手技療法の治療院、介護事業の経営に役立つ最新情報や知って得する情報満載のブログです!

皆さんご承知の通り、今日新しい元号が発表されました。

「令和」

さて、元号の変更に伴って、事務処理などの変更にはどのようなことがあるのでしょうか。

 

税務署や社会保険・雇用保険など、役所の手続きはほとんどが「元号」を使用しています

元号の変更は以前から決まっていたものの、新しい元号が決まっていないため、たとえば来年であれば、「平成32年」と実際にはない元号の表記がされていました。

今後はこの「平成32年」という表記は「令和2年」という表記に変わることになります

 

昭和から平成に変わる時もそうでしたが、役所の文書はしばらくは前の元号と新しい元号が併記されることが予想されます

「平成31年(令和元年)」という表記にしばらくはなるのではないかと思います。

ですが、基本的には5月以降は税務署、年金事務所などの役所に提出する書類は「令和」で表示する必要があります。ただ、しばらくは「平成31年」と表記しても役所側で訂正してくれるのではないかと思います。

 

また、会計ソフトや電子申請などシステムについては、おそらくこの1か月で「令和」にシステム変更していくことと思います。これはそれぞれのソフトのメーカーにお任せするしかないでしょう。

 

そして、そもそも元号を使うとこの辺がややこしいため、西暦を使っている方も多いと思います。私も社会保険や雇用保険の手続きをする際に、生年月日の情報をいただく際、西暦で情報をいただくケースも多いです。しかし、役所の手続きはすべて「和暦」のため、和暦と西暦の早見表で和暦に直して手続きしています。総務・経理の担当者の方たちは分かると思いますが、いちいち手続きのために西暦を和暦に変えるのも面倒ですし、なにより間違えてしまいそうでいやなものです。

 

ちなみにですが、西暦で情報をいただく方は若い方(20代)に多いように思います。和暦よりも西暦で考えることの方が多いのかもしれません。たぶんですが、その方たちは手続き上は和暦でやるというのをよくわかっていないのかもしれません。面倒でも和暦で生年月日などの情報は出していただくように、総務・経理の担当者は言っておいた方がいいでしょうね

 

また、元号に関してはすでにみずほ銀行などの都市銀行はシステム変更によって、元号による表記から西暦による表記に変更しています。どうやらこの動きは国や自治体などの役所にも及ぶ傾向があるようです。

「政府は、各省庁がコンピューターシステム間でやりとりする日付データについて、和暦(元号)と西暦で混在している現状を改め、西暦に一本化する考えだ。今後、システム更新に合わせて順次改修を進める。行政手続きで使用する書類や証明書などは元号での表記を継続する。」(東京新聞 2018年5月22日)

 

現状では元号での手続きとなっていますが、将来的には西暦になる方向で役所も検討しているようです。

 

ともかく、元号と西暦。手続き上はややこしいことはこの上ないです。間違いがないように対応するしか当面はないようです。



さて、今日は今年だけの特例という話です。

皆さんご承知の通り、4月から5月初めにかけては天皇陛下の退位と即位の関係で10連休になります。この10連休があるため、4月決算法人が倒産防止共済(セーフティ共済)を年払いする場合、口座振替が5月7日になってしまうという問題があります。

セーフティ共済は年払いであろうが、月払いであろうが、支払った期の損金(もしくは積立金)となることになっています

租税特別措置法の特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例の適用を受け、原則としてその支払った日(口座振替日)の属する事業年度の損金の額に算入されます。」(中小企業基盤整備機構の商工共済ニュースより)

支払ったときの損金になるというのが通例の解釈です。(正確には法人の場合、支払った期の別表に記載があって初めて損金算入が認められます。これについては、以前のブログを参照してください。↴

https://vanguardwan.com/blog/%e3%82%bb%e3%83%bc%e3%83%95%e3%83%86%e3%82%a3%e5%85%b1%e6%b8%88%ef%bc%88%e5%80%92%e7%94%a3%e9%98%b2%e6%ad%a2%e5%85%b1%e6%b8%88%ef%bc%89%e3%81%af%e5%8a%a0%e5%85%a5%e3%81%97%e3%81%9f%e5%be%8c%e3%81%ab

 

年払いの場合、通常であれば年払いする月の27日に口座振替になります。(27日が金融機関が休みの時は翌金融機関営業日)

初めてセーフティ共済に加入する場合には、振込になるのですが、2年目以降は口座引き落としです。1年分の前納をする場合、その支払月の5日までに中小企業基盤整備機構に書類を提出しないといけません。5日までに書類を出して初めて、27日に振替になります。

 

さて、今回の4月のケースです。4月に前納(1年分の掛け金の支払い)をしたい場合、4月5日までに書類を中小企業基盤整備機構に出すわけですが、引き落としとなる4月27日は土曜日です。その場合、次の金融機関営業日ですよね。次の金融機関営業日は5月7日になってしまいます。仮に4月決算法人がセーフティ共済の年払いをしたい場合、4月の初めに手続きしたのでは5月7日の引き落としになってしまいます。これでは損金計上できないのではないかと思われていたわけです

 

これについて、倒産防止共済(セーフティ共済)を運営する中小企業基盤整備機構が税務当局に確認したようです。その記事が2019年の『新春「商工共済ニュース」』に載っています。

「皇位継承に伴う金融機関の10 連休により、平成31 年4月分掛金(通常の口座振替日は毎月27 日。)の預金口座振替は平成31 年5月7日となります。この場合において、4月決算の法人が、毎月口座振替により納付している掛金について、適正な期間損益計算の観点から、平成31 年4月分掛金で平成31 年5月7日に口座振替により引き落とされる掛金を前年度決算(平成31 年4月27 日の属する期間の決算)において、会計上未払計上をしているのであれば、税務上もその未払いとなっている掛金の損金算入が認められます。

(注)毎期、1年分(5月分から翌年4月分)の掛金を口座振替により前納している

場合であっても、上記と同様となります。」(2019年新春「商工共済ニュース」より)

 

もっとも、今回は天皇の退位と即位の10連休があるために特例的に未払い計上して損金算入してもいいといっているだけで、本来は支払っていないと損金算入できません。その点は誤解のないように。

 

また、税理士会など取り扱い団体を経由して中小企業基盤整備機構に申し込みをしている場合、その取り扱い団体への提出は月内にしないといけません。つまり、4月決算法人であれば3月中に書類を提出しないといけませんから注意が必要です。

 

ということで、今回はちょっとイレギュラーな話で、4月決算法人のセーフティ共済のお話でした。



確定申告がようやく終わりました。

私も例にもれず、確定申告の事務作業で忙しく、ブログも更新できない状態が続きました。久々のブログ更新となります。

今日のテーマは還付申告です。

 

還付申告の代表例は「医療費控除」です。

「還付申告」というのは例えば、所得の中身が給与と医療費控除だけというように還付になる申告のことを言います。ふるさと納税もこの還付申告の代表例でしょう。あるいは、住宅ローン控除の申告などもこの還付申告になります。また、事業所得の方であっても、確定した税額よりも予定納税の金額の方が大きい場合、還付申告となります。このような「還付申告」の場合、確定申告書の提出期限は、その年の1月1日から5年間となります。つまり、今回の確定申告の場合、平成31年1月1日から平成35年12月31日までということになります。期限が3月15日ではないんです。また、確定申告書の提出は通常は2月16日から3月15日ですが、年明け1月1日から提出できます。

 

ただ、たとえば医療費控除やふるさと納税のような寄付金控除、住宅ローン控除があってもそれらを控除しても税額が出る場合には還付申告ではないので注意が必要です

 

3月15日までに申告書を提出できなかった・・・と思っている方、還付申告であれば期限は5年ですからまだ大丈夫です。これからゆっくり申告書を作って出せば大丈夫ですよ。

 

それから、医療費控除は以前と違う点がいろいろとあります。この点は確定申告時に私も何度かご質問を受けた点ですが、保険者から送られてくる「医療費通知」を使って申告しても問題ないとされています

国税庁が出している「医療費控除に関する手続きについて」というQ&Aの中には次のように書かれています。

 

医療保険者が発行するもので次の①から⑥までに掲げる6項目の記載がある「医療費通知」を確定申告書に添付する場合(注2)は、「医療費控除の明細書」の記載を簡略化することができ、医療費の領収書の保存も不要となります。

①被保険者等の氏名

②療養を受けた年月

③療養を受けた者

④療養を受けた病院、診療所、薬局等の名称

⑤被保険者等が支払った医療費の額

⑥保険者等の名称

(注2)電子申告(e-Tax)により確定申告を行う際に、医療保険者から交付された「医療費通知」データ(XML形式)で、その医療保険者の電子署名及びその電子署名に係る電子証明書が付されたものを所得税の確定申告書データに添付して送信する場合を含みます。

 

これについては、先日の参議院の予算委員会でも議題になっていました。

現在、医療費控除の申告をする方は全国に約700万人いるそうです。「医療費通知」のみで確定申告するこの方法はかなり便利ではありますが、実際には各保険者から出されるこの医療費通知には上記の六つの要件がクリアされていないものもあり、添付して提出できないものも多いようです。特に⑤の支払った医療費の額の記載がないものがあるそうです。将来的には、医療費通知に記載されているもので確定申告できるようにする方向で検討していると麻生財務大臣も答弁していましたが、医療費通知で申告するには上記の要件が整っているのかの確認が必要ですから注意しましょう。

 

ということで、今日は「還付申告」のうちの「医療費控除」の話でした。



さて、今日は介護事業所向けにアナウンスです。

処遇改善加算計画書の届け出期限が今月末に迫っているという話です。

まず、多くの介護事業所の経営者が気になっていると思うのが、「特定処遇改善加算」を計画書に反映していくのかという点です

特定処遇改善加算」というのは、今年の10月から消費税率が10%になるのに合わせて、介護人材確保の目的から、新たに「特定処遇改善加算」というのが10月に創設されるというものですおよそ20万人いると言われる「勤続10年以上の介護福祉士」の賃金水準を全産業平均程度にまで引き上げる(月額8万円程度の引き上げ)ことを目指したものです。新しい処遇改善加算の制度として今、注目されているものです。

 

ただ、この「特定処遇改善加算」をめぐっては、詳しいことはまだこれから決めるということのようで、今回の処遇改善加算計画書の段階では、これを考慮する必要はありません。とりあえずは従来通りの形で計画書を出せばそれでいいようです。

また、処遇改善加算計画書自体は、計画書ですから、実際の支払い方が異なることになっても問題はありません。とにかく、従来通りで構わないので2月末という期限までに出すようにすることが大事です

 

「特定処遇改善加算」についてはこれからいろいろとQ&Aなどで運用方針が出るようです。このブログでもその辺りの情報が出たら発信していこうと思います。

 



久しぶりのブログの更新になりました。

今日はここ最近の裁判事例を引き合いに、非正規雇用の賃金のお話をしたいと思います。

 

一つは、大阪高裁の平成31年2月15日の判決です。

学校法人・大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)のアルバイト職員だった50代の女性が、正職員との待遇格差は違法として、法人に約1270万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は15日、請求を退けた1審・大阪地裁判決を取り消し、約110万円の支払いを命じた。」(毎日新聞引用)

 

正社員に賞与を支払う一方で、アルバイト職員に賞与を支払っていないのは違法とした画期的な判決です。

 

もう一つは、契約社員へ退職金が支払われないのは違法であるとした平成31年2月20日の東京高裁の判決です。

東京メトロの売店で勤務していた契約社員が、正社員と同じように働いていたのに、賃金や手当に差があるのは不当だと訴えた裁判で、東京高等裁判所は、退職金などで不合理な格差があると認め、会社に対し支払いを命じる判決を言い渡しました。弁護士によりますと、正社員との格差をめぐって退職金の支払いを命じた判決は初めてだということです。」(NHKニュースより引用)

 

いずれも労働契約法第20条をめぐる判決です。

では、労働契約法第20条はどのように書かれているのでしょうか?

「(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

 

期間の定めのある契約か期間の定めのない契約かで、労働条件に差があってはならないとしています。この労働契約法第20条をめぐる裁判として有名な裁判が「ハマキョウㇾクス事件」「長澤運輸事件」です。この裁判については、以前にこのブログでも解説しました。この判決では、手当について、理由もなく正規雇用には支給される一方で、非正規雇用には手当を支給しないことはあってはならないとしています。

詳しくは以前の私のブログをご参照ください。↴

https://vanguardwan.com/blog/%e3%83%8f%e3%83%9e%e3%82%ad%e3%83%a7%e3%82%a6%e3%83%ac%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%b9%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%81%a3%e3%81%a6%e4%bd%95%e3%81%8b%e3%80%81%e3%81%94%e5%ad%98%e7%9f%a5%e3%81%a7%e3%81%99%e3%81%8b

 

今回はこの判決から一歩進んで、賞与や退職金についても、正規雇用と非正規雇用とで差を付けて、正規雇用だけに支給するのは不合理であるとしています。ただし、支給される金額については正社員と同等とまでは考えていないようで、賞与については、「月給制の有期雇用契約の職員には、正職員の8割が支給されていることも踏まえ、アルバイトにも6割の支給が妥当とし、2年分で約70万円の支払いを命じた」(読売新聞)としています。また、退職金については、訴訟の原告である契約社員の方の勤務期間が約10年にも及ぶことを踏まえ「勤務期間が約10年に及ぶ元社員2人には正社員の4分の1の退職金が支払われるべきだと判断した」(読売新聞)としています。

 

賞与については支払うべきとした理由について、賞与の性格が「労務の対価や功労報償、生活費の補助など多様な性質がある」としていて、また、退職金については「永年の勤務に対する功労報償の性格がある」としています。

 

いずれも「功労報償の性格」という言葉が出ていることに共通点があります。

「ハマキョウレックス事件」「長澤運輸事件」では「手当」の意味合いが重要とされましたが、これと同じく、そのお金にどのような“意味”があるのか、が重要と言っているわけです。賞与や退職金は「会社に貢献したことに対して支払われるもの」だとすれば、非正規雇用であっても支払われるべきだと言っているわけです。

 

また今回の二つの判決に共通しているのは、正規雇用と同程度の金額でなくてもいいと判断しています。同じ金額でなくてもいいのだが、支給がされているのかが問われているわけです。「功労報償」という点からすると、正規雇用と非正規雇用で支払われる賞与や退職金とで金額に差があるのは仕方がないとしているのでしょう。

 

一方で、これらの裁判の前提には、働き方が正社員と非正規雇用とで同等に近いというのが前提にあることは忘れてはならない点です。

大坂医科大学の判決(賞与の話の方)では、「アルバイトで研究室の秘書として採用され、平日5日間、1日7時間程度の勤務形態」だったことが前提にあります。また、東京メトロの判決(退職金の話の方)では、「契約社員の勤続年数は約10年に及んでいた」ことがあります。これらはいずれも勤務形態が正社員に近い状況であったことが前提にあるわけです

 

この裁判は最高裁まで争われる可能性があります。今後も行方を注視していきたいと思います。



さて、今日は平成31年4月1日から施行される新しい国民年金の免除制度についての話です。産前産後期間の国民年金保険料が免除される新制度の話です。

まず、この制度の対象者は国民年金の第一号被保険者です。つまり、自営業者だったり自営業者の妻だったり、という方の話です。この第一号被保険者について、出産予定日または出産日が属する前月から4か月間の国民年金保険料が免除されるという制度ができました。具体的には、第一号被保険者で出産日が平成31年2月1日以降になる方が対象です。この2月以降に出産された方で第一号被保険者の方は早速対象になります。ただし、平成31年1月31日までに出産された方はこの制度の適用はありません。また、免除になる期間は出産日の前月から4か月間ですから注意が必要です。たとえば、平成31年5月に出産した場合、出産した5月の前の月、4月から4か月間が免除の対象期間になります。ですから、4月から7月の保険料が免除対象なわけです。

それから、この法律の施行日は平成31年4月1日ですが、対象となるのは平成31年2月1日以降の出産です。たとえば、平成31年2月1日に出産したとしましょう。その場合、この制度の適用は受けられますが、受けられる期間は施行日以降の期間に限られますから、平成31年4月分の保険料のみが免除になるわけです。

 

この制度の適用を受けるには、各市区町村の国民年金課の窓口に届出しないといけません。自動的に免除になるわけではないので注意が必要です。また、この法律の施行日は平成31年4月1日ですから、それ以前に届出しても適用にはなりません。逆に、提出できるのは平成31年4月1日以降ですが、届け出できるのは出産予定日の6か月前から提出可能です。つまり、9月30日の出産予定日の方については、早くも4月1日に提出できることになります。

 

また、この制度は国民年金保険料が免除される制度です。学生だったり、所得が少なかったりする場合に国民年金の免除される制度がありますが、それらは将来の年金額が2分の1になったり、3分の1になったりします。ところがこの産前産後の国民年金保険料が免除される制度は、免除の届け出をして免除を受けたとしても将来の年金額が減らされることはありません。出産を控えている第一号被保険者はこの制度を使わない手はないわけです。知らずに届け出をしていなかったとか、届け出するのを忘れていたとかということにならないように、今後、出産を控えている方については、出産予定日の6か月前からの早い時期に免除の届け出をすることをお勧めします。

 

この産前産後の期間の国民年金保険料が免除される制度は、他の第二号被保険者や第三号被保険者と比較してできた制度です。会社勤めの場合の第二号被保険者については、産前産後の保険料が免除される制度があります。また、サラリーマンの妻の第三号被保険者はそもそも保険料の負担がありません。現状では、第2号や第3号の被保険者は現状で保険料を負担せずに将来の年金額に反映する形になっているわけです。これらとの整合性を図るために第一号被保険者についても産前産後の期間について保険料を免除する制度を作ったわけです。

 

繰り返しですが、この産前産後の国民年金保険料が免除される制度は届け出をして初めて適用される制度です。忘れずに届け出をしておくことが肝要です。

 

今日は新しい制度、産前産後の期間の国民年金保険料が免除されるという話でした。



さて、今日は治療院や介護事業所でよくみられる資格取得の費用を会社が立替払いをする場合の労務上や税務上の処理がどうなるかという話をしていこうと思います。

治療院でも介護事業所でも最近は、「人材不足」が合言葉です。

そこで、格を取得している人を採用するのではなく、まだ資格を取得していない人を採用して、資格取得のための費用を会社が立替払いし、給与を支給する際に少しずつ控除していく、というようなことをしている会社があります

私もこの手のご相談を何回かうけたことがあります。

会社としては、資格をすでに持っている人はなかなか採用が難しいため、無資格者を採用し、働きながら資格を取ってもらおうということです。

ただ、この人がたとえば採用後数カ月で辞められてしまうと会社としては困ります。そこで、一定期間については給与から天引きして、一定期間を超えて働いてくれたら、立替払いしていた残りの分は会社が負担する形にするというような形にすることが多いようです。最初に係る資格取得のための学校に通う費用は会社がいったん払ってくれて、一定期間以上働けば、会社が持ってくれるわけですから、従業員としてもメリットが大きいわけです。会社としても、一定期間以上働いてくれれば残りの立て替え分が残っていてそれを会社側が負担したとしても、人材が確保されればその程度の費用負担をしてもメリットが大きいというわけです。俗にいう「ウィンウィン」の関係ということです。

 

通常、この資格取得のための費用を立替払いする場合、会社とその従業員さんが金銭の貸付契約もしくは立替払いして返金する旨の契約を交わします。たとえば、2年以内に退職してしまったら残りの分は退職時に一括で返してもらうというような契約を結ぶことになります。

 

さて、この資格取得費用を会社がいったん立て替え払いし、一定期間以上働けば費用を会社が持つというこの仕組みは労務上、それから税務上、なにか問題はないのでしょうか?

 

まず、労務上の問題から考えてみましょう。

労務上は、これはまずは労働基準法第16条の規定の問題を検討します。「賠償予定の禁止」というものです。労働基準法第16条には次のように書かれています。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

 

労務上の問題で問題になるのは、たとえば2年以上働いてくれなかったら残っている資格取得費用の立て替え分は返してもらうという契約をした場合、上記の労働基準法第16条に照らして問題にならないかという点です。

 

これについては、裁判例があります。

判例では次のように書かれています。

技能検定試験に関する必要費用を立替払いし、合格、不合格にかかわらず、その後、約定の期間内において退職するときは、右の金員を弁済し、その期間就労する時はこれを免除する等の特約は、①その費用の計算が合理的な実費であること、②その金員が使用者の立替払いと解されるものであること、③その金員の返済により何時でも退職が可能であること、④右返済に係る約定が不当に雇用関係の継続を強制するものではないこと、の場合には本条に抵触しない」(大阪高裁 昭和43.1.28)

 

また、労働基準法第17条前借金相殺の禁止」の規定との関係はどうかという問題もあります。労働基準法第17条は以下のように書かれています。

使用者は、前借金その他の労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない

これについては通達で次のように書かれています。

前借金でも貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を綜合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない。」(23.10.15基発他)

 

つまり、資格取得の費用について、会社が立替払いしその返済という形にすることは、労務上、問題ないということになります。

ただ、この判例にも書かれているように、「期間・金額・金利」等を明確にしないといけません。「お金を貸し、それを返してもらっている」ことを明確にする必要があるわけです。その意味でも、これを明確にするためにもきちんと契約書を交わす必要があります。

また、一定期間働けば残っている部分は、免除するという契約についても、判例から判断すると、契約の内容が著しく変な形の契約になっていない限り、問題ないとされているようです。著しく変な形の契約というのは例えば、資格取得の費用が100万円で、それを1年で返済することになっている(給与の半分近くの金額が返済に充てられる)とか、そういう極端なものでないという話です。

 

また、判例で「美容指導をうけ退職する場合は技術講習手数料を支払う旨の契約は労働基準法第16条に違反する」(浦和地裁 昭和61.5.30)とあるように、たとえば一定期間内に退職した場合、逆に手数料を取るような契約も労働基準法に違反しますから、この点も留意する必要があります。

 

このように、労務上は契約内容が不合理なものでなければ会社が立替払いし、一定期間を働いてくれたら立て替えた資格取得費用の一部を返済するのを免除するというのは合法であることがわかります。

 

では、税務上はどうでしょうか?

税務上はまずは立替払いであることを明確にしたほうがいいです。そうしないと「給与の一部」とみなされてしまう可能性があるためです。そのためにも、「契約書」をきちんと交わしたほうがいいです。契約書を交わすという点は労務上の観点からと同じです。

また、「金銭の貸付」とする場合には、金利をいくらか取ったほうがいいでしょう。微妙なところですが、「費用の立替」であれば一見すると金利を取らなくても良さそうではあります。しかし、いったんお金を貸して資格取得の費用を出したと考えれば金利はいくらか取らないといけないでしょう。つまり、「費用の立替」とか「金銭の貸付」といった名称で金利を取る取らないを分けるのではなく、資格取得の費用をいったん会社が立て替えた場合、言い方がどうあれ、金利はいくらか取らないといけないということだろうと思います

 

ちなみに、金利を利率何%にするかは、一定の決まりがあります。以下の国税庁のHPを参考にしてみてください。

https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2606.htm

 

平成30年については、金利は1.6%となっています。

 

また、たとえば2年間勤務したら、会社が立替払いした資格取得費用の残りは全額、免除する形にしたとします。この免除した資格取得費用はどう処理するのでしょうか。

これは、会社としては免除した時点で「賞与の支払い」となるだろうと思います。

そうなると、本人からも源泉所得税も徴収しないといけません。給与課税していくため、本人には所得税・住民税がかかるという処理となります。

 

人材不足が言われる昨今、資格取得費用を会社が立て替えて支払うことも積極的に考えたほうがいいでしょう。その場合、こうした労務上や税務上の問題も考慮に入れて自社に合った制度を考えてみてはいかがでしょうか。



最近、融資の際に社会保険料についても納付がきちんとされているのかを確認されることがあります。従来から融資の際には、税金の滞納がないかの確認がされていました。納税証明書などで納付していない税金の確認の書類の提出を求められるのです。同じように、社会保険料の滞納がないかの確認もされることがあるのです。

 

融資の際の税金の滞納の確認は通常は国税についてのみ行われます。会社の国税というと、法人税・地方法人税、あとは源泉所得税、消費税といった税金です。融資の際にはこれらの税金に滞納がないことの確認をされます。納税証明書のその3というのを取るように言われるのがそれです。

 

さて、それと同じように社会保険料の未納がないことの確認を要求されるのですが、それが「社会保険料納入確認(申請)書」です。

この社会保険料の未納確認の書類は必要事項を記入して、年金事務所に確認印をもらうスタイルです。つまり、書類自体はこちらで記入して持っていくことになります。

税務署の納税証明書は納税証明書の発行依頼の書面を税務署に出して納税証明書を発行してもらうのですが、社会保険料の未納がないことを確認するこの書類は必要事項をこちらで書いて、書いた書類に「この書いていただいた事項は間違いないですよ」という印鑑をもらうわけです

 

さらに、この「社会保険料納入確認(申請)書」は管轄の年金事務所で印鑑をもらうのですが、たとえば本店が移転しているような場合、その管轄の年金事務所に所在していた期間だけしか発行してもらえません。本店移転があった場合はその点が注意点になります。

 

また、この社会保険料の未納の証明は通常は2年分しか出ません。金融機関から社会保険料の未納の証明を求められる場合、通常は「出せる期間分をだしてもらってください」というようなことを言われるはずです。その出せる期間というのは証明書を発行する2年前までの期間です

 

社会保険料の未納の証明を発行する必要があるというのは、融資の場合の他、経営事項審査を受ける場合や入札などが必要な建設業の場合があると考えられます。発行の仕方は、社労士などに聞いてもわからないことが多いです。事業主側としては、社会保険料の未納の証明書という書類があることを知っておきましょう。

日本年金機構の「社会保険料納入確認書」についてのページは以下です。↴

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyonushi/sonota/20140311.html



さて、今日は融資の話です。

実際に、私の顧問先であった話で、「社団法人で銀行からお金を借りようと思ったらできなかった」という話がありました。今日はこの話を参考に社団法人は銀行からお金を借りることができないという話をしていきます。

まず、一般社団法人とは営利を目的としない法人とされています。(社団法人と財団法人もありますが、どちらも非営利法人です。今日は主に社団法人について書いていきます)

「営利を目的としない」というと、お金を稼いではいけないと思われてしまいますが、ここで言っている「営利を目的としない」というのは株式会社などでいう利益の配当のことを言っています。株式会社や合同会社は利益が出たら、株主(出資者)に配当をすることができます。営利法人の大きな特徴です。社団法人はその配当ができないのです。それを「営利を目的としない」と言っているのです。ですから、社団法人であっても収益を上げて、収益が上がったらその分を従業員に給与として支払っても何ら問題はないとされています。

私の顧問先でも、介護事業所で社団法人になっているケースがあります。一般的には社団法人でも一般法人同様に、利益が出れば法人税も払います。その意味では何ら株式会社などの一般の営利法人とかわらないのです。

 

さて、この社団法人と株式会社などの営利法人の大きな違いとして「融資」があります。社団法人の場合、融資を受けづらいということがあります。法人設立の際にこれは知っておいていい話でしょう。

 

たとえば、銀行で初めて融資を受けようとする場合、営利法人だったら制度融資を勧められると思います。制度融資というのは銀行の融資で保証協会の融資のうち、市区町村や都道府県が保証する保証協会の融資のことを言います。銀行は制度融資は融資が通りやすいので、特に初めて融資をするような場合には、制度融資を勧めてくることが多いです。

この制度融資は、対象となるのが営利法人です。社団法人は非営利法人と区分されているため、原則的には、社団法人に制度融資は使えません

 

また、制度融資に限らず、保証協会の融資自体が営利法人を対象としているため、難しいです。保証協会というのは、営利法人を支援して営利法人が収益を上げ、雇用をして地域の経済を活性化させることを支援するというのが基本的な立場なようで、非営利法人とは立ち位置が違うということのようです。

 

では、銀行の融資が全く受けられないかというと、あとは保証協会の融資ではなく、保証協会の保証を取らずに銀行が直接融資するプロパー融資があります。プロパー融資であれば可能性はゼロではないです。社団法人としての実績や土地や建物などの担保があるとかというのがあれば、社団法人でもプロパー融資は可能なようです。

 

しかし、実際には、社団法人がはじめて融資を受ける場合、銀行がいきなりプロパー融資をするというのは考えづらいです。

そこで、社団法人の融資として可能性が浮上するのが日本政策金融公庫による融資です。

日本政策金融公庫の場合、保証協会のように非営利法人が対象外ということはありません。NPO法人であっても、社団法人であっても、融資することが可能な事業であれば融資できます。したがって、社団法人で融資を受ける場合、まずは日本政策金融公庫での融資を検討することになります。

 

あとは、どうやって融資を受けるかです。

社団法人が日本政策金融公庫で融資を受ける場合、重要なのが事業計画書です

社団法人なのに融資が必要な理由です。何に使って、どう収益に反映させていくのか。一般の営利法人以上に事業計画が非常に重要になってきます。

 

そもそもですが、社団法人というのは数名の社員がお金を出し合って、地域のためといった非営利の目的が事業の目的としてあるはずです。(建前かもしれませんが・・・)お金を出し合った範囲で事業を始めて、そのお金を出し合った以外に融資が必要というのは何か理由があるはずです。営利法人のような運転資金ということで借りたいのであれば、営利法人でやるべきです。その方が融資も受けやすいからです。また、法人税の計算の仕方も営利法人と社団法人では何も変わりません。税務上のメリットも通常の社団法人なら特段あるわけではありません。(財団法人なら法人税がかからない等の税務上のめりっともあります)それでも、社団法人にして融資を受ける必要があるというのは、何らかの事業目的があるからのはずです。営利法人以上に明確な目的があるはずです。それを事業計画に落とし込んでいけば自ずと事業計画書になるはずです。

社団法人が日本政策金融公庫で融資を受ける場合、事業計画書をきちんと作成するのがまずは重要なことだということはよく理解しておいた方がいいでしょう。

 

また、銀行の融資もまったく受けられないわけではありません。制度融資などの信用保証協会の融資は難しいですが、プロパー融資であれば融資を受けられる可能性はあります。プロパー融資が受けられるか、相談くらいはしてもいいと思います。

 

ちなみにですが、社団法人だとたとえば「小規模事業者持続化補助金」が受けられないといったような論点もあります。融資以外にも社団法人には意外とできないことがあるということです。

 

いずれにしても、社団法人で融資を受ける場合は、日本政策金融公庫に相談してみること、そして、事業計画書をきちんと作成すること、この点は押さえておきましょう。



さて、今日は久しぶりに介護事業所の処遇改善加算の話です。

処遇改善加算」は介護事業所にとっては、取り扱いについての細目を確認することや事務処理負担など結構な負担となっています。介護事業所の大きな特徴である「処遇改善加算」の取り扱いについて、今日は「役員」をテーマに考えてみたいと思います。

まず、役員への処遇改善加算の支給は処遇改善加算の支給の対象にはなりません。この場合の役員というのは、いわゆる「取締役」や「監査役」のことを言います。中でも、取締役のうち、「代表取締役」はどういう条件の下であっても、処遇改善加算を支給することは出来ません(正確には、代表取締役に対して処遇改善加算を支給したとしても、処遇改善加算の報告書に代表取締役に支払ったものは除いて報告しないといけません)。たとえその代表取締役が介護事業に従事していたとしても処遇改善加算の支給の対象とはなりません。

 

また、「監査役」も同じく、「処遇改善加算」を支給したとしても対象外となってしまいます。「監査役」についても「代表取締役」と同じで「監査役」というだけで処遇改善加算の支給対象とはならないのです。

「監査役」がなぜ処遇改善加算の対象外になるかというと、会社法により兼務禁止とされているためです。「監査役」と「介護職員」の兼務は会社法で禁止されているので対象外となるということです。

 

このように、登記上「取締役」や「監査役」になっていると処遇改善加算の対象外になってしまうことが多いのですが、一つだけ例外があります。これがいわゆる「使用人兼務役員」です。「使用人兼務役員」というのは、「取締役」ではあるけれども、実際には他の従業員と同じ就業規則が適用される「従業員」でもある人のことをいいます。

この「使用人兼務役員」の場合、「取締役」部分と「使用人」部分が明確に分かれていれば、使用人部分について介護職員として従事している場合には対象となるものとされています。つまり、もし、取締役に処遇改善加算を支給したいのであれば、使用人部分を明確にするために雇用契約書をきちんと締結しておくことはまずは必須です。その上で、その雇用契約書で使用人部分と役員部分を明確に区分しておくわけです。

役員報酬部分と使用人部分とを書類上で明確に区分した上で、実際上も介護職員として勤務していることを明確にしないといけません。この実際に介護職員として従事していたことを明確にするために、勤務表などの書類で介護職員として従事していたことを明確にして残しておく必要があります

このように、「使用人兼務役員」に処遇改善加算を支給する場合には、「雇用契約書」で使用人部分を明示し、介護事業に従事していたことのわかる書類を残す、といったちょっとした工夫が必要ということです。

介護事業所の監査は、書類がすべてになります。書類がないとなると実態がないという話になりかねませんから、特に使用人兼務役員に対して処遇改善加算を支給する場合、細心の注意を払う必要があります。

 

ちなみに、使用人部分と役員部分を明確に区分することは、処遇改善加算対策という意味以外にも意味のあることです。

一つは税務上の意味です。役員報酬部分と使用人部分を明確に分けておけば、役員報酬部分についていわゆる「定期同額給与」 (原則、1年に1回の定時株主総会から、次の期の定時株主総会までの役員報酬は毎月、同じ金額とするという税務上のルールのことです)で判断されることとなります。一方で、使用人部分については雇用契約書等によって支給しているのであれば、定期同額給与、つまり、毎月、同じ額でなくてもいい(残業していれば残業代を支払っても問題ないでしょうし、各種手当があれば諸手当を支払っても問題ない)という効果があります。これが仮に役員報酬部分と使用人部分が明確にされていないと、全額が役員報酬部分と判断され、定期同額給与のルールが適用されかねません。この点からも「役員報酬部分」と「使用人部分」を分けることは意味のあることです。

 

また、雇用保険の観点からも、役員報酬部分と使用人部分とは区分しておいた方がいいです。雇用保険料については役員報酬部分は徴収する必要がないためです。あくまでも雇用保険料は使用人部分についてのみ保険料を徴収すればいいからです。

このように、「使用人兼務役員」がいる場合には、「使用人部分」と「役員報酬部分」を区分しておくことは、処遇改善加算の問題だけでなく、税法や雇用保険にも影響の与える話だということは知っておいていいことでしょう。

 

また、役員報酬の話ではないですが、似たような論点の話として、外注などで経理処理されている業務委託されている者については、処遇改善加算の介護職員が雇用されている職員ではないので対象外とされています。一方で、派遣法に基づく派遣労働者は、運営基準においてその介護職員の指揮命令が及ぶ従業者なのであれば、対象になるものとされています。

これは指揮命令が明確かどうかが問題だとされています。外部業者だと明確に指揮命令が及ばないので、処遇改善加算の対象外にされているわけです。

 

近年、実地調査の際に「処遇改善加算」が調査されることが多くなっているようです。その際に、かなりの事業所で今回のブログで書いた「役員」に対して処遇改善加算を支給していて全額返還指導されたという話を聞きます。

介護事業所の経営者の皆さんは、支給してはいけない人に「処遇改善加算」が支給されていないか、今一度、確認しておくことが必要でしょう。