、就業規則の届け出義務のない会社の場合、従業員全員が就業規則について同意しているという書類を提出する必要があります。少し書類が煩雑になるため、従業員数10名以下の事業所についても、就業規則を出してしまったほうが手続きは楽になります。
とりあえず、今日は3つの注意点を書きました。引き続き、次回も「キャリアアップ助成金」の受給のための注意点について書いていこうと思います。