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さて、今日は私の顧問先からいただいた質問を元に書いていきます。

こんなご質問でした。

○○さん(傷病手当金受給中の方)が、他社でリハビリを兼ねてアルバイトをしたいといってきています。主治医の先生もそれはいい方法だといっているようです。傷病手当金受給中で働いていても問題はないのでしょうか?

健康保険法第99条によると「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。」となっています。病気で働けないから給与の代わりに受給するのが傷病手当金です。

そもそも働いていると傷病手当金はもらえない。これが原則的な考え方です。さて、上記のご質問のケースを考えてみましょう。

このケースは精神疾患で会社を休職中の方であるという前提があります。この方がアルバイトをするのは主治医のアドバイスもあり、要は、病気療養という目的で働くわけです。しかも自社ではなく、他社で働いて少しずつ療養していこうという理由なわけです。果たしてこの状況で傷病手当金を受給しても傷病手当金の受給に影響はないのでしょうか?

これについては、平成15年2月25日に厚労省から出ている次のような通達(保保発第0225007号)があります。全文を引用してみましょう。

健康保険法第99条第1項に規定する「療養のため労務に服することができないとき」(労務不能)の解釈運用については、被保険者がその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であっても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによって相当額の報酬を得ているような場合は、労務不能には該当しないものであるが、本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない副業ないし内職等の労務に従事したり、あるいは傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、賃金を得るような場合その他これらに準ずる場合には、通常なお労務不能に該当するものであること。

したがって、被保険者がその提供する労務に対する報酬を得ている場合に、そのことを理由に直ちに労務不能でない旨の認定をすることなく、労務内容、労務内容との関連におけるその報酬額等を十分検討のうえ労務不能に該当するかどうかの判断をされたいこと。

ちょっと長いですが、全文を引用しました。この通達は健康保険法99条の傷病手当金の要件にある「労務に服することができないとき」というものの解釈のことを言っています。「報酬を得ている≠病気で働けない」と考えて、傷病手当金がもらえないと考えるのは違うといっています。あくまでも病気療養、つまり、リハビリ的に働いてその結果、報酬を得ていたとしてもあくまでも病気療養の一環なのだから普通に「働けない」状態であることには変わりないと判断して下さいといっています。

また、この「報酬を得ている」というのは自社で働いて報酬を得ているのか、他社で働いて報酬を得るのか、それは問わないともいっています。

通達なので、厚労省が実際に事務処理をする協会けんぽなどにあてて書いている文書ですが、この通達の解釈が実際にはそのまま実務上の解釈となります。

さて、では、病気療養的に働いて報酬を得ていても問題ないとされるのは、どの程度までを言うのかという点です。

解釈通達には、「軽微な労働」であることや本来の職場とは違う仕事であることなどと書かれています。

ここからは私見となります。判断の基準として、まず、本来の仕事とは違う簡単な仕事であることがあります。また、雇用保険に加入するのは週の労働時間が20時間以上である場合です。その辺から考えると、例えば、20時間以上労働時間があるような場合には病気療養の働き方とは言えないのだろうと思います。それから、この通達の想定しているのはあくまでも「一時的」なものです。何カ月も継続して報酬を得ているのであれば、これもこの通達からは外れてくるといえるだろうと思います。具体的に何カ月からだと「一時的」といえないのかまでは何とも言えませんが、あくまでも「病気療養」のための一時的なものというのが基本だということです。

加えて、報酬を得ている場合、傷病手当金の受給額に調整が加わる可能性があります。協会けんぽのHPによると「休んだ期間について、給与の支払いがある場合、傷病手当金は支給されません。ただし、休んだ期間についての給与の支払いがあってもその給与の日額が、傷病手当金の 日額より少ない場合、傷病手当金と給与の差額が支給されます。 」とあります。ただ、これは傷病手当金の受給中に有給の給与が出ている場合です。病気療養の一環で少し働いていてもやはり傷病手当金はその分、減額されるのかは書いていません。

そこで、協会けんぽにもこの点を電話で問い合わせてみました。その回答としては、自社で働いて一部、報酬が出ている場合、その分は傷病手当金は減額されるという話でした。ついでに、その傷病手当金受給中に他社でアルバイトしていても減額されるのか、というのも聞いてみました。回答としては「協会けんぽとしては4枚の傷病手当金の用紙からしか判断できないです。他社で勤務していることが問題になるのは、社会保険の調査があったりして、その際に他社で問題になる可能性はあります。」というような話でした。つまり、傷病手当金受給中の他社での勤務の場合、傷病手当金の申請ではわからないかもしれないが、勤務時間が多いとそれが原因で問題になる可能性があるという話です。

傷病手当金の受給中に報酬があるようなケースがある場合、注意してみてください。以上 、傷病手当金受給中に報酬を得ていた場合という話でした。



事業主宛にお知らせが順次届いているようなので把握されている事業主も多いことと思います。厚生年金の上限額が引き上げになっています

従来、厚生年金は上限額が620千円でしたが、上限額が650千円に引き上げになりました

適用となるのは9月1日からです。

9月分の社会保険料から変更になります。対象者がいる事業所には9月の終わりごろから個別に新標準報酬に該当する旨が通知されています。その通知で確認されている事業主も多いと思います。

もう一つのポイントはいつの給与から変更になるのかという点です。9月分の社会保険料、つまり、多くの事業所は10月に支給される給与から変更になります。

また、この変更に際しては特別な手続きは必要ありません。算定基礎届で提出された報酬に基づき、該当する者がいる場合には、個別に事業主宛に案内が郵送されま。

今月支給の給与から注意して給与計算をしましょう!



今日は顧問先からいただいた質問からちょっと考えてみたいと思います。

月末の前日を退職日とすると社会保険料がかからなくて得だ」という話についてです。

このことをちょっと考えてみたいと思います。

実はこの話は私が開業する前、会計事務所に勤務していたころからたまに聞いたりすることがある話でした。話の要旨としてはこのようなことです。

月末退職とするとその月の社会保険料がかかるから、月末の前の日に退職したとすれば社会保険料がかからなくなる。だから、顧問先にもそう話をして月末退職ではなくで月末の前の日に退職したことにして手続きするように話をしたほうがいい

こんなような話です。

これはどういう話なのでしょうか?まずは社会保険の仕組み的な話から確認していきましょう。

社会保険というのはそもそも退職日の翌日が資格喪失日となります。つまり、退職日の当日は保険証を使えるということです。その翌日(正しくは夜の0時を過ぎた時間)から保険証が使えなくなります。保険証が使えなくなった同日に別の保険に加入する形(法律的には、ほかの会社に就職したのから他の会社の社会保険に、そうでなければ自動的に国保・国年)となります。これを同日得喪といったりします。

たとえば、9月29日退職とすれば、9月30日資格喪失となり、9月30日の当日から保険証は使えなくなります。

また、社会保険料は月末の在籍に対してかかるので、9月30日にすでに資格を喪失しているのであれば、9月分の社会保険料はかからないということになります

このように、確かに9月29日退職とすれば、9月30日資格喪失となり、社会保険料は「会社側」ではかかりません。会社側からすると社会保険料がかからなくなり、一方で従業員側からしても社会保険料の負担が1か月分なくなるのでよさそうな話に聞こえるのかもしれません。ですが、あえてこのように誘導すると、本人にとって不利益になることがいくつかあります。

たとえば、9月分は国保・国年となる(9月30日にほかの会社に再就職しなければ自動的に9月30日に国民健康保険・国民年金となります)ため、国民健康保険・国民年金の保険料となります。保険料という点からはひょっとしたらそちらのほうが高くなる可能性があります。また、国保・国年の手続きをしなければ無保険となる期間があることもあり得ます。

また、年金についても影響があります。たった1日だからといって手続きを何もしなければ老齢年金の加入期間に空白期間が生まれる可能性もあります。つまり、たったの1ヶ月分ですが将来の年金額に影響します。また、仮に障碍者になって障害年金を受給することになってしまった場合、空白期間があると障害年金を受給できなくなる(障碍者認定される1年以内に保険料の未納がない等の要件があります)こともあり得ます遺族年金の受給できる場合も同様に、保険料納付要件があるのでそれに引っかかってしまい、せっかくもらえるはずだった年金がもらえなくなることもあり得ます。障害年金や遺族年金はその後の生活保障という意味がありますから、仮にたった1日のちがいでこうした年金がもらえなくなることが起こってしまったら重大な問題となります。

それから、実際に私が勤務していた会計事務所であった話ですが、前職で月末の前の日に退職した(たとえば9月29日退職として1か月分の社会保険料を逃れる形にした)方がいました。前職の会計事務所でその会計事務所の所長の税理士の先生から言われた(つまり、社会保険料が1か月分かからないから月末退職ではなく月末の前日を退職日としようといわれた)らしいです。その方は日をあけずに、つまり、この場合だと10月1日に別の会計事務所に再就職しました。ところが、その方がちょうど1年近くになったときに、病気になってしまい傷病手当金を受給することになりました。傷病手当金は同一の傷病で仕事につけないのであれば退職後も継続して受給できます。ただ、退職していても傷病手当金を受給するには加入期間が1年以上ないといけません。この1年以上の加入期間というのは、たとえば協会けんぽなら協会けんぽで継続して1年以上の加入であれば、途中で職場が変わっても継続しているものとして取り扱えます。この方の場合、再就職先の会計事務所でちょうど1年になる前に退職してしまいました。前職も協会けんぽだったため、通算すれば1年以上になり本当だったら傷病手当金が受給できたはずなのです。つまり、前職とこの退職した会社で切れ目なく社会保険が継続しているのであれば傷病手当金を受給できたのに、たった1日切れている日があったために退職後も継続して傷病手当金を受給できるという特例が使えなかったわけです。しかも、このケースは実態としては月末が退職日だったわけですから、問題があるといわざるを得ないでしょう。

このように、本来の退職日は月末なのに社会保険料がかからないからという理由で月末の前の日を退職日とすることで、本人に不利益になることがいくつかあります。会社側からすれば、単に1か月分の社会保険料がかからなくなるだけの話ですが、本人にとっては実は不利益なことが多い話だということです。

また、コンプライアンス上も問題がないかという点もあると思います。税理士の先生で「退職日を月末の前日とすると社会保険料がかからなくなるからそのようにしたらどうですか」と顧問先にアドバイスしている先生がいるとお聞きしたことがあります。先ほど例に出した前職の会計事務所での取り扱いのように社会保険料を逃れるための常とう手段のように考えている税理士も多いのです。問題なのは、その税理士の先生が上記のような本人にとってのデメリットがあることをきちんと説明し、本人がこうした不利益があることをきちんと理解したうえでやっていることなのかという点です。本人も了解しているからいいのではないかという意見もあると思いますが、生命保険であろうが、携帯電話の契約であろうが、本人にとって不利益なことがあるのであれば事前に説明をするのは常識的に行われていることです。件の税理士の先生も「1か月分の社会保険料がかからない」という点だけを会社側も本人に説明しているのではないのかと思います。このようなことで訴訟になることはないのかもしれませんが、もし仮に訴訟になったとしたらデメリットをきちんと説明していないという点について責任を問われかねないと思います。

そもそも、事実として退職日が月末なのに月末の前日を退職日として書類を作成するという行為自体、虚偽の公文書作成です。そのこと自体にすでに問題があります。得だとか損だとかという問題以前の話ではないかと思います。

このように月末が本来の退職日であるところを月末の前日を退職日とするのは問題となる点があるということです。そのことを十分に理解していただきたいと思います。



医療や介護の従事者に向けて1人当たり5万円(新型コロナウィルスの濃厚接触者の場合には20万円等)の慰労金の支給が始まっています。

この慰労金は7月の終わりから申請ができましたが、7月の申請はあまり日数がなかったため、実際には8月15日~8月末までで申請し始めている事業者が多いと思います。その場合、入金になるのは9月末、つまり、今月末となります。私の顧問先からも、「どうやって経理処理すべきなのか」「給与明細のような明細は必要なのか」といったご質問をいただくことが多くなっています。この慰労金について、どう経理処理をしていったらいいのか、見ていきましょう。

医療・介護従事者に向けた慰労金ですが、そもそもこれは本人が請求するのに変わって事業所が国保連に請求するという関係になっています。つまり、事業所はあくまでも代理で申請するだけです。事業所としては代わりに申請しているだけなので、当然、事業所の収入にはなりません。預かっているお金を渡しているだけなので、経理処理としては以下のようになります。

入金時:(普通預金)/(預り金)もしくは(仮受金) ×××

支払時:(預り金)もしくは(仮受金)/(普通預金) ×××

過不足なく全員にお渡しする必要がありますから、預り金勘定もしくは仮受金勘定はゼロにならないといけません

また受け取った従業員さんも非課税となります。所得税や住民税はかかりません

税務のみを扱っている税理士の先生だとこの点を知らない方もいらっしゃると思います。この非課税の取り扱いについては、国税庁から出ているわけではなく、厚労省から出ているからです。

所得税や住民税がかからないということは、たとえば扶養親族になっている場合、この慰労金は除いて考えていいことになります。また、社会保険の扶養の判定についても除いて考えていいでしょう。

また、非課税ですから、この慰労金も給与の支給時にあわせて支給するような場合、注意が必要です。給与と一緒に支給するのであれば、課税されない形になるように給与明細の表示をしないといけません。通常の給与計算は事業所でやって、年末調整だけは税理士の先生にやってもらっているような場合も注意が必要です。単に給与明細を渡すだけで税理士の先生もよく理解していないと、課税して計算してしまう可能性があります。この点、よく注意しましょう。

それから、私の顧問先にお聞きすると結構多いのが、この慰労金は給与とは別に現金で支給するというものです。もちろん、現金で渡しても構わないのですが、その場合には受領書や領収書など、受け取ったということがわかるものを必ず取ってください。現金で渡す場合、たとえば、「まだもらっていない」とか「もらったが金額が足らない」とかといったことでトラブルになることもあり得ます。必ず渡したその場で金額を確認してもらって確かに受け取ったという受領書をもらうようにしましょう。

慰労金事業の詳細については、以下の以前私が書いたブログを参考にしてみてください↓

ということで、今日は慰労金の経理処理の話でした。



さて、今日は私の顧問先から質問のあったことを元に書いていこうと思います。

「治療院の専従者として働いているが、この先、コロナの影響もあり治療院がどうなるかわからない。パートとして別でも働きたいが、問題はないのでしょうか」

このケースのように個人事業で専従者給与を計上している人がパートで働いたりしたいという場合もあるでしょう。その場合、専従者給与が計上できなくなるケースがあります。これを見ていこうと思います。

その前に専従者給与とは何のことでしょうか?

たとえば、夫が個人事業をやっていて、その事業を妻やお子さんが手伝ったとします。手伝ってくれたわけですから、家族とはいえ給与を支払ったとします。その給与のことを「専従者給与」といいます。この「専従者給与」ですが、一定の要件があり、その要件に当てはまる形になっていないといけません。なおかつ、税務署への届け出も必要とされます。それらをクリアして初めて「専従者給与」として経費計上できることになります。

このように「専従者給与」に制限があるのは所得税法第56条という規定があるためです。この所得税法56条は税法になじみのない方からすると少し意外に思える規定かもしれません。要するに、生計を同じくする親族に対して支払ったもの(給与や賃料など)は経費にならないというものです。

この所得税法56条の例外が「専従者給与」です。青色申告の場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」というのに誰にいくら支払うのかを記載し、仕事をしたことに対しての給与の額が適正だと判断されれば、生計を同じくする親族であっても経費に計上できるということになっています。(白色の場合には届け出をしなくても経費に計上できますが、経費に計上できる給与の金額に一定の制限があります)

さて、今日はこの専従者給与を計上する場合に、他に給与があると計上できなくなるケースがあるという話です。所得税法施行令165条(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)という部分にこのことが書かれています。ちょっと読みづらいのですがこの規定をそのまま載せたいと思います。

法第57条第1項⼜は第3項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と⽣計を⼀にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて6⽉をこえるかどうかによる。ただし、同条第1項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその2分の1に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば⾜りるものとする。

⼀ 当該事業が年の中途における開業、廃業、休業⼜はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。

⼆ 当該事業に従事する者の死亡、⻑期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と⽣計を⼀にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。

2 前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の⼀に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする。

⼀ 学校教育法第1条(学校の範囲)、第124条(専修学校)⼜は第134条第1項

(各種学校)の学校の学⽣⼜は⽣徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第124条⼜は同項の学校の⽣徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)

⼆ 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)

三 ⽼衰その他⼼⾝の障害により事業に従事する能⼒が著しく阻害されている者

ちょっと読みづらいですよね。

要約すると、以下のようになります。

〇専従者給与にするには1年間に6カ月以上(事業に従事できる期間が1年に満たない場合にはその事業をやっていた期間の半分以上の期間)勤務していることが必要

〇学生は専従者給与に計上できない

〇他に職業がある人は専従者給与に計上できない(ただし勤務時間が短い場合は除く)

〇身体的に働けない状況の人は専従者給与に計上できない

思い切ってまとめれば上記のようになります。

今回、問題にしているのはこの三つ目の「他に職業がある人は専従者給与に計上できない」という論点です。

この論点での裁判例があります。関連会社の役員として従事する配偶者は、他に職業を有する者であるから青色申告専従者には当たらないとされた事例です。(東京地裁平成28年9月30日)

この例では、税理士業を営む原告が、妻に支払った青色事業専従者給与を必要経費に算入して申告したところ、税務署側は「妻は関連法人3社の役員として法人の業務に従事しており青色事業専従者に該当しない」として専従者給与の計上は認められないとしています。

原告の妻は、いずれも1年の売上高が1000万円を優に超える規模の関連会社において、代表取締役又は取締役として業務に従事しており、その役員報酬の合計額は、税理士事務所の専従者給与の額をはるかに超えるもので、このうちの1社については妻が代表取締役であるとともに宅地建物取引主任者の地位にあったものであり、その報酬を確定申告しているのであるから、自ら業務に見合った報酬を得ていることを自認しているもので、「他に職業を有する」というべきだとして、専従者給与は計上できないとしています。

上記の裁判例も踏まえて考えると、役員などの取締役をやっていて報酬を得ているというのは「他に職業を有する者」とみられる可能性があるので注意が必要です。仮に、取締役等の役員になっていても得ている報酬額が専従者給与と比べて少なければ問題はないかもしれませんが、専従者給与よりも多い場合、問題になる可能性があります。また、代表取締役になっているケースも「他に職業を有する者」とみられる可能性がありますから注意が必要です。

次に、「他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)」という規定の( )の部分の「その職業に従事する時間が短い者」というのは具体的にはどういう意味なのでしょうか。

これについては、特に判例等がないので、個々に判断していくしかなさそうです。ですから、ここからは私見となってしまいます。

まず、正規雇用となっているようなケースは「他に職業を有する者」といえるので問題があるといえます。

では、正規雇用でもなく、専従者給与と比べて金額も少ない場合、問題がないと考えていいのでしょうか。

これも私見ですが、税法ではないところから考えるのも根拠になりえるのではないのかと思います。雇用保険法で考えると、週の労働時間が20時間以上の場合には雇用保険に加入することになります。一時的に20時間を超えていても加入する必要はなく、恒常的に20時間以上の労働時間がある(もしくは労働契約等で週の所定労働時間が20時間以上となる)場合に加入することになるものです。雇用保険は失業した場合の生活保障という意味の保険で、これに加入するということは「他の職業を有する者」とみられる可能性があるのではないかと考えます。

まとめますと、専従者給与を得ている人が他で報酬を得ている場合、以下のようなことが求められると思います。

  • 他の会社の代表取締役となっていないこと
  • 他の会社の取締役等の役員になっている場合には、報酬額が専従者給与よりも少ないこと
  • 他の会社で正社員になっていないこと
  • 専従者給与以外の給与の額が専従者給与と比べて少ないこと
  • 他の会社でパート・アルバイトで働く場合には、週の労働時間が20時間未満であること

こんな感じでしょうか。

ちなみに、個人事業が法人なりした場合にはこうした専従者給与の問題は生じません。

法人にしてしまえば、他で働こうが、代表取締役になっていようが、法人の給与なので計上は可能です。もちろん、金額が働いている内容に比べて給与が高ければ金額の部分が問題になることはあります。ですが、きちんと仕事の内容と給与の額が特に問題ないといえるのだったらその法人で給与を計上すること自体に問題はありません。

また、専従者給与の場合、学生は計上できません。ですから、個人事業を営んでいる人が自分のお子さんがお手伝いをした場合に専従者給与を計上したとします。そのお子さんが学校に通っている学生だったら専従者給与は計上できません。ですが、この場合でも個人事業を法人にすれば給与を計上できることになります。

このように、専従者給与の観点から法人なりすることを検討することも考えられる話です。

ということで、今日は、専従者給与の「他で職業を有する」という部分についての話でした。



今日、日本の総理大臣が7年8か月ぶりに交代しました。新しく総理大臣となる菅首相はデジタル庁を創設し、マイナンバーカードの普及促進を図ることを掲げています。このデジタル庁の創設を機に、これまで進んでいなかったマイナンバーカードの普及がより一層進むものと思われます。

その手始めにマイナンバーカードとカードの決済サービスを連動させると1人最大5000円分のマイナポイントが付与されるというのがこの9月から始まっています。

さらに、来年の3月からはマイナンバーカードが保険証としても利用できるようになります。

今日は、このマイナンバーカードの利用促進の話のうち、保険証としての利用というのはどういうものなのか、ちょっと、見ていきたいと思います。

マイナンバーカードの保険証としての利用をするには、まずマイナンバーカードを作った後に、マイナポータルという専用サイトに保険証としての利用というのを登録する必要があります。マイナポータルというサイトでの登録はそれほど難しくはありませんからやってみましょう。まずはそれが最初のステップです。

さて、マイナンバーカードを作ってマイナポータルに保険証利用の申請をしたらマイナンバーカードの保険証利用の準備完了です。では、マイナンバーカードを保険証として利用できるとどんなメリットがあるのでしょうか。

まず、「顔認証付きカードリーダー」というものを病院等の医療機関の窓口に設置することで、本人確認の手間が省けます。

つまり、医療機関での受付がよりスムースになることが期待できるわけです。この本人確認は、マイナンバーカードを使った顔認証ではなく、4桁の暗証番号で本人確認をすることも選択できます。お子さんのマイナンバーカードの保険証利用をする場合には、保護者などがこの4桁の暗証番号を入力することで本人確認していく方法になるようです。

そして、以前他の医療機関でどのような薬が処方されたのかが一目瞭然となるという点もあります。

特定健康診断の情報などもマイナンバーカードで統一されるため、医療情報の統一を図れます。違う医療機関を複数利用していたとしても、医療情報が統一されるためより良い医療を受けることが可能となるわけです。また、医師や歯科医師、薬剤師の方たちが医療情報を確認できるだけでなく、自分自身も過去にどんな薬を処方されていたのかとか、自分自身の健康診断の情報を確認したりすることが簡単にできるようになるというメリットがあります。

そして、いろいろな手続きも簡素化されます。

たとえば、保険診療での受診の場合、1ヶ月の窓口の負担金は一定の上限額があります。この上限額を超えて保険診療を受ける場合、「限度額適用認定証」というのを申請して医療機関の窓口に提出する必要があるわけですが、マイナンバーカードで医療機関を受診するとその上限が一目瞭然となるため、「限度額適用認定証」というのをいちいち申請する必要がなくなります。

加えて、たとえば結婚して姓が変わったり、転職して職場が変わると従来の保険証だとそのたびに保険証を新たに発行しないといけなかったわけですが、マイナンバーカードを保険証として利用すればそのようなライフスタイルの変化があっても同じマイナンバーカードを使えばいいので手間が省けます。

そして、確定申告も楽になります。

従来は医療費控除の申請をするのに領収書を集計したりする必要がありましたが、マイナンバーカードを使えば保険診療で受診したものに関してはマイナンバーカードの情報からe-taxへ連動することが可能となります。

自費診療部分はマイナンバーカードでの把握はできないためこれは別に自身で集計が必要だろうと思いますが、少なくとも保険診療の部分の集計は不要となります。

一方で、医療機関ではマイナンバーカードの保険証利用をするために「顔認証付きカードリーダー」の設置をするのに医療機関に補助金を出してその設置を進めていき、マイナンバーカードの保険証利用を促進していくようです。

このマイナンバーカードの保険証利用というのは、医療情報とマイナンバーカードを一体管理することで医療サービスの向上を目指そうとするものです。そして、今回のデジタル庁の創設はそれをより一層進めようとするものです。

マイナンバーカードが医療情報と一体となるのは便利である反面、情報流出が気になる方もいらっしゃるでしょう。そういう方は便利な部分と見比べつつ、少し様子見でもいいのではないかと思います。大事なことは、国はマイナンバーカードの保険証利用を通じてマイナンバーカードの普及促進を図っている方向性であるということを知っておくことです。

来年の3月まではマイナンバーカードを使ってマイナポータルサイトでキャッシュレス決済サービスを登録することでマイナポイントがつくという特典もあります。マイナンバーカードを持っていないという方はこれを機に、まずは、マイナンバーカードの作成から入ってみてはいかがかと思います。



さて、今日は経理処理の話です。

助成金や給付金はいつ収入計上すべきなのかという話です。

コロナの関係で、雇用調整助成金緊急雇用安定助成金、小学校休業等対応助成金といった助成金を受給している中小事業主は多いことと思います。

また、持続化給付金家賃支援給付金、また、各都道府県などでやっている感染防止協力金といったものも受給している中小事業主が多いです。では、こうした助成金や給付金はもらったらいつ、どうやって経理処理すべきなのでしょうか?

まず、これら助成金や給付金は一般的には「雑収入」で計上することと思います。

ほとんどが入金した時に 

(預金)/(雑収入)×××

と仕訳をすると思います。たぶんこれが最も多い、一般的な処理と思います。

通常はこれでいいと思います。問題なのは、これが期をまたいだ時です。

たとえば、7月決算法人だったとします。雇用調整助成金で支給申請したのが7月で、7月末時点ではまだ入金されていなかった分があったとします。これは特に経理処理はしなくていいのでしょうか?

この答えは法人税法の基本通達2-1-42法令に基づき交付を受ける給付金等の帰属の時期)というところに載っています。では、この通達をみてみましょう。

2-1-42 法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費をするために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。

(注) 法人が定年の延長、高齢者及び身体障害者の雇用等の雇用の改善を図ったこと等によりこれらの法令の規定等に基づき交付を受ける奨励金等の額については、その支給決定があった日の属する事業年度の益金の額に算入する

ここで言っているのは、助成金や給付金・補助金といったものは二つ経理処理の仕方があるということです。

一つは「経費を補填するためのものなのであれば期をまたぐ場合には「未収入金」として収入計上しないといけない

といっています。

雇用調整助成金緊急雇用安定助成金小学校休業等対応助成金といった助成金は実際に「休業手当」や小学校休業等対応助成金の場合には法定の年次有給休暇以外の有給の休暇という形で人件費の支出があります。こうした経費を補填する目的なので、こうした助成金はこの通達で言っている「経費を補填するため」の助成金に該当します

たとえば、人材開発支援助成金のような一定の研修にかかった費用(人件費を含めた費用)を補填するための助成金も同様の考え方となります。

このように経費を補填する性格の助成金は経費が上がっている期にそれに対応する収入である助成金も収入計上して収入と経費でセットで同じ期に計上しようとしているわけです。

一方で、助成金の性質が「経費を補填する」という目的でないものは「支給決定があった日」に収入計上する

こととなっています。

具体的には、労働局からくる支給決定通知書が来たらその日付で計上していくというようなことだろうと思います。

この通達では「65歳超雇用推進助成金」や「特定求職者雇用開発助成金」といったものを想定しているのだろうと思います。

また、この通達には書かれていませんが、そうした助成金の性質でわけるのであれば、近年、助成金で使われることの多い、「キャリアアップ助成金」は直接的な経費があってそれを補填するという性格ではないと考えられるので、後者の助成金、つまり、支給決定があった日に収入計上する助成金なのではないかと思われます。

さて、持続化給付金家賃支援給付金、あるいは各都道府県などでやっている感染防止協力金ですが、こうした性格を踏まえると、これらは後者、つまり支給決定があった日に収入計上するということになります。

これらの給付金は支給するための要件に該当はしていても、実際に審査があって支給決定があるという流れになるわけで、支給決定があるまで実際に支給されることが確定しているわけではありません。そうしたことから考えると、持続化給付金や家賃支援給付金、感染防止協力金の類は支給決定した日に収入計上することになります。

さて、もう一点付け加えておきます。

一番最初に助成金について、勘定科目は一般的には「雑収入」で計上すると書きました。多くの方はそのように書いており、それは別に間違いではありません。それでもいいのですが、私は「雑収入」ではなく、人件費の下に「人件費等補填助成金等収入」という科目を作って、費用のマイナスとして表示することをお勧めしています。理由は多くの助成金にある「生産性要件」という指標がよくなり、助成金が増える可能性があるためです。この話は以前の私のブログに書きましたので、参考にしてみてください。

参考になりましたら幸いです。

以上、今日は助成金や各種給付金の収入計上時期のお話でした。



さて、今日は助成金の申請期限延長の話です。

雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金の支給申請について、申請期限が延長されていますから十分に留意しましょう。

具体的に延長の対象となるのは「雇用調整助成金」「緊急雇用安定助成金」「新型コロナウィルス感染症対応休業支援金・給付金」です。

具体的には、令和2年1月24日から5月31日までに判定基礎期間の初日がある休業については、8月31日を申請期限としていましたが、1月24日から6月30日までに判定基礎期間の初日がある休業については申請期限が9月30日までとされています。

ただし、緊急雇用安定助成金や休業にかかる休業支援金・給付金についてはそもそも4月1日以前は申請自体ができません。したがって、これらは4月1日以降になります。

緊急雇用安定助成金は雇用保険に入っていない人が休業した場合の雇用調整助成金のような制度です。休業にかかる休業支援金・給付金(新型コロナウィルス感染症対応休業支援金・給付金)は休業手当が支給されない事業所で働いていた方について、ご自身で申請する場合の給付金です。これらは4月1日以降の休業しかそもそも対象となっていませんから改めて注意してください。

なお、7月以降の休業についての申請期限は各々、次のようになっています。

休業した期間が7月中・・・10月31日(土)

休業した期間が8月中・・・11月30日(月)

休業した期間が9月中・・・12月31日(木)

それぞれ郵送で提出する場合には、これらの期限に届いていることが要件です。

税務に慣れている人は、発信した日(郵送だと郵便局が受理した日)が期限内であれば有効と思っていますが、そこは助成金は書類が到達した日が受理日となりますから、期限が近くなった場合、注意しましょう。

今日は雇用調整助成金等の期限が延長されているという話でした。



国の家賃支援給付金を受給している場合には、東京都内に事業所がある事業者については東京都内の事業所について、家賃支援給付金の上乗せ支給を受けることができます

まずは大前提として国の家賃支援給付金を受給していることがあります。

申請には家賃支援給付金の通知書が必要となります。

国の通知書に記載される申請番号などを記載していくことになります。ですから、国の家賃支援給付金を受給していて、なおかつ、家賃支援給付金の通知書が来ている人が対象となります。

さらに、東京都内に事業所があって、東京都内にある事業所の家賃を支払っている場合にその支払っている家賃が支給の対象となります。たとえば、東京都内に本店所在地や住所地があっても、家賃の支払いがあるのが東京都外にある事業所の場合には対象にはなりません。また、東京都内と東京都外に事業所がある場合には東京都内の事業所のみが対象となります。都内で複数の土地又は建物を借りている場合は、その合計額となります。

逆に、本店所在地や住所地がなくても東京都内に事業所があれば都内の事業所の家賃は対象となります。

さて、給付金の金額ですが、次のように計算されます。

基準額が、75万円までは12分の1

75万円を超える部分については24分の1

給付額:基準額※1×給付率×3か月分

※1都内で複数の土地又は建物を借りている場合は、その合計額

たとえば、月の家賃が10万円の場合、25,000円となります。20万円の家賃だったとして50,000円、100万円だったとして218,750円となります。

さて、この東京都の家賃支援給付金の上乗せ支給の注意点です。

まず、「国の家賃支援給付金+他の地方自治体の家賃等支援金+都の家賃支援給付金の合計額が家賃等の総額(月額)の6倍を超える場合、その超える部分の金額を都の給付金から減額します。

家賃の支払額の6倍の金額と比較します。特に、市区町村で家賃支援給付金のような給付金がある自治体があります。その場合にはそれらを含めて家賃の6倍以下となる金額が対象となります、一見するとわかりづらい算式かもしれませんが、算式に当てはめて考えていけばお分かりになると思います。

また、たとえば、住居兼用、転貸、自己取引又は親族間取引に該当する部分は含みません。住居兼用の場合にはそもそも対象外ですし、親族間の賃貸借は対象外となっていますからその点も留意しましょう。

それから、原則、申請はインターネット経由です。インターネットでの申請ができない場合にのみ、郵送での受付が可能とされています。

この東京都の給付金は国の家賃支援給付金を受けて支給されるもののため、申請期間が、令和2年8月17日(月曜日)から令和3年2月15日(月曜日)までとなっていて、国の家賃支援給付金のあとに申請する形で段取りされています。

申請に際しては誓約書や確定申告書等、それほど難しい書類は要求されていません。金額はそれほど大きな金額にはなりませんが、国の家賃支援給付金を受け取ったときには、都内に事業所があれば対象になります。くれぐれも申請のし忘れに注意しましょう!



新型コロナウィルスの社会保険料の特例の話です。新型コロナウィルス感染症の影響によって休業したことで給与が下がった場合に、下がった月の翌月から社会保険料を下げることが可能となりました。

まず、通常の場合との比較で考えてみましょう。

原則的な月額変更の場合、報酬が下がった月から数えて4ヶ月後から社会保険料が変わります。たとえば、4月に報酬が下がったとすると4月から6月の3ヶ月の平均でみて社会保険の報酬の等級表で2等級下がったら対象になります。つまり、4月に給与が下がっても社会保険料の変更がかかるのは下がった月の4ヶ月後の7月分の社会保険料から社会保険料が改定となります。(例えば末日締めの翌月10日支払いの事業所だったら8月10日支給の給与から改定となります)また、原則的な月額変更の場合、「固定的賃金の変更」というのが要件となります。つまり、4月~6月の間に仮にコロナの影響で給与が下がったとしても、そもそも基本給(日給や時間給の場合にはその単価)が下がっていなければ原則的な月額変更の対象とはならないわけです。

さて、この比較でみると今回のコロナの特例の月額変更がよく理解できると思います。この特例を使うための要件は三つです。

新型コロナウイルス感染症の影響による休業(時間単位を含む)があったことにより令和2年4月から7月までの間に、報酬が著しく低下した月が生じた方となっています。

この期間内にコロナのために休業し、報酬が下がたことが一つ目の要件です。

著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1か月分)が、既に設定されている標準報酬月額に比べて2等級以上下がった方が対象です。

この報酬が下がることというのは通常の月額変更の場合の要件の固定的賃金(基本給、日給や時間給の単価等)の変動がない場合も対象となります。つまり、月給、日給、時給の単価の変更はなく、コロナのために出勤日数が減って給与が減った場合も対象になります

③この特例を使って社会保険の月額変更をすることに本人が書面により同意していることが必要です。

これは本人から同意書を取るなどする必要があります。この本人からの同意書というのは「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う標準報酬月額の改定に係る同意書 (月額変更届(特例)用)」という参考様式もあります。それに書いてもらうのがいいだろうと思います。

この特例は令和2年4月から7月までの間に、新型コロナウィルス感染症のために休業になっていることが前提です。その休業期間中に報酬が1か月でも下がったら、下がった月の翌月の令和2年5月 から8月分保険料が対象となります。また、固定的賃金の変動というのが要件にありません。

令和3年1月末日までに届出があったものが対象となります。それまでの間は遡及して申請が可能です。ただし、厚労省は「給与事務の複雑化や年末調整等への影響を最小限とするため、改定をしようとする場合はできるだけ速やかに提出をお願いします。」としていますから、この特例を使うのだったら早めに届け出をしたほうがいいでしょう。

では、実際にどのように届け出をすればいいのでしょうか。

まず、「月額変更届(特例改定用)」という用紙があります。

その用紙を使って出すことになりますが、これは通常の月額変更届を使ってもいいだろうと思います。通常の月額変更届にまずは「特例」と書きます。次に、⑦欄の「降給」にマルを付し、⑱欄の備考欄の6にマルを付して「特例改定」と書いて出します。手書きの用紙を出す場合には、通常の月額変更の用紙にこれらの項目を書いて出してもいいだろうと思います。

さらに、この月額変更の特例を使う場合には、「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う標準報酬月額の改定に係る申立書」という決まった書式があり、それを添付し管轄の年金事務所に申請することになります。

それから、この特例を使うには本人の同意が必要です。それは社会保険料の月額を低くするということは他のことに影響があるからです。たとえば、傷病手当金を受給する場合、月額報酬を低くすれば、その低くした金額を元に傷病手当金が計算されることになります。また、年金額も下がることになります。つまり、ご本人にとって不利益になる部分もあるためご本人の了解が必要なわけです。

また、このご本人の了解したことについての書類はこの特例の月額変更届を提出する際に添付する必要はありません。後日、 事業所への調査などの際に確認を求める 場合がありますので、届出日から2年間 は書類を保管しておいてください。

それから、給与を支給していない場合も対象となります。実際の給与支給額に基づき標準報酬月額を改定することとなり、 報酬が支払われていない場合は、今回の 特例改定に限り、最低の標準報酬月額 (健康保険は5.8万円、厚生年金保険は 8.8万円)として改定することとなります。また、支援金(新型コロナウイルス感染症対応休業支援金)を受ける場合でも、特例改定の対象となります。支援金は、給与支給額には含みません。

それから、最後に、このコロナの特例の月額変更と使ってそのあと給与が通常通りに回復した場合の話です。

今回の特例改定に限り、休業回復した月から継続した3か月間の平均報酬が 2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動の有無に関わりなく、必ず月額変更届の届出が必要です。

コロナの休業特例を使う場合も「固定的賃金」の変動は要件とはなっていませんが、休業から回復した場合にも「固定的賃金」の変動は要件となっていません。なお、実際の報酬支払の日数が17日以上(特定適用事 業所等の短時間労働者は11日以上)となった月でみていきます。

日本年金機構のこの特例の説明は以下にもありますから参考にしてみて下さい

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.html

今日はコロナ特例の社会保険料の月額変更の話でした。