治療院をみていると似たような相談事例がいくつかあります。その相談の多い項目の一つが、施術師(柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師)への支払いは給与なのか、外注なのか、という話です。実はこの問題は大変奥が深く、やり方によっては治療院の経営を大きく左右するような問題になるという実に厄介な問題です。
今日は、なぜ給与なのか、外注なのかが問題になるのか という点について、まずはお話していきましょう。
多くの治療院では、施術師への支払いは、経営者側の意図としては、できるならば給与ではなく外注にしたいと思います。なぜなのでしょうか。
給与だと、源泉徴収が必要になります。加えて、雇用保険にも加入しないといけないでしょう。社会保険にも加入しないといけなくなる可能性があります。特に、会社形態(株式会社や合同会社など)でやっている治療院の場合、給与にしてしまうとこの社会保険に加入しなければならないのが負担なわけです。個人であっても、雇用保険や労災保険には加入しないといけないわけで、いずれにしても、給与にすると雇用保険や労災保険、社会保険といった公的保険の負担が増えることが大きな問題になるというわけです。
また、施術師側も外注にすれば、かかった経費を自分で計算して税額を少なくすることも可能になります。正確にいえば、給与の場合には「給与所得控除額」という給与がいくらあるといくら控除できるのかというのが決まっているものがあるわけですが、その「給与所得控除」の金額を超える実額経費があれば外注にした方が税額が少なくなります。
また、外注にして自分で申告する場合に、青色申告を選択したとします。その青色申告で申告する場合の「青色申告決算書」に貸借対照表をつけて提出すると、65万円の控除が受けられます。貸借対照表のない「青色申告決算書」の場合、10万円の控除になります。一方で、給与の場合の「給与所得控除額」には最低額、65万円というのがあります。つまり、給与の場合の給与所得控除額の65万円と、青色申告の場合に貸借対照表をつけると65万円とあるわけで、最低控除の65万円は同じです。外注にした場合、事業所得になるので、これに加えて自分でかかった実額経費を計上できるので、施術師側にとっても税額が少なくなる可能性があるわけです。
また、施術師にとっても、社会保険に入らなくていいのであれば手元に残るお金が多くなることから、外注にしてもらったほうがいいということもあるかもしれません。
このように、経営者側にとっても、施術師側にとっても、税金や社会保険の問題から給与でなく外注にしたがるということです。
しかし、外注にした場合、法律上の問題や税務上の問題などの様々な問題があります。
これを考える前に、「給与」で処理するというのはどういうことなのでしょうか?
逆に、「外注」で処理するのはどういうことを意味するのでしょうか?
給与ということは法律的には「雇用契約」にあるということです。
一方で、外注ということは法律的には「請負契約」にあるということです。
民法では、「雇用契約」というのは「労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約する」となっています。
一方で、「請負契約」というのは「ある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」となっています。
つまり、単純にいえば、「雇用」というのは「労働をしたからお金を払う」のであり、「請負」というのは「仕事が完成したからお金を払う」という違いがあります。ポイントは、請負契約の場合の「仕事が完成した」ということです。
では、「雇用契約」にせず、「請負契約」にした場合、どのような問題が生じるのでしょうか。たとえば、労災事故が起こったとします。施術中に施術者が何らかの理由でけがをしたとしましょう。雇用契約であれば労災が適用されますが、請負契約の場合、仕事の完成に対して報酬が支払われる契約のため、事故の直接の責任について、経営者側は負いません。(間接的に責任はあるかもしれません)
また、たとえば、何らかの事故(大雪で患者さんが来なかったとか、施術者自身が風邪をひいて休んだとか)があっても、雇用契約であれば経営者がある程度の範囲で補償があるかもしれませんが、請負契約では補償はありません。
つまり、「仕事の完成」という部分以外は施術者自身が責任を負う形が「請負契約」なわけです。
このように労災のことなどまで考えると、給与か外注かという問題は、単純に「損」「得」の話だけではないように思えます。
さて、次回は、給与か外注か、どこが分かれ目なのかについて考えていきましょう。