何回かに分けて「保険診療から自費診療に移行する場合の税金の問題」について書いています。今日は、自費収入の消費税を実際に患者さんからもらうことについて書いていこうと思います。
まず、治療院の先生からの質問でよくある質問です。
「うちは自費収入などの課税売上は1000万円にならないから消費税は払わなくていいわけだけど、患者さんから消費税を取っていいの?」
結論としては、消費税という名目で患者さんの治療費に上乗せしてもらっても問題はありません。たとえば、1000円の自費治療だったら80円の消費税ということになり、1,080円を患者さんからもらうことになりますよね。消費税を納める必要がないのにこういうもらい方をしていいのかということです。消費税法上の考え方として、消費税の名目としてもらっているかどうかいうのは考慮せず、消費税という名目でもらった金額も含めた治療の対価としてもらった金額から消費税の計算をします。そのため、消費税という名目でもらって消費税を支払わなくても問題にはなりません。
消費税という名目でもらっても、結果として治療院の自費売上などの消費税のかかる売り上げが1000万円を超えなければ、それは結果としては国には納付しないことになりますが、それは消費税法の問題です。預かっている消費税を国に納めないという、これを俗に「益税」と呼びます。
上記のような治療院の先生からの質問に、ある税理士から聞いたという話で、「消費税は患者さんからもらっても問題ないんですよ。だって、いろいろと払う消費税があるでしょう。だから、患者さんから消費税をもらっても問題ないんです」と説明されたと言われたことがあります。これは間違いです。払っている消費税があるから患者さんからもらっていいというのは、消費税法の理屈からしておかしな話です。
消費税というのは、最終消費者が負担する税金なので、払っている消費税というのは最終消費者だから払っているだけです。
つまり、
消費者 ⇒ 事業者 ⇒ 国
という形で、最終的な消費者から事業者が受け取って、事業者が代わりに納めるのが消費税です。もらう消費税があるというのは、上記の事業者に該当するからもらうわけで、払う消費税があるというのは、消費者の立場になっているから払っているだけです。払った消費税は、原則的には、事業者を通じて国に納められます。
立場が違うから、治療院の自費売上は消費税を受け取っていいというだけです。
ただ、消費税法上の問題で、今は売り上げが1000万円以上にならなければ消費税を納めなくていいので、上記で言えば「事業者⇒国」の部分のお金の流れがないという話です。
(同じ税理士として、この辺はきちんと説明してほしいとは思います。)
私が「消費税分を患者さんからもらってもいい」と言っているのは、もう一つ、別の理由があります。それは、たとえばこういうことを考えてみればわかります。
個人事業者で、平成27年は自費売上が1000万円を超えていなかったのに、平成28年は自費売上が1000万円を超えて消費税を納めなければいけなくなってしまったとします。その場合、平成30年1月から消費税の課税事業者になります。
今まで、消費税分は特に患者さんからもらっていなかったとすると、平成30年1月からは患者さんから消費税をもらわないといけなくなります。
では、平成29年12月までは1000円だったのを平成30年1月から1080円にするのかという問題があります。患者さんにとっては、1000円でよかったのが1080円支払わないといけなくなるのであれば、ひょっとしたら他の治療院に行ってしまう患者さんもいるかもしれません。
課税事業者になったからそこから患者さんから消費税分をもらうようにする、というのは理屈としては合っています。合っていますが、理屈通りにすると、治療院の経営上の心配が出てくるわけです。
では、どうするかということです。
どこかから消費税の課税事業者になる可能性があるのであれば、最初から消費税分をもらってしまう、もしくは途中から値上げをして消費税分をもらってしまうということが考えられます。
また、たとえば、上記の例で、平成29年は自費売上が1000万円を超えなかったとします。そうすると、平成31年は消費税を納めなくてよくなります。
課税事業者のときは患者さんから消費税をもらい、課税事業者でなくなったのであれば患者さんから消費税はもらわないというやり方をすれば、平成30年1月から12月の自費治療は1080円だったのが、平成31年1月からはまた1000円になるわけです。
このように料金が変わってしまうのは、患者さんから見たらどうでしょうか?大変わかりづらい話ですよね?
要するに、経営上の問題や患者さんの視点から考えて、最初から消費税をもらったほうがいいのではないかということです。
もちろん、逆も考えられます。
つまり、消費税分は最初からもらわないというやり方です。課税事業者になっても消費税をもらわずにやるということです。この場合、実質的には事業者である治療院が消費税を負担することになります。消費税分を値上げしてしまうと患者さんが離れてしまうことを懸念して消費税分はもらわないという判断です。実務上は、消費税を納める金額がいくらくらいになるのかによって、消費税分を患者さんからもらわずにやるという選択を考えることになるでしょう。
さらにもう一つ加えていえば、たとえば、1080円ではなく、いっそのこと1100円にしてしまうことも考えられます。消費税が10%に上がることを見込んで、先に1100円にしてしまうということです。消費税が10%に上がったとき、値上げをしない形にすれば、他の治療院がこぞって値上げする中、値上げしなければ経営上、有利に働くこともあり得ます。
自費治療中心に変えていくことは、消費税の課税事業者になることもあり得る話で、料金設定にも大きな影響があることです。「保険診療中心から自費診療中心」への移行にあたっては、この辺の話も考えていかないといけません。