今日はご質問いただくことも多い「滞納」の話です。
税金や社会保険料、労働保険料を滞納するとどうなるのでしょうか?
滞納について、書いてある記事はインターネット上にも多いのですが、税金、社会保険料、労働保険料をそれぞれ並べて書かれているものはほとんどないようです。ですので、今日は税金と社会保険料、労働保険料の滞納をそれぞれ比較しながらみていきたいと思います。
滞納と言っても様々です。資金繰り上、払えなくて滞納する場合もあれば、単純に納付するのを忘れていたということもあります。場合によっては、わざと払わずにいてなんとか払わないで済ませられないかと考えるような悪質なケースもあります。それぞれ納付期限がありますから、支払いが期限を遅れれば利息にあたる「延滞税(金)」が生じます。これは理由がどうであれ同じです。ですが、少し、計算の仕方が違います。簡単にいえば、支払うのを単純に忘れていたというような場合には、少し寛容です。気づいた時点ですぐに支払えばそれほど大きな傷にはなりません。一方で、滞納期間が長期間に及ぶような場合には、計算の仕方も厳しくなります。
では、どのような計算の仕方になっているのでしょうか?
実は、延滞税(金)の計算の仕方自体は、税金・社会保険料・労働保険料はともに共通しています。
原則;年利8.9%
ただし、納付期限から2か月以内(社会保険料の滞納の場合には3か月以内)は年利2.6%
労働保険料と税金の滞納の場合には納付期限から2か月以内だったら年利2.6%で、社会保険料の場合には3か月以内だったら年利2.6%です。それを過ぎると、年利8.9%です。
この利率は「特例基準割合」という率に拠るため、率については年によって変わりますから注意が必要です。
さて、最初の2か月ないし3か月は年利2.6%と低くなっているのはなぜでしょうか?これは、たまたま忘れてしまったというようなうっかりミスに配慮しているためです。ヒトのやることですから、たまたま納付し忘れることはあります。それに配慮しているわけです。
また、社会保険料の滞納は3か月になっています。労働保険や税金は2か月であるのに比べると少し運用が緩やかになっています。これは私の推測ですが、社会保険料の滞納は非常に件数も多いようです。金額も大きくなりがちだからです。そうした事態を考慮しているのではないかと思っています。
また、年利ですから、納付期限の翌日から納付の日までの期間を日割り計算します。日割り計算して100円未満になったら切り捨てになります。また、延滞金を計算する前のもとになる金額は社会保険料や労働保険料は1000円未満が切り捨てになります。一方で、税金の滞納についてはもとになる税金が10000円未満だと切り捨てになります。つまり、社会保険料や労働保険料の場合、納付していないのが千円未満だと延滞金が出ないわけですが、税金の場合には1万円に満たない場合に延滞税が発生しないことになっているわけです。
もう一つ、違いとしては経理処理です。
延滞金や延滞税はどのように経理処理するのでしょうか?
税金の滞納の場合の「延滞税」は「租税公課」で処理します。経理上は「租税公課」ですが、損金不算入(個人の場合には必要経費不算入)です。つまり、税金の計算上は落とすことができないわけです。一方で、社会保険や労働保険の滞納の「延滞金」は損金算入(個人の場合には必要経費算入)できます。損金不算入とされる項目の中に社会保険料や労働保険料が入っていないため、経費に入れて税金の計算上は落とすことが出来るわけです。
勘定科目は一般的には「法定福利費」になるでしょう。「法定福利費」で経費として計上しましょう。
それにしても、税金、社会保険料、労働保険料と、それぞれ基本的な計算部分は同じですが、微妙に違いがあることがわかりますね。
あとは、予断的な話をいくつかしていきましょう。
まず、労働保険料の滞納をした場合の問題点は労災保険が使えなくなるケースがあるということです。労働保険を滞納中に労災事故が起こった場合、「費用徴収制度」というモノがあり、これに触れる可能性があります。労災は業務上の災害が起こった場合、原則、治療費はかからずに治療できますが、労災保険料を滞納中に労災の事故が起こると、治療費の40%かもしくは100%負担しないといけなくなるわけです。100%負担というのは、再三の労働保険料の納付の催促に応じないなどの悪質なケースですので、一般的には40%の負担が出てしまうというケースでしょう。
それから、労働保険料の滞納があると原則、助成金の受給ができません。助成金の支給申請の書類の中に「支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度における労働保険料の滞納がある」という項目があり、「いいえ」とチェックさせるのです。労働保険料の滞納があると助成金が受給できなくなっているわけです。助成金は労働保険料を財源にして支給されるものですから当然と言えば当然です。助成金を受給しようと思うのでしたら労働保険料はきちんと完納したほうがいいです。
また、税金の滞納があると、金融機関で借入する際に支障が出ることが挙げられます。金融機関で借入する場合には「納税証明書その3」というのを取るように言われることがあります。この「納税証明書その3」というのは未納の税金がないことの証明です。通常はこの未納がないことの証明は法人税・地方法人税(個人の場合には所得税)のことです。源泉所得税や消費税の未納の証明までは言われないケースが多いです。
また、最近は金融機関は社会保険料の滞納がないことの証明も求めてくることがあります。
いずれにしても、税金や社会保険料の滞納があると、金融機関の借入の際に支障が出るということです。
最後に、いろいろな事情で資金繰り上、税金にしても社会保険料にしても労働保険料にしても、どうしても納付できないこともあると思います。その場合には、税務署や年金事務所、労働基準監督署に納付の相談に行くことをお勧めします。納付できないから無視するというのは、延滞税(金)が嵩み、場合によっては強制執行につながることもあり得ます。逃げるのではなく、行政と真摯に話し合うことが必要だと思います。