手技療法の治療院、介護事業の経営に役立つ最新情報や知って得する情報満載のブログです!

さて、今日は「働き方改革」の話です。

前回のブログで「働き方改革関連法」についての話を書いていきました。

介護事業所では特に「人不足」が言われています。そうした「人不足」の時代にあって、「働き方改革」のような法改正される中でどのように経営していったらいいのかを考えてみましょう。

 

「働き方改革関連法」の向かう方向性は、「ワークライフバランス」です。

テレビドラマで「わたし、定時で帰ります」というのが始まりました。主人公の女性は、定時できちんと仕事を終わらせ、有給休暇もきちんと消化することを貫いています。必要があれば残業したりはしていますが、しかし、必要以上には残業しません。こうした働き方に疑問を投げかける方たちと一緒に働きながら、定期退社を基本にした働き方を貫きます。このドラマは「働くとは何か」ということを問いかけていることそのものがテーマになっています。

 

有給休暇の取得率は厚生労働省が毎年発表している「就労条件総合調査」によると、直近の調査では2017年の平均有給休暇取得率は51.1%となっており、政府の掲げる2020年までに有給休暇の取得率70%とは程遠い状況です。

 

仕事を残業せずに定時で帰って終わるのかと考える中小企業の経営者の皆さんは考え方を変えないといけません。政府の言っている2020年に70%の有給消化が実現するかはわかりませんが、いずれは社員の有給休暇取得率が70%以上というのが普通になるだろうと思います。パートアルバイトの年次有給休暇に至ってはほぼ100%年次有給休暇を消化する時代になってくるだろうと思います。これからの経営者のトレンドは、それでもきちんと利益の出せる経営です。社員を休ませ、残業もさせない中でいかにきちんと仕事を回すのか、いかにきちんと利益を出していくのか、その仕組みづくりを考えることが経営者の仕事です。

 

私の耳にする範囲でも、1週の労働時間が40時間であった治療院を44時間と改正する経営者がいらっしゃいました。また、なるべく時間外労働の問題が生じないように、タイムカードなどによる出退勤の管理を止めてしまう経営者がいらっしゃったりもします。これらは、新しい時代の労務管理とは逆行した行為であると思います。

 

昭和時代の労務管理」では労働基準法などの労働法をきちんと順守した形での経営をしていては利益が出せない という意識の経営者が多かったように思います。「平成時代の労務管理」になるとそれが、監督署からも言われるし、労基法は守らないといけないという意識が経営者に出てきたように思います。そして、「令和時代の労務管理」では、むしろ積極的に従業員さんの労務管理を重視する経営をしないとヒトを雇えない という時代になってきていると思います。

 

これからの労務管理は、どうやって有給消化をしてもらうのか、いかに時間外労働をさせないようにするかを考える経営です。基本的には、国の考えている方向性に労務管理のスタイルをあわせていくことがもっともこれからの時代の労務管理にふさわしいだろうと思います。勤務間インターバル制度テレワーク制度の導入などの新しい制度の導入や、短時間正社員制度勤務地・勤務時間を限定する正社員の活用など、従業員さんの様々な状況に応じた制度を用意して、より働きやすい方法を従業員の皆さんに提案していく経営です。法律が改正されるから取り組むのではなく、働きやすい職場づくりを積極的に経営者の側から取り組む姿勢、これが「令和時代の労務管理」なのではないかと思います

 

また、コンサルタントや社労士にもそれらを一緒に考えることのできる方が必要となってきます。労基法の抜け道を指南したり、法律や改革の方向性に逆行するようなアドバイスは特に中小企業の経営者にとっては都合のいい提案のように聞こえるかもしれませんが、その提案を受け入れることでヒトが雇いづらい職場環境となってしまい、経営が行き詰まってしまうことにもなりかねません。

時間やコストはかかっても、働き方改革の方向性と同じベクトルを向いた労務管理を考えていくことが結果的に、企業経営を安定化させることにつながるのではないかと思います。

 

ちょうど「令和」にかわるこのタイミングは、働き方に対する考え方も変えないといけない、そんなターニングポイントではないかと思います。



今日は前回の続きです。

働き方改革関連法の「時間外労働の上限規制」と「正規雇用と非正規雇用の待遇差禁止」の話です。

 

まずは「時間外労働の上限規制」の話です。

来年の4月1日から(大企業は今年の4月1日から)改正されているのは、労働時間の上限規制です。原則的には、月の残業時間は45時間を超えてはいけません。また、年間でいっても360時間を超えてはいけません。月の残業時間が45時間ということは、毎日残業があるとして、だいたい1日2時間程度の残業までということです。しかも、年間で360時間ということは、毎日残業している状況なのであれば、1時間20分程度の残業程度にしないとクリアできない数字です。

この労働時間の上限規制は、従来は法律ではなく、大臣告示という形で存在していたものでした。これを法律で規定することになったわけです。また、どうしても1か月45時間、年間360時間を超えてしまう場合には、特別にこの上限を超えることは一応、出来ます。その場合、「時間外労働休日労働に関する協定書(36協定)の特別条項」というものを提出しないといけません。「月の時間外労働と休日労働の合計が、毎月100時間以上にならないこと」や「月と休日労働の合計について、どの2~6か月の平均をとっても、1月当たり80時間を超えないこと」などを守った形のものを事前に提出しないといけないわけです。また、健康福祉を確保するための措置を36協定に書かないといけないというモノもあります。

この労働時間の上限規定の改正は中小企業の場合、来年4月から導入されます。(一定の業種では適用時期が猶予されます)

 

また、月60時間を超える残業代については、割増賃金の率が25%増しから50%増しになります。これについては、大企業はすでに導入されているところで、これを中小企業に拡大するというものです。(中小企業は令和4年4月から適用開始となります

それから、勤務間インターバル制度を導入するよう、促す取り組みも始まります。勤務間インターバルとは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みです。たとえば、残業して終業時間が遅くなってしまった場合、休息時間11時間の休息時間を確保するために始業時刻を後ろ倒しにするような制度のことです。こうした制度の導入を促す仕組みづくりをするとしています。

 

フレックスタイムの制度が拡充されるのも今回の取り組みとしてあります。

従来は労働時間の清算期間が1か月のみであったのに対して、改正後は清算期間が1か月の他に3か月もとれるようになります。それによって、3か月の中で労働時間の調整が可能となるため、たとえば、子育て中の親が3か月の清算期間中の1か月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなるなどのメリットがあります。中小企業側にとっても、3か月の平均で法定労働時間以内にすれば割増賃金の支払いは必要ありません。なお、清算期間を3か月にする場合には、一定の届け出と労使協定の写しも労働基準監督署に提出しないといけないのでその点も確認しましょう。

 

さて、この時間外労働の上限規制の話など一連の労働時間関連の話ですが、多く聞く話としては、「こんなに残業時間を少なくしたら仕事にならない」というものです。「時間で考える役所の考え方は古い」といった声も聞きます。確かにそういう側面もあるとは思います。しかし、一連の働き方改革関連法での労働時間の短縮の話はこれを実現するようにやっていくことがまさにこれからの時代の労務管理だと思います。

きれいごとではなく、実際、残業時間が多い会社は敬遠されます。結果、いい人材が集まらなくなってしまっては経営が立ち行かなくなります。いい人材を確保するためにも、どうやって残業時間を少なくするのかを考えないといけません。

たとえば、フレックスタイム制を導入して、労働時間のやりくりを工夫するとか、パート・アルバイトの活用をして、ヒト不足の解消をすることを考えてもいいでしょう。業種によっては、テレワークを導入するのも方法の一つです。

ヒトの組み合わせや、新しい制度の導入など、いろんな方法を検討して、労働時間を短くする方法を考えてみてはいかがかと思います。

 

また、正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇格差を禁止する法律も始まります。これは、再来年(令和3年)4月1日から導入されます。

これは、裁判例を受けた形の改正で、正規雇用の者と非正規雇用の者との「均衡待遇」と「均等待遇」を求めるものです。「均衡待遇」というのは「①職務内容(業務の内容+責任の程度をいいます )②職務内容・配置の変更範囲③その他の事情の相違を考慮して不合理な待遇差を禁止」するもので、一方で「均等待遇」というのは「①職務内容(業務の内容+責任の程度をいいます )②職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は差別的取扱い禁止するものです。これについては、ガイドラインが出ていて、今後も具体的取り扱いについて、いろいろと出てくる点なので、またどこかで書いていこうと思います。

 

ともかく、この「令和の時代」は今までの経営者の感覚ではまったく経営できない時代になると思います。「有給休暇はなるべく取らせない」「パートの年次有給休暇は制度自体がない」「労働時間の適正管理をすると残業代が増えるからしない」そんな感覚の経営者は時代に取り残されます。社員の働きやすい会社づくりをするという国の目指す大枠の方向性に沿った形に向かっていかないと中小企業の経営が成り立たなくなる時代になってきているのではないかと思います。



元号が「令和」になりました。

新しい時代、という感じでしょうか?

「令和」という時代に合わせるような形で「働き方改革」という名の労務管理における大改正があります。巷であちこち聞かれる話ですから、この「働き方改革」という言葉自体はいろんなところで聞いていると思います。

では、「働き方改革」というのは何がどう変わることをいっているのでしょうか。それは三段階に分けて改革が導入されるという話です。ご存知でなかったら、特に中小企業の経営者の皆さんは、この機会にこのブログを通じて知っておきましょう。

この4月から「働き方改革関連法」というのが順次導入されます。それを「働き方改革」と呼んでいます。

簡単にまとめると次のようなものです。

 

1.年次有給休暇5日取得義務・・・平成31年4月から施行。年次有給休暇が10日以上付与されるすべての労働者は年5日以上取得することが義務化

2.残業時間の上限設定・・・令和2年4月から施行(大企業は平成31年4月から施行)。

残業時間は原則、月45時間(1日約2時間平均)、年間360時間に制限されることになります。

3.正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇格差を設けることが禁止・・・令和3年4月1日から施行(大企業は令和2年4月から)。正規雇用と非正規雇用について、給与や賞与、福利厚生などの待遇について、均衡・均等待遇にしないといけません

 

中小企業の経営者にとっては、今後1年ごとに上記の制度が順次導入されることになります。それに対応することが求められているわけです。

 

今日は上記の3つのうち、年次有給休暇の5日消化の義務化の話をしていこうと思います。

働き方改革関連法の第一弾として、この4月から年次有給休暇の5日取得が義務化されました。日本における年次有給休暇の消化率は50%を切っているというデータがあります。今回の改正はそうした実態を受け、年次有給休暇という制度を十分に機能させるためにも、年間5日は年次有給休暇を取得させるように法律で義務化したわけです。

 

この年5日以上の消化が義務付けられる対象者ですが、これは年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者が対象です。この10日以上というのは繰り越し分を含めて10日以上ではなく、当年に与えられた年次有給休暇分のみで10日以上とされています。また、この対象者は管理監督者も年次有給休暇があれば対象になります。時間外労働が除外されるのでなんとなく管理監督者は関係ないように思っていらっしゃる方は要注意の項目です。そして、年5日消化している者については、使用者側が年次有給休暇を取らせる義務はないわけですが、年次有給休暇の5日取得をできない場合には、会社側が「時季指定権」を行使し、強制的にでも休ませないといけなくなったわけです。これによって、中小企業はより一層、有給休暇の取得状況の管理が求められます。きちんと年次有給休暇を消化しているのか、会社は消化の状況を把握しないといけません。また、使用者側が時季指定権を行使して年次有給休暇を計画的に付与させる場合には、それを就業規則に規定しないといけません。就業規則の変更が必要な点は注意点です。もちろん、労働者側の意見を聞いた上で年次有給休暇の時季を指定する必要はありますので、その点も改めて確認しましょう。

 

ちなみに、適用になるのは平成31年4月1日以降に新たに付与される年次有給休暇からです。現状、3月31日までにすでに付与されている年次有給休暇には及ばないという点も確認しましょう。

 

これまでは、労働者側の申し出がないと年次有給休暇を使うことがなかったのですが、今後は使用者が労働者に取得時季の希望を聴取して、使用者側が〇月〇日に有給を消化してください、という形になります。

また、従業員さん側の希望を聞き、従業員さんに年次有給休暇を一斉消化する形もあるかもしれません。

 

いずれにしても、年次有給休暇の消化が5日未満の従業員に対しては、年次有給休暇を消化させないといけなくなったわけです。

 

また、一方で、これによって考えられるのが、従来与えられていた夏季休暇や冬季休暇を会社側が一方的に年次有給休暇の消化として振り替えるなどです。これらは違法性があると言わざるを得ません。場合によって、そうした誤った方向への指南をコンサルタントや場合によっては社労士がしてしまうケースも想定されるのですが、そうした行為は今回の「働き方改革」には逆行する行為です。法改正の向かっている方向に逆行するような方法を選択することは慎んだ方がいいと思います。ヒト不足が言われる昨今、優秀な人材が集まらなくなってしまう要因になりかねないからです。

 

さて、この年次有給休暇5日ですが、それでも急に年次有給休暇の消化をするのが難しい場合もあります。今まで、私の顧問先でもそうした話はいくつかいただいています。そういう場合、どのように対処したらいいのでしょうか。

 

一番簡単なのは、まとまった休みを有給休暇として一斉付与するというものです。2日と3日を年次有給休暇の一斉付与にするような方法です。ただ、この方法ができるのも限られていると思います。それであれば、たとえば、半日の年次有給休暇を毎月行えば、年間で6日消化できます。1日の年次有給休暇の消化は実際の業務の都合上難しくても、半日だったら可能だという場合にはこの方法も考えられます。また、2か月おきに従業員さんが交代で1日有給を消化していくことをルール化することもあり得るでしょう。

 

とにかく「できない」という前に、有給が消化できる方法を考えてみましょう。それを考えるのが「働き方改革」なのですから。次回は「働き方改革関連法」改正のあとの二つ、時間外労働と正規雇用と非正規雇用の待遇格差禁止についてお話していきましょう。

 

 



今日は前回に引き続き、法人向けの定期保険のお話で、法人向けの定期保険の経理処理が今までとは変わるという話です。

今日の話はまだ正式には確定していない話です。現状では「通達の改正案」というのが国税庁から出され、それについて意見を公募している(パブリックコメントに付している)状況です。しかし、過去の経緯からしてもほぼ、確定になるものと思われるものです。

法人契約の定期保険については、ピーク時の解約返戻率によって、以下のように整理される見通しです。

○ピーク時の解約返戻率 50%以下・・・全額損金

○ピーク時の解約返戻率が50%超70%以下・・・3/5損金

○ピーク時の解約返戻率が70%超85%以下・・・2/5損金

○ピーク時の解約返戻率が85%超・・・

1年目から10年目:100%-(ピーク時の解約返戻率×0.9)

    11年目以降:100%-(ピーク時の解約返戻率×0.7)

新しい法人向けの定期保険の経理処理の特徴は、解約返戻率のピークが何%かによって経理処理が変わるという点が特徴です

従来は、経理処理をするにあたってはまずは「定期平準定期保険」か「逓増定期保険」かそれ以外の「定期保険」かによっていたわけです。その辺は前回のブログでご説明した通りです。しかし、今回の改正は、そうした保険の種類は考慮しないといわけです。少しシンプルになったのではないかなと思います。

また、この新しい経理処理については、すでに契約している法人保険に対しては適用しないことになっています。過去にも保険の経理処理を見直すことは何度かありましたが、いずれもすでに契約している保険についてはそのままという運用にしていましたから、これはある意味、当然そうなるだろうというところです。すでに加入している保険については、経理処理の変更はありませんから、改めてご確認ください。

 

また、同じ保険でも法人向けの「養老保険」については経理処理方法に変更はありません。「養老保険」というのは、保険期間中に万が一のことが起こった場合には死亡保険金が支払われる一方で、生存して満期を迎えたときには死亡保険金と同額の満期保険金が受け取れるという保険です。

この養老保険は社員の退職金の積み立てをするような場合に向いている保険です。この法人向けの養老保険については、一定の要件(社員全員に普遍的に加入できるような規定がある場合)に該当していれば、1/2損金にすることが可能です

前回のブログで書いた今回の法人向け保険の販売停止について、この養老保険には及んでいません。この1/2損金になる養老保険の話はまたどこかの回で書いていこうと思います。

また、いつから変更になるかという点ですが、これは今年の6月ごろを予定しているようです。現在販売が停止されている法人向けの定期保険などの保険の販売も、新しい法人向け定期保険の経理処理が正式発表されてからおそらく販売が開始されるものと思います。

この数週間で、保険会社各社の方が、私の事務所にもいらっしゃって、このような説明をしていただいたわけですが、私の受けた印象としては、今までのように法人向けの定期保険を「解約返戻金の率が高いこと」や「全額損金などの節税となるか」といった視点で選んではいけないということです。あくまでも保険本来の目的である「経営者が死亡した場合の保障」という面から検討していくべきだと改めて思いました

経営者が突然、亡くなってしまった時、残された従業員や取引先、そして経営者のご家族も路頭に迷ってしまいます。そんな時、法人向けの定期保険に加入していれば、従業員の給与や取引先へのお支払も滞りなく進めることができます。残ったお金で経営者のご遺族へ死亡退職金の支払いをすることも可能です。法人が保険に入る本来の目的は、そうした中小企業の経営者に万が一のことがあっても金銭的には大丈夫というもののはずです。解約返戻率の高さや、節税目的というのは本来の目的ではないはずです。

その意味で、今回の法人向けの定期保険の経理処理の改正は本来の保険の目的を改めて見直す機会になったと私は思っています。

ということで、今回は法人向けの定期保険についての経理処理が変わるという話でした。



さて、今日は法人向けの生命保険の話です。

法人向けの保険が販売停止になっていることをご存知でしょうか
販売休止になっている保険は、主に中小企業の経営者(もしくは役員)を被保険者とする保険商品で、会社が契約者となっている保険です。もともとこうした法人向けの保険は本来の「死亡したらいくら」という保険の本来の目的というよりかは、いつ解約するといくら戻ってくるのかということにフォーカスして加入するという側面があったことは確かです。保険という死亡した場合の保障という側面より、一種の金融商品のような感覚で、いくら払えば将来いくら戻ってくるのかに着目して保険を掛けるということです。そして、半分損金になるなどの特性があることから、節税目的という部分も狙っていたわけです。さて、この法人向けの保険がなぜ販売停止になったのでしょうか?

これは、日本生命のある商品が発端と言われています。
日本生命に「プラチナフェニックス」という保険があります。
これは、死亡保険の保障がついた定期保険ではありますが、保障開始から最初の10年は病気による死亡の保障がありません。最初の10年はケガや事故などの保障だけになっていることが特徴です。この保険は、加入から10年目に解約返戻率(解約した時に払った保険料に対して返ってくるお金の割合)がピークに達します。そのピーク時に保険を解約すれば、保険料の80%以上が戻ってくるというものです。しかも、国税庁の基本通達にのっとっているため、支払った保険料は全額損金扱いということで売り出していたわけです。
この保険は、税理士などの間でも問題があるのではないのかと言われていたものではありました。他の保険と比べても支払ったものが全額損金になりつつ、10年で解約返戻率が80%にもなる保険は他にないからです。しかし、日本で一番大きな保険会社の日本生命が発売を開始した保険でもあり、むしろこの日本生命の保険にならって保険会社各社が似たような保険を売り始めました。東京海上日動やアクサ生命、第一生命などでも発売し始めたのです。
これに反応したのが国税庁です。
国税庁はこうした状況を問題視して、今年の2月14日に通達を出し、いったん法人向けの保険の販売停止を指示したわけです

さて、では、現状で法人向けの定期保険というのはどのように経理処理されているのでしょうか?
これは、大きくは三つに分かれます。
まずは、長期平準定期保険です。これは、支払額の1/2が損金計上、1/2が積立金計上という経理処理をしていました。支払った額の半分が費用にできるわけです。
長期平準定期保険とは、保険の保障額は一定(契約時の保障額がずっと続くもの)で、解約返戻金の返戻率が最も高い時期までの期間が比較的長くなる(20年~30年以上となることが多いです)ような保険です。主に、経営者の退職金目的で掛けることの多い保険でもあります。20年後、30年後に事業を止めた時点で保険を解約してそれを元に経営者に退職金の支払いをしようということです。仮にその間に経営者がなくなるようなことがあれば、保険の本来の機能である保険金が支払われます。一方で、存命したままであっても解約してお金に代えてその時点で事業を退くのであれば経営者の退職金に充てられるわけです。

また、逓増定期保険というものがあります。これは保険の種類によって、1/2損金、1/3損金、1/4損金という3種類ありました。
逓増定期保険とは、保険の保障額が支払額に応じて徐々に増えていく保険です。最初は保障額が少なく、徐々に保障額が増えていくことから「逓増」と呼んでいるわけです。この保険の特徴は、解約返戻率のピークが早く、ほぼ5年から10年でピークを迎えるということが特徴です。一方で、保険料は長期平準定期保険と比べるとかなり高くなるというのが特徴です。
経営者の年齢が40代後半であったり、50台であったりする場合、この逓増定期保険を使って上記のような退職金目的の積み立てをするなどをする場合には向いている保険と言えます。これも長期平準定期保険と同じように、仮に経営者が保険を掛けている間になくなれば、その時点の逓増した保険金が出ますし、満期まで存命であれば解約したお金で経営者の退職金に充てるわけです。

また、法人向けの保険で上記の長期平準定期保険や逓増定期保険以外の保険を定期保険と呼びます。契約期間が決まっていて、解約返戻率も低い、いわゆる掛け捨て保険というものです。この定期保険は支払額が全額損金になるというのが特徴です。
さて、くだんの日本生命を始めとした保険会社の開発した保険はこの「定期保険」に分類されるとされ、全額損金が可能となっていたわけです。
今回、こうした保険を「売りすぎた」ために、国税庁がストップをかけたわけです。こうした保険を含め、保険会社は法人向けの保険商品の販売ができない状態になっています。財務省は、あたらな保険の経理処理の方法がはっきりするまでは保険商品の販売を禁止しているというわけです。
さて、では、国税庁はどういう方針を出しているのでしょうか。
その解説はまた次回やりましょう。



さて、今日は今年だけの特例、天皇陛下の退位と即位に伴う10連休についてのお話です。

総務・経理の担当者は具体的にどうしたことを事前にしておかなければいけないのでしょうか。

その前に、この10連休を前にして、調査会社の各社がそれぞれ10連休についてのアンケートを取っています。それによると、10連休を休みが取れるかという質問に対し、10連休をきちんと休みが取れると回答した割合は約3割だったそうです。つまり、カレンダー上は休みでも7割の人たちは休めないというわけです。

休めると回答した人の多くは公務員のような公的機関の人のようです。

実際、私の顧問先の治療院や介護事業所などでも10連休をきちんと休みを取るとご回答いただいた会社は今のところ、ありません。実際にはなかなか休めないというのが実態のようです。

 

さて、この10連休ですが、休める休めないにかかわらず、いろいろと事前に考えておかなければならないことがあります。実際、今、保育園がこの期間、休みになってしまうのに、仕事は休みにならないので、預け先に困る方たちがかなりいらっしゃることが問題になっています。休める休めないにかかわらず、今回は前例のない公的機関の固まった休みとなるため、総務・経理担当者にとってはいくつか気を付けておくべきことがあるというわけです。どんなことが考えられるのか、挙げてみました。

 

① 4月末が期限の役所への提出書類、納付期限が4月末日のものは5月7日になる

これは、税務などの書類の提出期限が日曜・祝日に当たる場合、次の平日になるという今までのルールから照らしてお分かりいただけるものと思います。現在でも、提出期限や納付期限が日曜・祝日の場合、次の営業日になっています。これからしてお分かりと思います。

役所の提出期限は5/7になるので、ほぼ1週間伸びます。納付期限も同じように、4月末の納付期限のものは5/7になります

 

② 社会保険の書類も5月7日になってしまう

たとえば、5月1日付入社の方がいたとします。仮に、5/1が出社であったとしても手続き自体は役所が休みですから、取り扱いは5/7となってしまいます。そうすると、何が問題なのかというと、10連休で休みが重なってしまった分、役所の手続きがしばらくストップしていたため、事務作業が重なっていることから保険証の交付が遅くなるという問題があります。

これについては、「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」という書類を資格取得届と同時に出せば、保険証が届くまでその「資格証明書」が保険証の代わりとしてしばらく使えます。とりあえずはこれで代用するしかないでしょう。

また、たとえば4月末付退職の場合、離職票の交付は5/7以降の手続きになってしまいます。これについては、10連休に伴い、やはり手続きが遅くなってしまうことが予想されます。これについては、事前にその方にその旨をお伝えしておくしかないでしょう。

 

③ 金融機関の営業日も5月7日となってしまう

これは支払いや売上の入金に影響のある話です。要は資金繰りを考える際に、これらを考慮に入れる必要があります。金融機関もすべて10連休中は営業していませんから、4月26日までに銀行の手続きはしておかないといけません。また、通常、月末や月初になる入出金が全て5月7日もしくは4月26日という連休の前後に集中してしまう可能性があります。そうなった場合、通常は資金繰りに問題ない残高が不足するなどの事態が発生しかねません。事前に入金・支払いの資金繰り状況をよく確認したほうがいいでしょう。

 

④ 年払いの倒産防止共済の支払いは5月7日になってしまう

セーフティ共済(倒産防止共済)を4月中に年払いにしている場合、4月末の引き落としにはなりません。4月決算法人の場合でセーフティ共済を費用処理したい場合、通常は支払い時に損金経理となるため、支払いが5月7日になってしまうと損金処理できないという話になります。ですが、今回は、天皇の退位と即位に伴う特例として、4月末で支払いは終わっていなくても、5月7日に口座引き落としできれば、4月末での「未払金」として経理処理すれば損金算入できることになりました。この話は以前の私のブログを参考にしてみてください。↴

https://vanguardwan.com/blog/4%e6%9c%88%e6%b1%ba%e7%ae%97%e6%b3%95%e4%ba%ba%e3%81%af%e8%a6%81%e6%b3%a8%e6%84%8f%ef%bc%81%e5%80%92%e7%94%a3%e9%98%b2%e6%ad%a2%e5%85%b1%e6%b8%88%e3%81%ae%e7%89%b9%e4%be%8b%e3%81%8c%e3%81%82%e3%82%8a

 

⑤ 10連休と労基法の関係はどうなっているのか

これは以前からご質問をいただくことの多かった論点です。

10連休は休ませないといけないのかというものです。

10連休のうち、まず、4/27は土曜日です。多くの企業では土曜日は「休日」とはなっていないものと思います。「休日」となるかどうかはその会社の就業規則の休日の規定に何と書いてあるかが問題です。「休日」に「日曜日」の他、「祝日」も入っていれば、4/29(昭和の日)、4/30(退位の日(国民の祝日【祝日に挟まれた日は祝日】  )、5/1(即位の日)、5/2(国民の祝日【祝日に挟まれた日は祝日】)、5/3(憲法記念日)、5/4(みどりの日)、5/5(こどもの日)、5/6(振替休日)は全て祝日となるため、「休日」扱いとなります。つまり、就業規則の「休日」に「祝日」が入っていれば、10連休とは言わないまでも9連休にはなるわけです

一方で、就業規則の「休日」に「祝日」がなく、「休日」が「日曜日」だけなのであれば、4/28と5/5だけが「休日」となります

 

この「休日」かどうかが問題なのは、時間外給与の算定です。休日労働となれば、平日の時間単価の1.35倍で計算しないといけないわけです。もし仮に、「休日」が「日曜・祝日」となっていて、これらの祝日中に出勤した場合、時間外労働となってしまうわけです。

一方で、1か月単位の変形労働時間制を採用していた場合で、「休日」がたとえば「シフトによる」となっていれば、祝日を休日とせずに取り扱うことが可能です。

 

今回は10連休という特殊な事情があったわけですが、たとえば治療院や介護事業所などの業種では、そもそも1か月単位の変形労働時間制を導入しておいた方が会社側は運用がやりやすいはずです

 

会社側の考え方が優先されているようですが、冒頭のアンケートを振り返ってみてください。10連休をきちんと休めるとしているのは約3割です。ほとんどの企業が10連休の休みは取れないわけです。今回のような事態を想定して、従業員さんとの話し合いの上で、就業規則を変えることも検討したほうがいいでしょう。

 

ただ、就業規則は急には変えられないです。もし「休日」に「祝日」が入っていて、休みが取れない場合、たとえば、「4/30~5/2は出勤してほしい。その代わりに○○○の3日間を休みにしてほしい」というような形にする、いわゆる「代休」という形にすれば、休日の割増賃金の支払いの必要はないです。「代休」を成立させるには、事前に振替を認めてもらうことが必要なわけです。事後に振替をいっても「代休」は認められません。事後に言った場合、休日労働となってしまいますから注意が必要です。

 

⑥ 連休明けの役所への提出書類は「令和」になる

連休前は「平成」で、連休明けは「令和」になっています。特に、役所関係の書類はすべて「平成」から「令和」に変更になります。これは結構、手間な話です、会計ソフトや給与ソフトなどはこれらのソフトを扱うベンダーさんが対応してくれるのでしょうが、これ以外の様々な書類はすべて直して使用する必要があります。連休前に様々な書類をチェックしておく必要があるでしょう

 

まだ他にもあるかもしれませんが、役所の手続きや金融機関の手続きを中心に考えると、上記のようなことが想定されます。10連休が休めるか休めないかにかかわらず、上記のようなことを考慮に入れてみてはいかがでしょうか。



今日は顧問先からお問い合わせいただいたご質問の中から、年金と給与の調整という話、いわゆる「在職老齢年金」という話をしていきたいと思います。

「給与と年金の両方をもらうと年金額が減らされる」

この話自体は、皆さん、よくご存じのようです。

では、どうやったら年金が減らされるのか、逆にどういう場合に年金が減らされることがないのか、また、いくら減らされるのか、きちんと理解している方というのは私の感覚的にも少ないと思います。今日はその基本的なルールに絞って、なるべく平易な言葉でわかりやすく書いていこうと思います。

年金と給与の調整というのは、「年金+給与」が28万円(65歳以上の方は47万円)を超えると、年金の一部が減らされるという話です。これを「在職老齢年金」と呼びます。こういう年金の種類があるわけではなく、年金と給与の調整がされる場合の老齢年金のことを「在職老齢年金」と言っています。(老齢年金なので、障害年金や遺族年金と給与が両方支払われる場合、そもそもこれらの年金との調整という話はありません。老齢年金に限った話です。)「在職老齢年金」というのは「月額給与(「総報酬月額相当額」といいます)」+「月額年金(「基本月額」といいます)」の1か月あたりの金額が28万円(65歳以上の方は47万円)以上だと調整されるという話なのですが、この在職老齢年金の話を理解する上での主な部分はそのうちの「月額給与」という部分です。

まず、簡単な方から行きます。年金の方です。基本月額、つまり、1か月の年金の額というのは、これはあまり難しくはありません。これは2か月おきに支給される老齢年金の1か月分(通常は支給を受けた年金額÷2)の金額と考えていただければだいたいOKです。(正しくは「加給年金額」がある場合にはそれを除いた、報酬比例相当の金額です)

問題は「月額給与」の方です。私のこのブログでは「月額給与」と言っていますが、正しくは「総報酬月額相当額」といいます。これは1年の標準報酬月額と賞与の届け出額の金額を足して12で割った金額です。年金事務所側が把握している1年分の報酬を元に1か月の給与の額を計算しているわけです。

その月その月の給与をいちいち報告して計算していると思っていらっしゃる方もいるのですが、そうではないんです。すでに届出されている報酬額が計算元になっています。

この1年分の給与の額の「総報酬月額」と1年分の年金額を足して12で割った額の金額の「基本月額」の合計が、65歳未満の場合には28万円以上、65歳以上だと47万円以上だと調整されるというのが、いわゆる「在職老齢年金」の調整の基本的な仕組みです。

上記の内容を簡単に算式で示すと「給与+年金<28万円(65歳以上は47万円)」だと調整される、となるわけです。

次に「在職老齢年金」について、今までご相談を受けた中で誤解が多い点を3つご紹介いたします。

まず、この制度で計算する場合には、何か新たに届け出を出したり、現に支給されている給与の額をいちいち年金事務所に報告したり、そういうことはしないわけです。そう考える人は、たとえば残業代が増えるとどうなるのかとか、○○手当が増えると年金の一部が支給停止に係るのではないかとか、そのような話をされるのですが、それは全く違うわけです。あくまでも、この給与と年金の調整の仕組みは、要するに、給与の額も年金の額も年金事務所で現に把握が可能な数字を元に計算しているわけなんです。これが、誤解される点の一つ目です。

ただ、給与の額が増えて、月額変更に該当したり、算定基礎届によって報酬月額が増えたりすると、標準報酬月額が変更になった時点から年金額との調整が入る可能性はあります。給与が増えても全く関係ないわけではないです。月額変更に該当したり、年に1回の算定基礎届で標準報酬月額が増えれば影響はあります。その点もご注意を。

 

次に誤解される点、二つ目です。この制度は、当然のことながら社会保険の標準報酬月額の話が出てくるということは、厚生年金に加入していない方はこの調整の話はありません。あくまでも、厚生年金に加入している方が年金の支給を受ける場合に調整があるという話です。たとえば、個人事業主だったり、給与は受けていても社会保険(厚生年金)に加入していないのであれば、そもそもこの在職老齢年金は関係のない話です。

 

この論点は、税理士の方にもこの点の誤解が非常に多いように思います。たとえば、実は、個人事業主の方だったとか、給与はあるが今の会社では社会保険には入っていない(国民健康保険に加入している)とか、相談を受けていてそういう話になることがあります。あくまでも、厚生年金に加入している方が給与と年金の両方を受ける場合に「在職老齢年金」として年金額が減らされるという話です。個人事業主や給与の支給は受けていてもそもそもその方が社会保険に入っていないのであれば在職老齢年金の問題は発生しません。この点もわかっている方には当たり前の話なのですが、誤解の多い点ですのでご注意ください。

 

それともう一つ、三つ目は、在職老齢年金の仕組みが適用されるのは65歳未満と65歳以上で調整される額が変わるということです

65歳未満の方ですと、年金と給与であわせて28万円ですが、65歳以上の方はこの28万円が47万円になります。年齢が何歳かによって調整額は異なりますのでご注意ください。

ちなみに、この65歳以上の支給停止基準が47万円になったのは、平成31年4月1日からの変更点です。(それまでは46万円でした)

 

 

さて、ここまでご理解できた方は、最後に、いくら調整されるのか、計算式を見てください。(ここまでで理解できた方だけで結構です。計算式を見るだけで訳が分からなくなる可能性があるので。)

 

調整される額は以下の算式によって計算されます。

{「基本月額(1年分の年金額を12で割った金額)+総報酬月額相当額(1年間の標準報酬月額の12ヶ月分相当額+賞与の額)÷12」-28万円(65歳以上の者の場合には47万円)}÷2分の1

 

この計算式がよくわからなければそれでも構わないと思います。この計算式で知っていただきたいのは、あくまでも調整される年金額は算式の超えた額の2分の1となっている点です。

よく、「年金が減らされるのだったら働かない」というようなことをおっしゃる方がいらっしゃいますが、手取り額が減るわけではないです。あくまでも年金額の一部が減額されるということです。年金額の半分も減らされると思っていらっしゃる方もいますが、そうではないんです。

 

「年金を満額受給できる」ことを考えるというより、手取り額全体をみて考えたほうがいいのではないかと思います。「減らされる」となると、「減らされる」ことにフォーカスされ、どうしても「減らされない」方法を考えるのですが、仮に年金額の一部が減らされても働いたほうが手取り額が増えるのであればその方がいいかもしれないですよね。要するに、年金額が減らされるというのは、働き方をどうするのかを考える際の参考事項の一つのはずです。

 

あとは、実際、どの程度減額されるのか、きちんとシュミレーションを出したいのであれば、面倒かもしれませんが、実際、年金事務所に行って「給与がいくらだったらいくら減額されるのか」をご相談に行かれるのが確実でしょう。たとえば、高年齢者雇用継続給付という雇用保険の給付金を受けている場合には、この在職老齢年金の仕組みはさらに複雑に調整されます。このような場合には、実際に年金事務所へ行っていくら減らされるのか、計算を出してもらったほうがいいでしょう。年金事務所で待たされたりという部分はありますが、その方が間違いは少ないと思います。

 

いわゆる「在職老齢年金」について、税理士の先生にも誤解が多いのは、解説されているものが正確には書かれていても専門用語などを使っているため、わかりづらくなっている点にもあるのではないかと思います。そのため、このブログではできるだけわかりやすく「在職老齢年金」の基本の部分の解説に絞って書いたつもりです。参考にしていただければ幸いです。



今日は前回に引き続き、社会保険料の徴収の話です。

月末に退職した者の社会保険料の控除についてどうしたらいいのか、という話です。

 

まず、社会保険の基本的な日付のルールについてです。

社会保険の「資格喪失日」と「退職日」はイコールではありません 「資格喪失日」とイコールになるのは「退職日の翌日」です。社会保険の資格喪失届の用紙には「退職日」を書く欄があります。その翌日が資格喪失日になっていないと、「退職日の翌日が資格喪失日ということで間違いないでしょうか?」と年金機構から電話が来ます。

社会保険の「資格喪失日」の基本的な考え方として、退職日そのものはまだ保険証は使えると考えるわけです。夜の12時(24時)を超えた時に日付が変わります。その日付が変わる瞬間までは保険証が使えるわけです。そのために、「退職日」を「資格喪失日」とはせず、「退職日の翌日」を資格喪失日としているわけです。

ちなみに、雇用保険の資格喪失日は「退職日」です。社会保険と雇用保険では「資格喪失日」の捉え方が違いますから注意しましょう。

 

さて、そうすると、退職が月末付の場合、資格喪失日はその翌月の1日になります

3月31日付で退職した方の場合、資格喪失日は4月1日になります。つまり、3月の保険料は発生します。

ちなみに、3月30日に退職した場合、3月31日が資格喪失日となるため、3月分の保険料は発生しません。(ただ、これを従業員さんに説明して、3月31日退職の人を3月30日にしてしまうような取り扱いは問題があると思いますので、気を付けてください)

 

月末退職者の場合給与から控除する社会保険料について注意すべき点があります。たとえば、給与が月末締めの月末払いの会社の場合、月末退職の人の控除する社会保険料は2か月分控除することになります。これはなぜか、お分かりになるでしょうか?

 

たとえば、3月31日に退職した者がいて、その会社の給与の支給が月末締めの月末払いだったとします。3月31日に支給される給与から控除される社会保険料は2月分の社会保険料です。加えてこの人は、3月の社会保険料も徴収されます。4月に支給される給与がない場合、3月末に支給される給与は最後の給与になります。ですから、最後の3月31日の給与で3月分の社会保険料も徴収しないといけないわけです。

 

ですが、この2か月分社会保険料を控除するというのはかなり、まれな話です

ちょっと考えてみるとわかるわけですが、たとえば、月末退職の場合であっても、給与の支給も月末になるケースというのはあまりないと思います。普通は給与の締日があって、そのあとに支払日になるはずです。月末締めであっても翌月の10日の支払いになったりするケースが多いはずです。たとえば、3月31日に退職した者であっても、月末締めの10日払いであれば、4月10日に支払われる給与から控除する社会保険料は3月分になっています。そのため、問題ないわけです。

 

よくものの本には、「月末退職の人の場合、最後の給与から2か月分社会保険料を控除する」と書いてあることがあります。しかし、よくよく考えるとこの最後の給与で2か月分社会保険料を控除するのは、月末締めの月末払いの給与の時くらいになるはずです。

控除している社会保険料が何月分の社会保険料なのか、注意して考えてみるようにしてみましょう。



さて、今日は、知っていれば「こんなの知らないの?」と自慢できるかもしれない(?)というような話です。誕生日の法律上の考え方という話です。

NHKの人気番組に「チコちゃんに叱られる」という番組があります。この番組でも紹介された話なので、ご存知の方も多いかもしれません。

「学年」というのは「4月2日生まれから翌年の4月1日生まれまで」となっています。この番組にも登場していましたが、元ジャイアンツの桑田真澄さんは4月1日生まれです。(1日ずれて桑田さんのお誕生日が4月2日生まれだったらPL学園のKKコンビは誕生していなかったという有名な話です)では、なぜ「学年」が「4月1日生まれから3月31日生まれ」になっていないのでしょうか?

 

これは「年齢計算に関する法律」という法律で説明できます。それによると、法律上の年齢の数え方は、誕生日が起算日(初日)となり、満年齢(1歳年をとる)のは誕生日の前日となっています。誕生日を1歳とすると、1年ではなく、1年と1日になってしまうためです。

これによって、4月1日生まれの人は3月31日に満1歳となります。そのため、4月2日生まれの人は、4月1日に満1歳となるため、4月2日生まれの人が「学年」の一番最初の生年月日で、4月1日の人が「学年」の最後の生年月日となると解釈されています。

「チコちゃんに叱られる」の番組では、これは「うるう年」の2月29日生まれの人に配慮したものだと解説していました。誕生日が満1歳とすると、2月29日生まれの人は、4年に1回しか誕生日が来ないことになってしまうため、誕生日の前日を満年齢の日としているのだというわけです。これによって、2月29日の人は2月29日がない年であっても誕生日の前日、つまり2月28日が来た時に満1歳とすることができるというわけです。

 

私は「年齢計算に関する法律」のことは知っていましたが、これがうるう年生まれ(2月29日生まれ)の人に配慮しているとは知りませんでした。確かにそういう説明もできますね。私も勉強になりました。(少しボーッと生きていたのかもしれませんね・・・)

 

さて、この「年齢計算に関する法律」が給与計算や社会保険事務に影響するケースがあります。たとえば、5月1日生まれなど月の初日(1日)生まれの人が満40歳になって介護保険料を徴収するケースなどがそうです。いつの給与から介護保険料を徴収すればいいのでしょうか。

 

まず、社会保険料の徴収はその月の保険料は翌月の給与から徴収するのが原則です。ですから、たとえば、4月分の社会保険料は5月に支給される給与から控除します。

この考え方と「年齢計算に関する法律」の組み合わせで考えます。5月1日生まれの人は、4月30日に満年齢となります。4月に満年齢になるわけですね。ということは、5月1日生まれの人が40歳になって介護保険料を徴収するのは、4月分の社会保険料ということになります。4月分の社会保険料は5月に支給される給与から徴収されることになるわけです

対比して考える意味でいうと、5月2日生まれだとどうでしょうか。

5月2日生まれの人は5月1日が満年齢に達する日です。5月が満年齢に達する月ですね。5月に40歳になったわけですから、6月に支給される給与から控除されることになります。

同じ5月生まれですが、控除されるタイミングは1か月ずれてくるわけです。

 

このケースは保険料を徴収するケースでしたが、たとえば70歳になって厚生年金の資格を喪失する場合はどうでしょうか?先ほどの例を使って考えてみましょう。

たとえば、5月1日生まれの人が70歳になったとします。70歳になるのは誕生日の前日の4月30日です。4月分の厚生年金から保険料が発生しないわけです。ということは、5月に支給する給与から厚生年金の保険料が発生しないということになります。

一方で、5月2日生まれの人が70歳になったとします。5月2日の人は5月1日が満年齢に達する日ですから、5月分の厚生年金保険料、つまり6月支給の給与から厚生年金が控除されないという話になります。

 

「年齢計算に関する法律」と社会保険料の徴収ルール、ちょっとややこしいですが、基本がわかれば、整理して考えていけばわかると思います。

次回も社会保険料のレアな徴収のケースの話をしていきたいと思います。



今朝の国会の参議院決算委員会(平成31年4月4日)での議論は企業経営の考え方にも参考になる議論だと思って、しばし聞いていました。どのような議論だったのか、そのサマリーをここで書いていきたいと思います。

 

お金の正体は何かといえば銀行が集めたお金の預貯金の額で貸しているわけではなく、要するに、銀行はこの会社が信用に足りるからお金を貸す、つまり、信用創造をしているわけです。貸したお金によってだれかの預貯金の額が増えている。借り入れが増えれば誰かの預貯金が増える。これが実際に起こっていることなんです。」(自民党 西田昌司議員)

 

マネーストック、マネーサプライというのは銀行預金が企業や家計の資金需要を受けて銀行が信用創造を行うことによって資金貸付を行っていることは確かです。」(黒田東彦日銀総裁)

 

借金は預金を集めて借金をしていると思っていたわけですが、そうではなく、預金は誰かが借金をすることによって出ているんだと、まさにこれは地動説から天動説という話なんです。

通貨がモノだったら、商品だったらそうなんですが、そうではないんです、信用創造なんです。地動説から天動説への大転換が必要なんです。」(自民党 西田昌司議員)

 

この議論は、いわゆる「MMT理論」というものを議論しているものです。MMT理論というのは「政府は紙幣を印刷すれば借金を返せるのだから、政府が破産することはありえない。したがって、財政赤字を気にすることはない。もっとも、財政赤字は無限には増やせない。そんなことをしたらインフレになる。つまり、増税するのはインフレを抑制するために必要だからなのだ」という理論です。つまり、「増税は財政赤字を減らすためではなく、インフレを抑制するために行うのであって、インフレが心配ないのであれば増税は不要である」というのがMMT理論です。(よくわからない方はMMT理論の部分は読み飛ばしていただいて結構です)

 

西田議員と政府とのやり取りはこのMMT理論の是非についてというのが主な論点ですが、これは企業経営においても重なる部分のある考え方だと思いますので、今回のブログで取り上げたいと思います。

 

企業が借金をするということの従来の考え方は銀行が集めた預金を貸しているという考え方でした。しかし、今はこうした考え方は実務的ではないといわれています。むしろ逆なのではないかと考えられているわけです。つまり、銀行が「この会社にはお金を貸せる」と評価してお金を貸すと、その企業の預金残高が増えるわけです。その預金残高が増えることで、様々な企業活動をすることにつながり、様々な用途にお金が使われ、景気が良くなると考える考え方です。銀行は「集めたお金を貸している」のではないというのが前提にあります。銀行がお金を貸すのは「貸せる会社だから貸している」わけです。これを「信用創造」といっているわけです。「実際にあるお金」という「モノ」を貸しているわけではないというわけです。これは私は企業経営の(もっといえば経済の)本質をついている話だと思うわけです。

 

企業経営においてはこの「信用創造」という考え方を理解する必要があります。銀行が「お金を貸せる企業」だと思わせる状況、そのことこそが重要なわけです。それを「信用創造」といっています。この「お金を貸せる企業」と思わせる状況を作ると倒産という企業経営の究極的な状況から遠ざけることができます。つまりは企業経営を存続できる状態にすることができるわけです。企業経営の肝は「倒産から遠い状況に置くこと」だという話は以前のブログでもしました。↴

https://vanguardwan.com/blog/%e9%8a%80%e8%a1%8c%e8%9e%8d%e8%b3%87%e3%81%ae%e9%89%84%e5%89%87%e3%80%81%e3%80%8c%e6%99%b4%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%99%82%e3%81%93%e3%81%9d%e5%82%98%e3%82%92%e5%80%9f%e3%82%8a%e3%82%8b%ef%bc%81%e3%80%8d

 

それが「信用創造」なわけです。

 

先日、「整骨院の倒産件数が年間で50件だったという記事があった」と話をしていただいた整骨院の先生がいらっしゃいました。その先生もおっしゃっていましたが、そうなんです。これだけの整骨院の数があっても、昨年1年間で倒産した整骨院はたったの50件なんです。

介護事業所についても、東京商工リサーチの記事に次のような記事があります。

「2018年(1‐12月)の「老人福祉・介護事業」倒産は106件(前年比4.5%減)だった。介護保険法が施行された2000年度以降では、7年ぶりに前年を下回った。ただ、倒産件数は過去3番目に多く、高止まり状況が続いている。」(東京商工リサーチ)

しかし、介護の事業所の数はデイサービスだけでもコンビニエンスストア並みかそれ以上に件数があるそうです。しかし、昨年1年間の倒産件数は100件程度しかないわけです。

そのように考えると、整骨院や介護事業所の企業経営は他の業種と比較すれば、むしろ、経営環境においては他業種に比べ、有利な状況にあると言えます。

 

企業経営にとって重要なことは「信用創造」です。そのためには、銀行などの金融機関から信用される企業を作ることが大事です。今日の参議院の決算委員会の審議をみていて改めて思ったのは、企業経営とは借金の多寡を気にした経営ではなく、銀行などの金融機関から信用される企業を作ること(信用創造すること)が最も大事なことだと改めて認識したわけです。

 

中小企業の経営者の皆さんにとって、今日のこの話が何らかの参考になればと切に思います。