さて、今日の話は従業員さんの給与を上げると企業にとってはどんな特典があるのかという話です。主には「所得拡大促進税制」の話と助成金の「生産性要件」の話です。この二つは同一線上にある話であるということを経営者の皆さんにはご理解いただければと思います。
税制と助成金。この二つに従業員さんの給与を上げる「昇給」というのは関係があるというのをまずはご存知でしたでしょうか。
まずは税制の「所得拡大促進税制」の話です。
これはざっくりいうと、前年よりも給与の支払額が増えて、1人当たりの給与も昨年よりも増えた場合、中小企業はその増やした給与の20%を法人税から控除できるというものです。
給与を増やすと法人税が減るわけです。法人税が減ると法人事業税が減ります。法人税の金額に税率を掛けて計算するためです。つまり、実際には法人税の20%以上が減税になる仕組みになっています。
要件は主には次の三つです。
- 平成25年4月1日以降に開始する事業年度の一つ前の事業年度(これを「基準年度」といいます)と比べて中小企業の場合3%給与が増加していること
- 前年の給与の額<本年の給与の額
- 前年の一人当たりの給与の額<本年の一人当たりの給与の額
この要件を見てもお分かりの通り、要するに一人一人の給与を上げると適用できるのが所得拡大促進税制です。
また、この所得拡大促進税制は来年から仕組みが変わります。正確には、平成30年4月1日以降に始まる事業年度から変わります。
中小企業の場合、要件は主に次の二つです。
- 「前年の給与の額<本年の給与の額」の増えた割合が2.5%以上
- 次のうちのどちらかを満たすこと
- 教育訓練費が前年より10%以上増えていること
- 事業年度終了の日までに経営力向上計画を出していること
経営力向上計画というのは、認定支援機関で作成するものです。認定支援機関のほとんどが税理士事務所などの会計事務所です。この税制を使うためにも経営力向上計画が非常に重要になってきます。この辺の話はまた今度のブログで書いていこうと思います。
さて、一方で、生産性を上げるともらえるご褒美が助成金の「生産性要件」です。これは、3年前の決算と比べて生産性要件が向上すると助成金の金額が増えるというものです。
概略としては、以下の算式で計算した金額が3年前より増えていればいいというものです。
生産性= 付加価値(※)
雇用保険被保険者数
※ 付加価値=「営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課」で計算した金額。
※人件費に役員報酬は含まない
生産性要件については、以前のブログを参照してみてください↴
また、この生産性要件はいろいろな助成金に採用されています。次のようなものが代表例です。
- (再就職支援関係)
- 労働移動支援助成金
早期雇入れ支援コース、中途採用拡大コース
- 労働移動支援助成金
- (雇入れ関係)
- 地域雇用開発助成金
地域雇用開発コース
- 地域雇用開発助成金
- (起業支援関係)
- 生涯現役起業支援助成金
- (雇用環境の整備関係)
- 人材確保等支援助成金
雇用管理制度助成コース、介護福祉機器助成コース、介護・保育労働者雇用管理制度助成コース、人事評価改善等助成コース、設備改善等支援コース、雇用管理制度助成コース(建設分野)、若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)、作業員宿舎等設置助成コース(建設分野) - 65歳超雇用推進助成金
高年齢者雇用環境整備支援コース、高年齢者無期雇用転換コース - キャリアアップ助成金
正社員化コース、賃金規定等改定コース、健康診断制度コース、賃金規定等共通化コース、諸手当制度共通化コース、選択的適用拡大導入時処遇改善コース、短時間労働者労働時間延長コース
- 人材確保等支援助成金
- (仕事と家庭の両立支援関係)
- 両立支援等助成金
出生時両立支援コース、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コース、再雇用者評価処遇コース、女性活躍加速化コース
- 両立支援等助成金
- (人材開発関係)
- 人材開発支援助成金
特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コース、特別育成訓練コース、建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース
- 人材開発支援助成金
- (最低賃金引き上げ関係)
- 業務改善助成金
実に、多くの助成金に生産性要件があるだけでなく、多くの事業所で適用可能性の高い助成金が実に多いこともわかります。
国の今の方向性は「一人当たりの給与を上げる」「生産性を上げる」です。これらをすると、税金が安くなり、助成金が増えるというおまけがつくよと言っているわけです。
国の方向性になるべく合わせるようにしていくことは、中小企業にとっては大きなプラスになります。経営をしていくにあたってはこうした国の方向性に合わせた経営から国から多くの恩恵を受けることは、よりいい経営環境で経営できることにつながります。経営者にとってはこうした時代感覚というのは非常に重要です。
「所得を上げる」「生産性を上げる」「同一労働同一賃金」。これが今の時代の流れです。「所得を上げる」というのが今回紹介した所得拡大促進税制であり、最低賃金の引き上げです。「生産性要件」というのが今回紹介した助成金の生産性要件であり、経営力向上計画です(経営力向上計画はまた今度説明しましょう)。「同一労働同一賃金」がハマキョウレックス事件の最高裁判決であり、キャリアアップ助成金です。
次回も引き続き、こうした時代の要請という観点から見ていこうと思います。